というわけで・・・
「というわけで、旅館内での監視は轟に任せた方がいいと思うんだ。」
俺は風呂場で話した轟との話を部屋に帰ってみんなに話した。
話を聞いたみんなは神妙な顔つきをしていた。
特に晶は部屋に帰って来てから俺の方をずっと見ている。
非常にその視線が気になるのだが、今はできるだけ気にしないようにしよう。
「そうですか・・・ でも、轟さん・・・ いえ、ブラックサンダーさんはこの周辺のヒーローなんですよね? そうすると、彼を通して同じ地区に所属するヒーローの方々に情報が漏れてしまうのでは・・・」
黒条さんが心配そうな顔で俺に視線を向けてくる。
「ううん・・・ でも、同じ地区のヒーロー同士だからってそんなに頻繁に連絡取りあうわけじゃないよね? それに、彼も現状の危険性は理解してるだろうからそんなことはしないと思うよ。」
俺は彼女達に「ヒーロー同士ってそんなに頻繁に連絡取りあうの?」と質問を投げかけつつ「大丈夫だろう」という自分なりの回答を提示する。
一つ目の質問は彼女達の内情を知らないただの一般人を装うためのものだ。
本当は悪の組織の一員としてヒーロー同士の横のつながりが薄いことは知っている。
さらにいうなれば、ヒーロー同士の横のつながりが薄いのはヒーロー間の話し合いの場を協会がわざと作らないということまで把握している。
なにせ、軍隊ですら太刀打ちできない悪の組織と戦い勝利を収めるのがヒーローだ。
そんなのが仲良くなって徒党を組んだら悪の組織以上の脅威でしかない。
もしくは、逆に不仲になられても困る。
なにせ、ヒーローとは超常の力を持つ超人たちだ。
そんな奴らが街中で喧嘩なんて起こしたらただじゃすまない。
喧嘩じゃなかったが俺を襲ったスーパーマンジュニアとブレザーハートやリリカルハニー戦の二の舞になりかねない。
あの時は死者は出なかったが、家の壁や道路はボコボコになっていた。
聞いた話ではその時に飛び散った壁のかけらなどで近くの家の住人に怪我人が出ているそうだ。
そんな理由もあってヒーロー同士の情報交換はすべて協会を通じて行われる。
(そんな裏事情に一般人の俺が通じていることがバレないように気を付けないとな・・・)
悪の組織の一員の俺が正義の味方である彼女たちと共に行動する危険性に内心冷や汗をかきながらも俺は出来うる限るの平静を装うのだった。
「じゃ、私たちは一旦このことを上伊集院さんたちに報告してからお風呂いこっか。」
晶がこの状況を打破するように明るい笑顔でそういった。
そういえば彼女たちは俺がお風呂に行っている間も部屋で何かの話をしていたな。
現役女子高生の会話に参加できないので全く聞いていなかったがいったい何の話をしていたのだろうか。
気にはなったがさすがに聞くことはできない。
そうして、俺がボーっとしていると晶は橙子ちゃん達と共にお風呂に向かっていった。
連絡はもう一つの部屋に泊まっている人達に伝えた後で行うらしい。
さすがに向こうの部屋も女性しかいないので俺は行くことはできない。
そんなわけで1人お留守番なんだが・・・
何だろう・・・
右を見ても左を見ても女性の荷物が目に入る上に先程まで女の子が6人もいたのでなんだか甘い香りがする気がする。
「居心地が悪い・・・」
というわけで、部屋を後にすることにした。
部屋から出て歩いているとなぜか兎を見つけた。
『なぜ兎が?』と思わずにいられないがとりあえず無視した。
ただ兎は可愛いからかお客さんが
部屋を出て俺が向かったのは卓球場。
温泉旅館なら必ずあると言ってもいいレジャースポットだ。
「あれ? 智坂さんじゃないですか。」
「ん?」
名前を呼ばれてそちらを向くと卓球場の一角に別の部屋に泊まっている晶の仲間達がいた。
どうやら四人で卓球をしているらしい。
俺を呼んだのは普段は髪をツインテールにまとめている佐倉さんだ。
現在は四人とも風呂上りの為か浴衣を着ており、佐倉さんは髪を括っていない。
「君もやらないか? 私達は諜報部だから君とあまり交流ないしこの機会にどうだろうか?」
黒髪ショートの山中さんがそう言ってお誘いしてくれる。
「いいんですか? ありがとうございます。 卓球は一人じゃできませんからね。」
俺は嬉々として山中さんの話に乗った。
こうして、俺は彼女たちと卓球を楽しむことになった。
ただ、俺はこの卓球が波乱を呼ぶとは思っていなかった。
「フン!」
パコン!
