表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/55

想定訓練 中

自分たちの所有する敷地内での想定訓練が始まってわずか十分。

俺は工場の正面入り口の前で中での戦いが終了するのを待っていた。

今回は護衛対象を狙う敵が襲ってきた時の主戦力(コスプレ後の晶)到着までの時間稼ぎを想定しているが仮想的であるゲストの智坂徳が倒されるとバトルロワイヤルになる予定だ。


なので、俺は工場入り口で誰が出てくるのかを待つ。

智坂徳がコスプレしている礼言ならば隠れている仲間と共に戦闘を再開してこれを討ち。

そうでない場合はバトルロワイヤルになるので上伊集院さんから全員にインカムから連絡が入る様になっている。


ガチャリ


インカムからの連絡がないままにドアが開かれた。

中からは礼言峰綺に扮した智坂徳が現れた。


「バトルスタートだ」


背中に背負っていた剣を抜いて構える。

俺がコスプレしているのはSBOソードバトルオンラインの漆黒の狂戦士≪キルト≫だ。

そのために特殊能力はほぼないがその代わりに圧倒的な身体的な能力が付与されている。

俺は地を蹴り相手の下に駆ける。

身体能力を強化された俺の脚は一瞬にして俺と礼言の埋めて剣の間合いに入る。

礼言の攻撃手段は素手、もしくは黒剣だが間合いを詰めている間に礼言は黒剣を抜いてはいない。


シュン!


完全な間合いの外からの斬撃。

礼言は俺の突進の速さに驚きの表情を浮かべるが反応できてはいない。

ドアを出た途端の突然の強襲に動揺しているのだろう。

相手は工場内の戦闘で疲弊もしている。

剣を振り下ろした瞬間に当たる確信があった。


ガシイ!!


だが、俺の腕はあっさりと礼言に掴まれた。


ゴス!


礼言の膝蹴りが腹部に突き刺さった。


「かは・・・!」


激痛と共に吐き気が込み上げてきた。


「ぐぅう・・・」


小さく呻き声をあげながら吐き気を何とか飲み込んむ。


メキリ


礼言に握られた腕から鈍い痛みと骨の軋む音が聞こえた。

常人を遥かに超えた握力で掴まれた手首が折れたかのような錯覚に陥る。

思わず右手の剣を話しそうになりながらも、俺は左手でもう一方の剣を取ろうと手を伸ばした。


ドス!


左斜め上から顔面に向けて拳が振り下ろされた。

一瞬、意識を奪われそうになるが飲み込んだはずの吐き気がまた喉に戻ってきてなんとか正気に戻してくれる。


「ぐ、ぅぅう・・・」


俺は地面に片膝をつきながらもう一度喉元に戻ってきた吐き気を唾を飲んで押し戻す。

すると、片膝をついたからか礼言が掴んでいた手を離した。

俺は剣を地面に突き刺して何とか地面に倒れ伏すことを拒んだ。

すると礼言の足が動いた。

俺から離れようとしているのではない。

恐らくは態勢を変えて倒れない俺に止めの一撃を放つつもりなのだろう。

そんな俺を二つの視線が心配そうに見つめているのに気づいた。

同じゲーマー系のコスプレをしているFPOフェアリーパークオンラインのウンディーネ族である白き閃光≪アスカ≫とシルフ族の深緑の疾風≪リーフェ≫だ。

2人は魔法が使えるので工場の左右に分かれて隠れてもらっているのだ。

本当は必殺のタイミングで同時に斜め後方から攻撃をする予定だが、俺のピンチに焦って顔を出してしまっている。


(まだ駄目だ!)


俺は2人に視線で指示を出してまだ出てきてはいけないことを伝えた。

2人は心配そうに俺を見つめながらも工場の角に顔を隠した。


ググ


礼言の足の動きが止まり力が籠る俺への一撃の為が終了したのだろう。

振り下ろされれば俺は避けることも防ぐこともできはしないだろう。

だが、俺はやられない自信があった。

俺にはもう一人頼れる仲間がいるからだ。


「あなたに教えてあげる、敗北を告げる弾丸の味」


ドン!!


