対決! 父と娘
電撃娘と業火を操る父の対決は始まってみれば一方的だった。
対決開始の位置から動かない父に対して開始直後から積極的に動き回る娘。
(いや、正確には逃げ回る娘だな。)
2人の戦いを見つめながら上伊集院はそんなことを思っていた。
(噂によれば、フレイムバサラの放つ炎はただの火炎ではない。威力を制限することで燃やしたいモノだけを燃やすことができ、その対象は通常の物質だけではなく能力でさえ燃え散らすことができる。故に一度でも全身が炎に包まれれば能力を燃やされて使えなくなる。)
この噂は戦いが始まる前にすでに晶には話してある。
だから、様子見で電撃と炎をぶつけ合った瞬間にこの噂が事実だと私達は思っている。
初撃の炎と電撃のぶつかり合いの決着は一方的だった。
晶の放った電撃をまるで紙か何かのように燃やしながら突き進む炎が呑み込んだのだ。
それを見た瞬間に晶は攻撃を控えて逃げに徹している。
「これで、どうだ!」
晶は磁力を使って砂鉄の剣を作るとそれを空中で蛇のようにうねらせながら近づけていく。
だが、その瞬間にフレイムバサラが炎を放って砂鉄を焼いた。
焼かれた砂鉄は磁力を失ったかのようにパラパラと塵のように霧散していく。
「く・・・」
晶は歯を食いしばり残念そうにしながら砂鉄の剣を解除して逃げ回る。
フレイムバサラは逃げ回る晶を余所に適当に炎で攻撃しながら様子を見ている。
(電撃すらも燃え散らすフレイムバサラの炎に落雷や電撃は効果がない。砂鉄の剣も効かないじゃ残る手は・・・)
フレイムバサラの攻撃を避けながら御琴はポケットからコインを取り出した。
上伊集院がアニメを見て忠実に再現された貴重なコインだ。
ピィン
右手で弾いたコインが宙を舞う。
そのコインを見てフレイムバサラの攻撃が止んだ。
不可解な行動と宙に投げられたコインをゆっくりと眼で追い相手の次の一手を見定める。
戦いの中で彼が学んだことのうちの一つに敵の意味不明な行為中の攻撃は危険が伴うと知っているからだ。
美坂のこの行為は再現率を上げるための行為なのだがアニメを見ないフレイムバサラにはその行為の意味が解らなかった。
その間にゆっくりと回転しながら落下してきたコインを正確に見定めて指で弾いた。
その瞬間にコインは音速を遥かに超える速度で発射され一瞬のうちにフレイムバサラの元へと向かう。
これはアニメの美坂御琴の代名詞である超必殺技だ。
音速を超える速度で発射されたコインに驚きの表情を見せるフレイムバサラだった。
が、それは攻撃に驚いたのではない。
これほどの技が可能なのかということに驚いたのだ。
(俺は娘の能力を過小評価していたのかもしれんな・・・)
そんなことを思いながらもフレイムバサラは平然と炎の壁を自分と美坂の間に展開して発射されたコインを一瞬にして灰にしてしまう。
元々超高速で発射されたコインは空気との摩擦で遠くには飛ばせないが、フレイムバサラの炎でさらにその射程は短くなりフレイムバサラの元までは届かない。
「な・・・!」
驚きのあまり表情を歪め小さく声を漏らす晶。
最後の切り札をあっさり封じられて戦意を喪失しかけたのだろう。
その隙を突いてフレイムバサラの追撃が・・・
あるかと思われたが、それはなかった。
本来ならば戦意を失いかけたそのわずかな隙を突いて攻撃を仕掛けるべきなのだが、フレイムバサラは一向に攻め込もうとはせず火炎による適当な攻撃を繰り返す。
それを見て上伊集院はその不可解な行動の理由に付け込めないかと考えたが、よく考えればそれは当然のことだった
(フレイムバサラ・・・ 晶のお父上からすればこの勝負に勝つ必要はない。『何もできなかった』ただその事実さえあれば晶のヒーローへの夢を阻止できるのだ。)
相手が第一位のヒーローとはいえ結果が『何もできなかった』では判断の使用がない。
いや、寧ろ何もできない『雑魚』として処理できるのだ。
そのためにはフレイムバサラはできるだけ何もしない方がいいのだ。
無理に倒しに行けばフレイムバサラを苦戦させたと解釈される恐れがある。
(ただ何もしない。それで晶の・・・ 私達の夢は終わる・・・)
ただ繰り返される単純な戦闘を見つめているだけなのに時間が経つにつれて上伊集院の背中には焦りで冷や汗が噴き出してきた。
それは上伊集院だけではなく上伊集院の仲間達全て同じだった。
