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想定訓練 下

「はぁ、はぁ」


カノンは走っていた。

仲間と共に戦い、敗れそのことから地面にへたり込み。

数分ほど動かなかったがその後、何かを決意したかのように銃を持って走り出した。

佐部さんと連絡を取れるインカムは走り出した瞬間にどこかに落ちてしまっていた。

そのため彼女は自分が戦闘不能とみなされていることをまだ知らない。

自分は何のダメージも受けていないからまだ戦えると信じていた。


(1人で行っても勝てるとは限らない。無残にやられるかもしれない。でも・・・!)


せめて一撃だけだも・・・!


その強い思いに駆られて彼女は走っていた。


今より十分ほど前、彼女は仲間たちと共に礼言を倒す為の戦いを行っていた。

先陣を切るキルト、後方からの援護が自分で相手の後ろからリーフェとアスカの布陣だ。

作戦はほぼ完璧といって良かったと思う。

一対一の戦いを匂わせておいて上方正面からの銃の射撃で仲間の存在をアピールし正面から二人がかりで攻めて、正面方向を意識させたところで後方からの支援と攻撃で確実に勝てる算段だった。


問題になったのは私の一発目の弾丸が放たれる前にキルトが一瞬にして地面に倒れ伏して劣勢になってしまった点だろう。

あそこまでの実力差があるとは想定していなかった。

傭兵の経験が一年あるだけの青年がまさか同じようにコスプレをして能力を向上させているだけだったのだ。

実力的には互角の勝負のはずだった。

だが、結果はキルトの瞬殺寸前状態からのスタート。

それでも、私の弾丸でこちらに注意を引くことができた。


キルトも自力で立ち上がり、これから反撃を行うところまで持ってきた。

ただ、キルトのダメージが大きかったのでこの反撃が最初で最後の奇襲になるのは目に見えていた。

私は確実に弾丸を命中させるために頭ではなく胸部を狙った。

礼言の着ている衣服が防弾しようであることは知っていたが、ヘッドショットでは頭の動きだけで逃げられる恐れがあったからだ。

相手はそれほどの強敵だ。

スナイパーには二発連続で撃つようなクイックショットのテクニックは必要ないし、銃自体にもそういった特性はない。

倒すのはキルトの斬撃かリーフェの魔法で、それが私の出した結論だった。


ただ、結果は無残な物だった。


どうやったのかはわからないが礼言はリーフェとアスカの位置を特定していた。

キルトの攻撃の瞬間に奴は両手に黒剣を持ってそれを後方の2人に投げつけた。

完全に背後からの不意打ちを想定していたために二人はこの攻撃に対して回避も防御もできなかった。

魔法の発動に集中していたのも原因の一つだろう。

だが、これで礼言の両腕はもはや私の弾丸もキルトの突き出した剣も防げない。

2人の仲間の敗北は悲しい事だが、礼言を打ち取れば満足だろう。

何せ相手は七色さん率いる夜典の守護騎士達やフェイトチームを打ち破ってきたのだ。

戦果としては十分だろう。


しかし、スコープ越しに見た映像は私の予想に反するものだった。

礼言はキルトの攻撃を避けるために上半身を逸らしてブリッジでもするかのように攻撃を躱した。

そのままの勢いで右足を蹴りあげてキルトの顎を蹴りあげるとキルトはまるで天に向かって舞い上がるかのように体を起き上がらせた。

その起き上ったキルトの後頭部に私の放った弾丸が命中する。

こうして、キルトは地面に倒れ伏した。


最後の一撃が礼言の放った顎への一撃だったのか私の弾丸だったかは不明だが、最後の1人となった私に残った事実は『仲間を撃った』というものだった。


狙ったわけではない。

でも、確かに私の弾丸はキルトの後頭部に突き刺さった。

一緒に戦う仲間を友を撃った。

その事実だけが私の心を支配した。

まるで、自分を守るために強盗犯に対して引き金を引いたカノンの様に私に残された結果は『撃ってしまった』というものだった。


数分間、私はその場に座り込み瞳から大量の涙を流した。

私の心は最早ボロボロだった。

しかし、いつまでもそうしているわけにはいかなかった。

絶対的な絶望と悲しみの中でも立ち上がらなければならない時はある。

私が憧れるヒーローの様に、一番の理解者であると信じていた親友が実は殺人事件の犯人であった事実を知ってでも現実を受け入れたアニメのカノンの様に私はその場から立ち上がり駆けだした。