俺に振り下ろされるはずだった拳は振り下ろされることはなく、寧ろ礼言は突然の攻撃に俺から距離を取った。

見上げると礼言は視線を俺ではなく遥か遠くに向けていた。

俺の真後ろにあるビルの最上階からの銃弾を手で防いだのか。

右手で防御したかのような姿勢になっていた。


俺の後方にある屋上の上にはGSOガンシューティングオンラインの冷血なる狙撃手≪カノン≫が陣取っている愛用のへカートⅢは非殺傷用にゴム弾使用にあっているがその威力は生身で受ければ気絶必至だ。

礼言の神父服は対銃弾様の使用になっているためにゴム弾の衝撃を弾くことに成功した様だった。

礼言の視線と表情からは明らかにカノンへの警戒の色が強かった。


(今だ・・・!)


俺は立ち上がると同時に工場の両端に隠れているリーフェとアスカの2人に合図を送ると立ち上がり剣を突き出した。

右手の剣は地面に突き刺したままだが、左手に剣を持ち突きを放った。

そして、それを合図に後方にいた二人が魔法を撃つ態勢に入る。

リーフェは完全な風による攻撃魔法。

アスカはキルトに対する回復魔法。

アスカは本当は攻撃直前に支援系の魔法をキルトに使い攻撃の途中でその速度と威力の上昇を狙っていたが現状を鑑みるに回復魔法を選択した。


そして、屋上では二人の動きを見ていたカノンが次こそはと銃に弾丸を装填し直してサイド攻撃態勢に入る。

狙いは衣服のない頭部。

ヘッドショットは大変難しいのだがカノンは銃の腕に自信があった。

なにせ彼女はコスプレによる補正が銃の腕の上昇のみなのだ。

それ故に身体能力はコスプレ前と同じだが狙撃の腕前では本物に迫るものがあった。


(次こそは・・・!)


カノンの銃口が礼言を捉え銃を放つまでの時間は恐ろしく早かった。


キルトの前方下方、リーフェの左後方、カノンの前方上方という三方向からの同時攻撃に晒される礼言。

しかし、その口元には笑みが浮かんでいた。


それが礼言峰綺のコスプレ故に起こるあらゆる不幸、不利益な状況を楽しんでしまう悪癖なのか。

それとも、勝利を確信しての笑みだったのかはこの時の彼らには分からい。




分かったのはこの数秒後にカノンを残した全てが全滅したことだけだった。

もっともカノン以外の面々はなぜやられたのかさえもおそらくは気づいていないだろう。


「そん、な・・・」


カノンはただその状況を恐怖と絶望の中で見守る事しかできなかった。

ここでカノンは心が折れたのか。

彼女は動こうとはしなかった。


「カノンちゃん役の鎖位さくらいさんの精神状態が不安定です。」


佐部さんがセンサーに仕込まれた情報を分析して読み上げる。


「鎖位はここまでだな。智坂君に『ビルの屋上の狙撃手はリタイアした』と連絡してくれ。救護班は鎖位とゲーマー部隊を回収してくれ。」


上伊集院が現状を鑑みて判断し、指示を飛ばす。


「「「了解しました」」」


「智坂さんビルの・・・」


すでに工場内で救護活動をしていた救護班が了解の返事をして次の現場へと向かい、佐部さんが智坂のインカムに連絡を入れる。

こうして、ゲーマー部隊は敗北した。


「わずか十数分で三つの部隊がほぼ全滅か・・・」


上伊集院の現実を悲しく受け止める様な呟きが指令室をこだまする。




佐部さんからの連絡を受けて礼言はビルには向かわずに別の場所を目指すことにした。

といっても地理に疎い礼言に相手の潜伏場所は分からない。

狭い路地などの人の隠れられそうな場所や地形を把握するために私有地内を歩いていた。

ビルや工場の中の構造は外観や窓の配置などで予想する。

そんな中で一本の狭い路地で明らかにこちらを待ち構える一人の男の影が見えた。

篤是純がコスプレするのは鋼鉄の錬金術師に登場する『剛腕』アーキス=ルイ=レッグストロングだ。


「いざ!」


尋常なる立会いを望んでいるのか。

アーキスは拳を構える。

この誘いに乗れば左右が建物に塞がれた狭い範囲で戦うことになるだろう。

相手は筋肉で全身を覆った大男だ。

狭い範囲の限定空間で戦うことでその大重量の体で押しつぶすつもりかもしれない。

礼言にとっては明らかに不利な場所ではあった。

しかし、礼言はあっさりと誘いに乗った。

地を蹴り駆け出した礼言を見てアーキスは両手で地面を殴りつける。

すると、錬金術が発動したのか地面から大量の土でできた巨大な棘が両手の先から礼言に向けて順次出現していく。


ドドドドド!