どんな能力者でもそうだが、その能力は無限に使える訳ではない。
晶がコスプレしている美坂御琴にも晶自身が持つ変身能力にも時間的、使用量的に限界がある。
それはフレイムバサラでも同じだろうが、第一位ヒーローのフレイムバサラと晶とでは能力の規模も時間も圧倒的に負けている。
「時間が経つだけ不利になるな・・・」
「いや~、時間は関係ないでしょう。怪我をする前に諦めてはいかがですか?」
上伊集院の言葉を聞いて小太りな役員小杉がそう忠告する。
小杉の忠告は意地悪などではなく親切心から来るものだった。
戦っているのが父と娘ということもあって小杉はこの戦いで怪我などがなく速やかに穏便に事が運ぶことを望んでいた。
だが、そんな小杉の期待を裏切るかのように上伊集院は笑った。
「悪いが、私達はこの戦いに勝つために準備をしてきた。この場で逃げる理由はない。総員配置につけ!これより、我らの最終作戦を開始する!」
上伊集院の言葉を聞いて皆は固唾を飲んだ。
それは上伊集院が用意していた作戦のほぼすべてを破棄していきなり最終作戦を実行するといったからだ。
短い準備期間に用意できた作戦はそれほど多くはなかったがそれでも、最終作戦をいきなり選択したのは他の作戦では効果がないと上伊集院が判断したからだ。
確かに、現状を見る限りでは小細工や中途半端な作戦では通用しない。
危険とリスクを伴うが、最終作戦以外に選択肢はなかった。
最終作戦用にすでにコスプレをしていた仲間達が所定の場所に移動すると同時に巨大なトラックと青いランボルギーニが登場した。
巨大なトラックは戦闘範囲外で停車すると同時に後ろの荷台部分の屋根を解放する。
するとそこには大きなロボットハンドが入っていた。
ロボットハンドの周りにもコスプレをした仲間達がスタンバっている。
「作戦名『シーン回想!』発動だ!」
上伊集院の言葉と同時に青いランボルギーニが美坂の下に向かって走る。
そして、フレイムバサラと逆側の位置で停車すると同時に助手席に座っていた末春と右天の2人が「美坂さん!」と叫び声をあげた。
それを聞いて晶も最終作戦決行を知る。
それとほぼ同時にコスプレをして外で待機していた面々が動き出す。
そこにいる全員がしているのは鋼鉄の錬金術師に出てくる錬金術師たちだった。
彼らは自分たちの知る知識をフル活用して錬金の方法のポーズを取ると錬金術を発動した。
錬成するのは巨大な高速道路。
錬金する場所は青のランボルギーニから美坂、フレイムバサラを直線でつなぐ地面一帯が盛り上がり巨大な道路へとその姿を変える。
1人1人の再現率が低いにも関わらずこれだけの広範囲を変形させられるのは複数人で一つのものを錬成しているからだ。
「・・・!」
突然の地形変化に驚きつつもフレイムバサラは冷静に周囲を観察して次の行動を注視する。
なぜこのようなことをするかは定かではないが、するからには何か意味があるのだろうということだけはフレイムバサラにも分かった。
そして、その行いは最終的には娘に関係してくることも分かっている。
なぜならばこの試験は娘の晶がヒーローになれるかどうかのものなのだ。
周りのものが手を貸してそれだけで勝利しても意味はない。
故にフレイムバサラの意識は娘の晶に向いていた。
ここまでは・・・
晶の仲間達が次にとった行動はトラックの荷台に積んでいた巨大なUの字型のロボットアームだった。
Uの字型のロボットアームは物を掴む為に開閉する仕組みで、今現在は閉じた状態なのでO字型になっている。
そんなロボットアームに触れるのは超能力学園の麗茶子だ。
彼女の能力は『物体の重量喪失』
つまり、物体の重量がゼロになるのだ。
無論、再現率の低い彼女の能力ではゼロにはできない。
故に彼女以外にも重力、物質の重量を操作する能力者が多数いた。
『黒い猫』のマロン、『装飾錬金』のヴェクター、『不要者』のゼドなどだ。
そんな多種多様なアニメから重量操作系の能力者を選んでコスプレしたのは他でもない。
このロボットアームを空に打ち上げるためだ。
そうやって軽くなったロボットアームは最後に各アニメの力自慢のキャラたちによって空へと放たれた。
「筋肉筋肉~♪」
「ふんぬらば!」
「吾輩の筋肉の見せ所であるな!」
複数の重力操作系能力者によって極限まで減らされたロボットアームは力自慢の男達の手によって天空へと投げられる。
ブォワ!!