このビルと工場の私有地にはほとんどといっていいほど狙撃できるポイントがない。

唯一の場所がキルト達と戦ったあの場所だ。

だからこそ私達は他の人達と戦う順番を代わってもらいあのポジションで戦うことにしたのだ。

私が一人でも礼言と戦う為には近中距離での戦闘しかない。


分が悪いのは分かっている。

それでも、私には『最後まで戦った諦めずに戦った』という結果が必要だった。

明日に向かうために、次こそは勝つために・・・!


そう思いカノンにコスプレする潮柳侑子しおやなぎゆうこは駆けるのだった。


そして、彼女がやっとの思いで駆けつけた先では一人の大男が礼言と戦っていた。

大男はアニメで見た鋼鉄の錬金術師に出てくる剛腕の≪アーキス≫だった。

戦いは即座に礼言の勝利で終わった。

その瞬間、私はビルの陰から抜け出て銃を構えると引き金を引いた。

勝利直後の油断を突いた完璧な一撃のはずだった。

しかし、私の銃弾はまたも礼言には届かなかった。


そして、私はまた同じ過ちを繰り返す。

どこから現れたのか私にはわからなかったがいつの間にかオリーブさんが礼言を挿んだ私の反対側にいた。

あとは先程の様に私の放った弾丸がオリーブさんに当たって戦いは終了した。

遠距離攻撃用のへカートⅢの弾丸を近中距離で食らったのだ。

オリーブさんはそのまま地面に倒れ伏していった。


「え・・・嘘・・・私はまた・・・」


私は事態を飲み込めずそう呟いた後で、電撃の様な衝撃に意識を狩り取られたのだった。




カノンを倒した礼言は少し戸惑っていた。

彼女は先程、ビルの方から狙撃してきた人物だ。

佐部さんからの連絡によると彼女は敗北しているはずだった。

攻撃してきたので反撃してしまったがこれでよかったのだろうかと少しばかり悩む。


「すみません。カノンさんがそちらに向かってしまいました。インカムを落としたみたいで止められませんでした。申し訳ございません。」


耳に付けたインカムから佐部さんの申し訳なさそうな声が聞こえてきた。


「まぁ、こういう事態もあるだろう。気にせずに続けよう。」


俺はそう言って戦いを再開した。

次々に現れる刺客を撃退していく礼言を遠くから見守る四つの影。

それは最後に残った印輝率いる学園四天王軍団だった。


「僕の解析能力で相手の戦力や行動パターンは把握した。四人同時に奇襲をかければ確実に勝てるだろう。」


犬田宝火にコスプレした印輝が仲間である同じ学園四天王の釜氷苛かまごおりいら猿山渦さるやまうず蛇月乃音へびつきののんの三人だ。


「作戦はシンプルにいこう。作戦地点に相手が来たら変身して四人で一気に決着をつける。以上だ。」


「四対一か。気が進まんな。」


犬田の作戦に猿山が異を唱える。


「あんたね。相手の実力考えなさいよ。下手するとヒーロークラスの実力なのよ?!わかってんの?!」


蛇月が猿山に文句を言いそれを聞いて猿山は「仕方ないか」という態度で肯定した。


「では、それでいこう。」


釜氷が全員が作戦に納得したところで解散を宣言した。

こうして、礼言包囲作戦が執行されることになったのだが遠くからの犬田の視線に気づいていた礼言はここで通常とは違う選択肢を考えていた。


(待ち伏せか・・・ 敵を倒す為の効率的な作戦立案の結果なのだろうが・・・ 今回の訓練では敵の足止めと直接戦闘をするためのものだ。 俺を倒す為の策略を練ることじゃない。 そのことに気づいてもらうためには・・・)