地面をまるで何かが駆ける様に一直線に礼言に向かう大地の棘。


「ふん」


礼言はそれをつまらなそうに見ながら一つ鼻で笑ってから地を蹴り宙を舞う。

それから器用に出現した棘の上を駆けながらアーキスの下に向かう。


「やはり、引かぬか。ならば、その勇気に敬意を表して見せてやろう!わがレッグストロング家に代々伝わりし芸術的錬金法を!!」


アーキスはそう言って地面から出た巨大な棘の上部を千切り取り上に投げると落ちてきた棘の千切れた部分を殴りつけて前方に飛ばす。

先端の棘の部分は殴られたことにより錬金術が発動して槍の様な形に変形して礼言に向かい飛んだ。


「フン!」


礼言は左手で飛んできた槍を払い除けながら大きく跳躍し、槍を払い除けた手で黒剣を投げつける。


「ぬうん!」


アーキスは体を下斜め左に倒しながら黒剣を避ける。

だが、その瞬間を狙ったかのように跳躍してきた礼言が右足で蹴りを放つ。

攻撃を避けている最中の蹴りに回避行動がとれないと判断したアーキスは左手をあげてガードした。


ドシン


と、ガードの上からでも体の芯に届きそうな思い一撃が左手に入った。


(負けん!)


右足の蹴りを何とか耐え忍んだアーキスは未だ空中にいる礼言に右拳を放つ。

大振りな一撃だったが空中にいる礼言には回避行動はとれない。

防御しても鍛えこまれた筋肉から放たれる思い一撃には耐えられない。

そんな重い一撃を放つも礼言には届かなかった。


ザシュ!


防御ができないと判断した礼言は右手に黒剣を持ちそれをアーキスの右腕に突き刺した。


「ぐぬぅう・・・!」


突如右腕に走る強烈な電気ショックに体が硬直してアーキスは拳の動きを止めてしまう。

礼言はそんなアーキスの腕を軸に右手で右側にある壁へと跳躍すると足で壁を蹴りアーキスに襲い掛かる。

アーキスは礼言の突き刺した黒剣を払い除け礼言を眼で追うが、次の瞬間には礼言の放った拳が顎にヒットしてそのまま地面に倒れ込んだ。

敵を倒し地面に着地する礼言。

勝利を得ながらも彼の顔には一ミリの笑みもなく、ただ倒れた敵が起き上がらないかを警戒しながら地面に足をつけた。

その一瞬の隙を突いて猛追する影が建物の角から突き出した。


アーキスが立っていたのは狭い路地の端だったのだ。

全てはこの時のための布石。

隠れて待機していたのは同じく鋼鉄の錬金術師から氷結の北壁≪オリーブ=ミラ=レッグストロング≫だ。

オリーブは建物の陰から一気に礼言に近づき横なぎに剣を振るう。

地面に着地後の突然の襲撃に礼言は防御行動が遅れた。

そのため彼が即座に判断したのは膝を折り曲げての下方への回避行動。

それが礼言にできた精一杯の行動だった。

しかし、オリーブの攻撃はそれでは終わらない。

次は剣を振り上げての縦の斬撃をお見舞いしようとしていた。

その眼には尋常ならざる殺意が籠っていた。

目の前の敵をただ討つ。

それだけを目的とした鬼気迫る剣術は過激なオリーブそのものと言っても過言ではないだろう。

そんな彼女の一撃を礼言は躱すことができるのかは分からなかったがとりあえずは黒剣を取り出して回避と同時に投げつける準備に入る。


ドン!


だが、その一瞬の判断の間に一発の銃弾が戦いの幕を下ろさせた。

放ったのはゲーマーチームのカノンだった。

その銃弾は本来は着地直後の礼言に向けてのモノだったが礼言が咄嗟に下方に回避したためにその一撃は剣を振り上げたオリーブの胸元に突き刺さった。

カノンが銃を発射したのはオリーブが出て来た反対側の路地の角だった。

長距離攻撃用のへカートⅢでの短銃で攻撃するような近距離での一撃は軍服を着ているが特に重装備ではないオリーブには重すぎた。


「カ・ハ・・・」


オリーブはそのまま銃弾に撃たれ地面に倒れ伏した。


「え・・・嘘・・・私はまた・・・」


仲間を撃ってしまったことにカノンに顔を歪めて怯えだす。

そんなカノンに礼言は黒剣を投げつける。

仲間を撃ったことへの動揺が大きすぎたのかカノンは黒剣を避けることも防ぐこともなくその身に受けた。


「う・・・」


そして、体に流れる電撃の様な痛みに精神を切り離されて地面に倒れ伏したのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