「きゃ!」
俺の華麗なスマッシュに女の子が返球できずに悲鳴を上げる。
悲鳴を上げたのは女の子らしいふるゆわカールの髪を持つ上村さんだ。
「ゲームセットだな。智坂君は卓球も強いんだな。」
そう言って審判役である円楽さんが勝者である俺を褒めてくれる。
円楽さんは茶髪に染めた髪をポニーテールにまとめていて、なんだか卓球をやる気満々だ。
「あ、徳兄さん。こんなところにいたんですか。」
そう言って卓球場に入ってきたのは晶だった。
ブレザーハートの5人も一緒のようだ。
お風呂上りの為か皆、髪が少し濡れておりいつもより艶やかだ。
目のやり場に困っていまう。
「お。君たちもどうだい? 一緒に遊ばないか?」
山中さんがそう言って6人に声をかける。
「いいですね。やりましょう。」
晶は2つ返事で言葉を返すが、後ろで橙子ちゃんが心配そうにそれを見ている。
「橙子。気分転換にちょうど良さそうだし、やりましょうか。」
それを見た黒条さんが橙子ちゃんに話しかける。
「え、でも・・・ 監視の方はいいのでしょうか?」
「さっき話して、ブラックサンダーさんに任せるって決めたじゃない。それに私達にバレない様に人を監視するなんてできないでしょ?」
不安気に告げた橙子ちゃんの発言を紫原さんは真っ向から切って捨てるとラケットを手に取った。
「面白そう。」
「フフフ。私もやってみましょう。」
碧ちゃんも藍波さんもやる気の様だ。
橙子ちゃんも皆がやる気になったので渋々といった様子でラケットを手に取った。
「じゃ、どうせならトーナメント方式で試合しちゃおうか。」
「お、いいね。」
円楽さんの提案に山中さんが乗った。
「それなら、いっそ何か賭けない?」
佐倉さんも乗り気なようで賭けの追加を申し出る。
「ううん。皆さんの実力が分からないからそれはどうなんでしょうか?」
晶が賭けに対して少し眉を顰める。
実力差によっては勝てる勝てないが決まっているのでそう思うのは仕方がない事だろう。
「何言ってるの。ヒーローなんて相手の能力も実力も分からんなくても戦わなきゃいけないのよ?それに比べれば全然ましでしょうが!」
円楽さんがそう言って晶の言葉を否定すると晶も反論できないのか。
渋い顔をして納得した。
「大丈夫大丈夫。負けたらじゃなくて優勝したらご褒美があるって無い様にすれば問題ないでしょう。」
「そういうことなら・・・」
という風に黒条さんが頷くとその場にいた全員が頷いた。
俺も特に異論はないので何も言わない。
「じゃ、優勝者は智坂さんから好きな物買って貰えるってことでいいよね?」
「え? なんで俺なの?」
佐倉さんが突如として聞き捨てならないことを言い出した。
俺は思わず声を出して反論してしまう。
「ええ、いいじゃん! 負けても女の子に贈り物できるんだよ? これはビッグチャンスだよ!?」
佐倉さんは悪びれもなさそうに楽しそうにそう言った。
確かにそうかもしれないが、それだと俺が優勝した場合は自分で自分へのご褒美を買うことになる。
それはさすがに寂しすぎるだろう。
周りの皆は俺がお金を出すからか特に異論はないらしい。
(ど、どうしよう・・・ 優勝したら智坂さんからプレゼントがあるだなんて・・・)
絶対に優勝したい!!
智坂が知らぬ間にブレザーハートの何人かと晶の心の声はこの時見事に一致していた。
(ふむ・・・ これは面白そうだ・・・)
碧も楽しげに微笑を浮かべてそれを見ている。
(どうしましょう・・・ こんな薄らトンカチの朴念仁からの貢物なんて興味ありませんわ・・・
でも、それを言ってしまっては期待されている他の皆さんに失礼ですし・・・)
藍波だけなぜか少しテンションが下がり、勝負をしようと申し出た4人を見た。
(フフフ・・・ これで念願のバックが手に入るわ・・・)
(この勝負に勝って欲しかったバイクを買って貰おう・・・)
(智坂さんってこの旅館に泊まる為の11人分の旅費をすぐ出せる人なんだよね・・・? かなりのお金持ちなのかな? だとしたら、結構な額のものを頼んでもいいのかな?)
(もうすぐ、新車が出るのよね・・・)
という、邪な感情が見て取れた。
(智坂さんも可哀想に・・・)
藍波は少しだけ智坂に同情の念を送ったのだった。