礼言は今まで敵を発見し次第、戦闘を開始して実戦での動きや対処方法を見てきた。

しかし、明らかに待ち伏せをして戦闘をするこのスタイルに正直飽きて来ていた。

どうやら皆、倒すことに意識が行き過ぎて本来の役割である足止めや防御に徹するということを忘れているようだった。

ヒーローに憧れて力を得るためにコスプレをしている彼らはどうしても悪を倒すことを優先してしまう悪癖がある様だった。

それに気づいた礼言は今までと違い敵を強襲する作戦に出た。


(1人ずつ確実に・・・ バレない様に静かに早くか・・・ 相変わらずやることが多いな・・・)


戦場での暗殺に近い殺しの実戦を経験している智坂徳だからこそできる銃火器を使わない敵の殲滅、無力化。

それを礼言のコスプレでいた超人的な身体能力で行えば、例え智坂晶を除いたコスプレ集団最強の学園四天王と云えども変身していない状態ではその力は大したことがなかった。

彼らはただ待ちかまえ変身するタイミングを窺っているその隙に一人ずつ確実に消えて行った。

悲鳴を上げる隙も変身する隙も与えられなかった。

いや、彼らはきっとなぜ自分がやられたのかさえも分からないまま気を失ったのだろう。

1人ずつまるで眠りに落ちる様に倒れて行った。


最初から変身して待っておけばこんなことにはならなかったかもしれない。

しかし、残念ながら変身すれば晶を除いた戦闘要員の中で最も戦闘能力が高い彼らであったが、変身時間はあまり長く持たないのだ。

特に釜氷は一回攻撃モードである『死縛の装』を使用すると変身が解けてしまうのだった。


(おかしい・・・ 時間的にはそろそろ来るはずなのに・・・)


犬田は仲間がやられていることに気づかないまま数分間いつまで待っても来ない礼言をただ待っていた。

インカムは同一規格のモノを使っているので残念ながら使用すれば礼言に気づかれる恐れがあるので使えなかった。

そんな犬田の背後から忍び寄る一つの影があった。

礼言だ。

彼は足音を立てることなく犬田の背後に回り首を絞めた。


「か・・・ぁぐ・・・」


突如として首を絞められた犬田は両手で首を掴んでいる物を引きはがそうとするが、礼言の腕はその程度では防げない。


ベキベキ


礼言の圧倒的な握力で犬田の首回りの詰襟についている三ツ星が礼言の握力によって音を立ててひび割れていく。

声が出ず息もできない状態では変身などすることはできなかった。


「か・・・ハ・・・・」


犬田の意識がだんだんと遠のいていく。

何もできずにただやられるという状況に無念を感じる間もなく、犬田の意識は刈り取られようとしていた。

そんな時だった。


「でりゃあ!!!」


叫び声と共に飛んでくる1人のヒロインが礼言の背後から襲い掛かった。

礼言は犬田の首から手を離すと左にサイドステップを攻撃を避けた。

攻撃を避けると体を右に向けて相手を確認する。

そこにいたのは最初の工場内の戦闘で逃げて行った近坂憐このさかれんだった。

ただ、先程と違ったのは先程まで着ていた学生服と赤いコートではなく『歳を考えなさいよ』と思いたくなるような可愛らしい衣装にファンシーな魔法少女が持っていそうな杖を装備していた。

杖の先からは魔力が凝縮しているであろう剣の様なモノが出ていた。


(ファイト/ナイトからフェイト/アインスの衣装に切り替えたか・・・)


どうやらフェイトシリーズのIFストーリーと展開する別の時間軸の衣装を持ち出したらしい。

それにしても間近で見ると本当に『その格好には年齢制限あるよ?』と思う衣装だ。

まぁ、ギャップがあって可愛いという人もいるかもしれないのでそのことはいいだろう。


(それにしても、中の人も良くそんなの着たな・・・)


アニメだからこそ許される衣装であるはずなのにコスプレとして着るにはものすごい勇気がいたことだろう。

礼言は思わずそんなことを思って感心してしまった。


(こんな恥ずかしい衣装早く脱ぎたい!)


