卓球
遅くてごめんなさい。
そして、短い・・・
重ね重ね申し訳ない。
「対戦はくじ引きで、11人いるから一回戦は一人だけ不戦勝ね。」
佐倉さんがそう言って取り仕切っていく。
「二回戦は6人だけど。準決勝は3人だよね。トーナメントはどんなふうに作るの?」
晶がそう言って佐倉さんに質問を投げかける。
それは確かに思うところだ。
「全ての回戦の前に残っている全員でくじを引いて、一番の人から相手を指名してその人と対戦していく方式でいこう。勝ったら抜けて数の若い人から順番にこの方法で戦っていく。」
「なるほど。一番を引いた人はどの回でも戦わないといけないけど戦う相手を決めれるのか。いいんじゃないのかな?」
俺はその提案に肯定する。
まぁ、俺の場合は勝った時の報酬がないことが一番の問題なのだが・・・
「おいおい、旦那。優勝した時のご褒美がないからってそんなしけた面はどうかと思うぞ。」
どうやら顔に出ていたらしい。
俺は苦笑いを浮かべながら弁解を考えるが、いい回答は出て来ない。
今回の件で旅館代を払って、おまけに卓球大会の優勝賞品代まで払わされるのだ。
優勝しても自分で欲しい物をただ買うだけなのだ。
これでモチベーションを上げろというのはいくらなんでも無理だろう。
「ふふん。そんな旦那のために旦那の優勝賞品は別に用意してますぜ?」
佐倉さんはそう言ってにこやかに微笑む。
俺は「賞品ってなんだろう?」と小首を傾げながら少し期待した。
例え優勝賞品でも商品がもらえるのだ。
しかも、他の人達の優勝賞品が俺からということは俺もこの中の誰かから貰えるということだ。
それはつまり、女の子から何かもらうという嬉し恥ずかしのイベントだ。
女性に縁のない俺は内心の喜びを悟られない様に気をつけながら佐倉さんを見据える。
「それは・・・♪」
佐倉さんは俺をからかう様に笑顔でもったいぶる。
女性のこういう行動に体制の無い俺はどうすればいいの分からない。
「ふふ。 智坂君の優勝賞品は来年のバレンタインデーにここにいる全員からのチョコだよ。」
と、横から割り込んできたのは円楽さんだ。
佐倉さんは「ああ!いうなよ~!」と頬を膨らませて唇を尖らせて円楽さんに抗議の声を上げる。
だが、そんなものは俺の耳には入ってこなかった。
本来ならば手放しで喜ぶべきところなのだが、俺の喜びなど何の話も聞いていない彼女達からの抗議で一気に掻き消える。
「え?! そんなの聴いてませんよ?!」
とまず声を上げたのは橙子ちゃんだった。
その後に続いて黒条さんと紫原さんもそれに続く。
やはり俺同様、何の許可なく優勝賞品を佐倉さん達四人は勝手に決めたらしい。
ブレザーハートの5人からは『バレンタインチョコ』の一言に動揺しているらしい。
(そうだよね・・・ 女の子にとってバレンタインは神聖なものだもんね・・・ 『知り合い』レベルの男にチョコを渡すだなんて気が引けるよね・・・)
俺は少し落ち込んでしまう。
逆に晶は毎年俺にチョコをくれるので「私には関係ないな」とでも言いたげな表情で仁王立ちしている。
優勝賞品も特に欲しいものはないのだろう。
まぁ、兄がフレイムバサラとして稼いだお金が大量にあるのでお金に困ったことはないし、俺からのプレゼントも毎年誕生日とホワイトデーのお返しで年2回は貰っているので俺から何かを強請る必要は晶にはない。
(そうだよなぁ~・・・ やっぱり晶はともかく橙子ちゃん達にはあまりいい話じゃないか。)
「はぁ、俺の優勝賞品は無しでいいからそんなに揉めないで、ね?」
と俺は優しく3人を宥めることにした。
「「「え・・・?」」」
俺が諌めるとなぜか3人は氷の様に固まって動かなくなった。
一体何があったというのだろうか。
ああ、そうか。橙子ちゃん達は優しいからきっと俺だけ優勝賞品がないことを気にしているのだろう。
俺は彼女達の心労を取り払う為に「大丈夫だよ。優勝すれば出費がなくなるから気にしないで」と微笑んだ。
そんな俺を見て彼女たちはさらに暗くなる。
いったいなぜ・・・?
智坂さんの優勝賞品問題に対して恥ずかしがり屋の3人は講義の声を上げる。
だが、それを諌めたのは誰であろう智坂さん本人だった。
(智坂さん。あなたは何もわかっていない。)
私は智坂さんの鈍感さに心底呆れてしまう。
「智坂さん。彼女たちが抗議をしたのは嬉しさを隠す為で決して本意ではないのですよ?」と言ってやりたいがそれをいうと彼女たちの心の内に秘めた思いを暴露をすることになってしまう。
観察者の私としてはこの面白い状況をもう少し見守っていたいのでそんなことを言うことはできない。
だが、智坂さんの一言で彼女達のやる気モチベーションは一気に転落した。
まぁ、そうだろう。
彼女達の心の中では(智坂さんが優勝したらバレンタインチョコを渡す口実ができる!)という打算があったのだ。
それを誤魔化す為に抗議をしたにすぎない。
本来ならばやんわりと誰かが彼女たちを諌めて『渋々やることになった』という流れになるはずだったのに彼女達の目論見は一瞬にして崩れ去った。
(このままではいけない・・・ どうにかして助け舟を・・・)
と思って何かいい案はないかなと思い親友の麗にアイコンタクトを送る。
麗は私の視線に気が付くとコクリと頷いて話に割って入った。
「まぁまぁ、友チョコと思えば別にいいのでは? 女性に一生縁のなさそうな智坂さんに夢を見せてあげるのもヒーローの務めかと、それに智坂さんにだけ優勝賞品がないのは不公平ですわ。正義の味方としてその事態は防ぐべきだと思いますわ。」
といって美咲、深歩、橙子、智坂さんの4人を諌める麗。
麗の言葉に3人は「そういうことなら仕方がない」とあっさり頷いた。
その眼には恋する乙女の期待に満ちた輝きが宿っている。
だが、恋する乙女たちよ。
君たちの横でその意中の相手が今にも泣きだしそうな顔をしているよ?
ああ、智坂さんが「まぁ、3人がそれでいいなら・・・」と言って去っていく。
その頬には一筋の涙の痕が見える。
そんな智坂さんの悲しみを余所に3人はものすごく良い笑顔を浮かべている。
私は心の中で大爆笑した。
『グッジョブ!』と麗に賛辞を送りながら・・・
「じゃ、話もまとまったところでくじ引きやろっか。」
そういってくじを手に持つ山中さん。
私達はそれぞれくじを引いて第一試合が始まるのだった。