「・・・!」
突如として天空に待った恐らく超重量の物質にフレイムバサラは思わず晶から目を離して見上げてしまう。
自分たちがいる即席の高速道路の下から天下高く舞い上がったそれに一瞬だった。
フレイムバサラの眼が一瞬離れた瞬間、晶は天空に舞い上がったロボットアームを一瞬だけ見て叫び声を上げる。
「だったら、見せてやるわよ!」
話の流れからして「だったら」は必要ないがこれはアニメのワンシーンの再現の為なのでここでは必要不可欠だった。
さらに、晶の叫びは続く。
「黒子~!!!!」
突如として呼ばれる誰かの名前。
当然、フレイムバサラにはそれが誰なのか。
その名を呼ぶことでどうなるのかはわからない。
だが、作戦の起点は撃ちあがったロボットアームだとはなんとなく理解していた。
(地面を変形させる能力者がいる)最初の即席での高速道路の錬金でフレイムバサラの選択肢から地面と隣接した場所にいる晶を攻撃するよりも空中のロボットアームの破壊の方が確実ということは瞬時に理解できた。
そして、フレイムバサラの炎ならばロボットアームにどんな仕掛けがあろうと対処できるという自信があったからだろう。
次の瞬間、フレイムバサラは空中に舞い上がったロボットアームに向けて炎を放った。
その炎が放たれる一瞬前に白黒子井にコスプレした晶の仲間がテレポートでロボットアームのすぐそばに移動してロボットアームに手をかける。
「お姉様!」
白黒子井に扮したコスプレイヤーは『お姉様!』と叫ぶとほぼ同時にテレポートの能力でロボットアームを美坂御琴扮する晶の前に転送する。
無論この転送も一人ではできないので遠くから同じテレポート系の能力持つ淡標結希や七大罪の魔法使いであるマリンやビビアナのコスプレをした仲間達が遠くからテレポートのサポートを行っている。
そんな何人もの人間の力を使ったアニメのワンシーンの再現。
止めの一撃はやはり彼女の手に託された。
「あたしが飛ばせんのはコインだけじゃない。これが私の全力っだぁ~!」
美坂は目の前に転送されたロボットアームに向けて全力の雷撃と拳を放つ。
その瞬間、ロボットアームは先程同じように発射されたコイン同様に音速の何倍もの速度で発射され一直線にフレイムバサラの下に向かう。
(なんだこれは・・・?)
そのあまりの一瞬の出来事にフレイムバサラの思考は一瞬止まりかけた。
それもそうだろう。
やっている本人たちからすれば作戦と原作をできる限り忠実に再現しただけだし、内容を知っているモノが見ればアニメのワンシーンだな。
ぐらいにしか思わないしろものだ。
だが、何も知らずにただありのままを見ているフレイムバサラには全く違う景色が映っていた。
突如変貌した地形、何かの合図かまたは武器なのかわからないものが天空に舞い上がり、それを合図かのように叫び声を上げる我が娘。
現状、最も確実に敵の次の一手を封じるために炎を放ったが、次の瞬間には標的が瞬間移動して先程のコインの様に超高速で打ち出されて自身に向かって飛んできているんだ。
向かって来る物質は先程の様な炎で攻撃を防ぐには質量が大きすぎるしろものだ。
故にフレイムバサラが咄嗟に取った行動はただ一つ。
全力での炎を纏った一撃による迎撃。
これ以外になかった。
全力というのは全能力の解放ではなく、全神経を使っての娘の攻撃の迎撃である。
その気になれば例え巨大なロボットアームといえど一瞬にして灰にできるが、それをする熱量を出せば周りにも被害が出る。
故にフレイムバサラは全力を出すことができない。
しかし、この攻撃は回避できる速度ではなく防御でしのぎ切れる質量や威力でもない。
そこで彼の取った選択肢は一つ。
相手の攻撃を相殺出来る熱量での迎撃だ。
それは大きすぎても小さすぎてもいけない。
大きすぎれば周りに被害が、小さければ自分がやられる危険があるからだ。
そのどちらを行っても晶は合格してしまうのだ。
なぜなら、周りに被害が出れば『そうせざるを得なかった』という評価につながり、自分が敗れれば『特定条件下でフレイムバサラを倒した』という評価をつけざるを得ない。
(娘を危険な道に連れ込まないために・・・ 危ない目に遭わせないために・・・ 父として負けるわけにはいかない!!)
フレイムバサラの渾身の炎を纏った一撃が大きく唸りを上げるとロボットアームは塵となって掻き消えたのだった。
「はぁ・・・ はぁ・・・」
(な、なんとか・・・ やったぞ・・・)
周囲への被害、自身の身の安全を守っての必要最小限での攻撃の無効化。
フレイムバサラの全神経と能力をフル活用しての熱量の調整に全身から汗が滴り落ちる。
(恐らく、あれが最後の手段だろう・・・・ これで、終わったな・・・)
フレイムバサラの裏を斯くほどの作戦の立案のための時間、あれほどの武器を一週間ではそういくつも用意できないだろうという読みによりフレイムバサラは勝利を確信した。
地上から即席の高速道路を眺めることしかできない者達には上の光景がどうなっているのかは分からないが、一際大きく上がった炎から状況は推察できた。
(我々の敗北か・・・)
上伊集院が頭を垂れて絶望に押しつぶされそうになったその時だった。
バリバリバリバリ!!!!!
高速道路の上で大きな電撃が炸裂するのだった。
主人公が全然出て来ないぜ・・・
コスプレ集団は扱いが難しい。
出したの失敗かな・・・