憐もかなり恥ずかしいのか顔は真っ赤で目には少しだけ涙を浮かべていた。

そんな憐は決着を早くつけようと切り替えして踏み込み杖を振るう。

礼言はそれを上半身の動きだけで避けると距離を詰めて掌底を一発腹に入れて終わらせた。


「・・・」


声にもならない悲鳴を上げて倒れ伏す憐。

そんな彼女の作った一瞬の隙を突いて犬田は変身を始めるために傍に置いてあったパソコンから変身シーンを再現するための音楽を流す。

しかし、変身は叶わなかった。

詰襟についていた三ツ星の破壊による再現率の低下が原因だった。

せっかくのチャンスをものにできず、犬田は次に礼言の放った一撃で地面に沈んだ。


「奇襲に備えて戦う訓練で奇襲しようなどとするからそうなるのだ。」


礼言は一言そう呟いて犬田から去る。


「ま、待ってくれ。一つだけ教えてくれ。」


「なんだ。」


倒れ伏したまま尋ねる犬田に礼言は歩みを止めるだけで答える。


「どうやってこちらの居場所を掴んだ?」


「戦場では一瞬の油断が命取りだからな全方位どこから銃口が向かられるかわからん。故に視線に対しては敏感なのだよ。」


後ろを振り返らずにただ答えだけを返す礼言。


「じゃあ、ゲーマーチームの背後の2人にはどうやって気づいたあの二人はあんたに視線を送っていないだろう。」


犬田の言う通り礼言の背後にいたゲーマーチームのアスカとリーフェはキルトの心配をしていたが礼言に視線には送っていなかった。


「確かにあの二人は私に視線を向けなかった。しかし、キルトは視線を二人に向けた。故に私は背後の敵の存在に気づいたそれだけだよ。」


「ま、待て。それだけでは説明がつかない。あの二人に攻撃を当てるためにはあの二人が建物の陰から出る必要があった。それを君は相手を見ずに仕留めているあれはどうやって・・・」


犬田が声を荒げて問いを投げかける。

確かに背後の伏兵に気づいただけでは建物の陰に隠れている相手を討ち取ることは不可能だ。

だが、礼言は的確に相手を排除している。

しかも、視線を送らずにだ。

そんな芸当をどんな能力があれば使えるのか犬田はそれが知りたかった。

礼言峰綺のコスプレをしているからと言って目に見ずとも相手の行動を見ることなどできはしないのだ。


「伏兵の攻撃してくる瞬間は奇襲をかける時と総攻撃をかける時、そして味方を助ける時だ。それだけ理解していればあとはそのどれかの状況を作り出すだけで伏兵は顔を出す。故に私はキルトが立ち上がるのを待った。それだけのことだよ。」


その言葉に犬田は驚愕した。

気配察知などの能力ではなく、経験からくる状況判断によって礼言はそれをやってのけたというのだ。


(こんな超人にどうやって勝てばいいんだ・・・)


犬田の心は折れてしまいそうなほどに深く傷ついた。


「では、私は行くよ。」


礼言はそう言って去っていく。

礼言は最後まで犬田の方を振り返ろうとはしなかった。

犬田の心が折れていることに気づかれたのだ。

奇襲をかけて来ないと思われているのだ。

ただ、それがわかっても犬田に立ち上がる勇気はなかった。


(あいつにはどう頑張っても叶わない。俺達はヒーローになれない・・・)


そんな絶望に染まりかけた犬田の前に一陣の風が吹いた。


「風紀委員ですの!」


そこ声に顔を上げると礼言の前に道を塞ぐように一人の少女が立っていた。

まさかの下なのに終わってないというこの感じ・・・

能力不足なのか・・・

次でやっと訓練が終わるね。

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