訓練開始
家族と晶の仲間達との会議があった翌日。
やることがなくなった俺はとりあえず朝御飯を食べた後、体がなまらない様に筋力トレニーニングをしていた。
「ふぅ、久しぶりにいい汗をかいたぜ・・・」
とある製薬会社での違法ドラッグ製造の件は残念ながら失敗した。
そのことは、昨日会社にメールをして知らせてある。
地下帝国の襲撃の件はニュースにもなっているので向こうも大体のことを予想していたのか。
返ってきた返信には『ご苦労。別命あるまで待機せよ。』とだけ書いてあった。
俺は己の無力さを痛感して今日からトレーニング量を増やして自分を鍛え直そうと思う。
「ふぅ・・・」
日頃からトレーニングをしているが今日からは仕事も完全になくなったので体を鍛え直すことに集中できる。
朝からいつもより激しいトレーニングに息を切らす。
ちなみに、俺の担当している地区の治安は他の人が代わりに守ってくれているので心配の必要性はない。
こっちに来た時にメールで子供達がラジオ体操に行く時間は連絡済みだ。
メールを送られた人は「子供達の安全は俺に任せろ! け、決してペロペロしたいからじゃないんだからな?!」と返信してきた。
ペロペロってなんだろうか・・・
とある業界の人物らしいので業界用語なのかもしれない。
今度あったら聞いてみよう。
(さ~て次は・・・)
休憩後、次は何をするかと考えていると不意に話しかけられた。
「兄さん。少しいいか?」
振り返ると晶と上伊集院さんがいた。
俺は2人に促されるまま客間に向かう。
客間に着くと机を挟んで俺の対面に二人が座った。
日本式の客間なので床は畳で机は畳の上に座ることを想定した低いものだ。
座布団はすでに用意してあったのでそこに座る。
「オホン。実は今日は君にお願いがあってきたんだ。」
座ると上伊集院さんが一つ咳払いしてから話を始めた。
その横で晶はすでに用意していたのであろうお茶菓子とお茶を入れて3人の前に置いていく。
「実は昨日話していた君の護衛を決める会議が1週間後に行われることが決定してね。そこで我々は戦闘員達の強化とサポーター達でスケジュール調整を行うことが決定した。さらに、私が君用の衣装を作ることで君自身に自衛の能力を持たせようと思っている。」
「はぁ、そうですか。」
俺は適当な相槌を打って話を先に進める様に促す。
恐らくは採寸調整かもしくは俺の採寸を取って一番近いキャラを選んでくれるのだろう。
「それでね。君のことを調べたんだが、君は軍に属していた経験があるようだね。」
「正確には『傭兵経験がある』ですね。」
そんなことまで調べたのかと思いながらも肯定する。
まぁ、この人達は俺が地下帝国の兵士と戦っている所を見ているから傭兵経験があることを調べてくれていると勝手に誤解してくれそうなので良しとしよう。
「それでね。我々の戦闘訓練に参加してはくれないか?」
この言葉に俺は驚いた。
護衛対象の俺を強化しようということだろうか?
まぁ確かに俺が相手を圧倒できれば護衛の必要がないかもしれないが『それでは彼女たちの存在意味自体もなくなるのでは?』と疑問に思う。
「我々の戦闘員も主力である晶君も日々のトレーニングは欠かしてはいないが、実戦経験となるとほとんどないんだよ。この前のヤクザや地下帝国の兵士との戦いで実は予想以上の被害が出ていてね。さらに予想よりも戦果が低いんだよ。市民を守ることを優先していたのもあるが、それでも敵を倒した数が少なすぎる。」
上伊集院の言う通り、ヒーローになろうという集団がヤクザを全員捕縛できなかったのは能力を引き出す以前に戦闘経験や知識の不足が窺える。
地下帝国の兵士についてはどれくらいの敵を倒したのかは知らないが、ニュースではフレイムバサラの活躍以外が載っていないので報道するほどでもないレベルなのだろう。
そう考えると実力的に彼らはかなり低いとみていいだろう。
「そこで我々は戦うことのできる戦闘員や晶君と実戦形式での修行を行ってそれを補おうと思っているんだが、君も参加してくれないか?君からは多くのことが学べると私達は思っているのだよ。」
上伊集院の言う通り実際に戦場に行った経験のある俺が参加したことで得られる物があるかもしれないというのは間違っていないだろう。
だが、兄もそうだが父は遠回しに晶のヒーローへの道を否定したいたように思う。
だからこそのあの条件なのだろう。
俺が晶達に協力すると家族関係にヒビが入らないだろうか?
俺は一人暮らしにいずれ戻るが晶は今度の会議の場での実力を見る試験で不合格になれば実家であるここで暮らすことになる。
努力したが報われなかった娘とそれを喜ぶ父親・・・
うん。気まずいだろな・・・
(あれ?でも、それって俺が協力するしないにかかわらずそうなるから。ここで協力しても問題はないのか・・・)
寧ろ、晶にキッパリ諦めるさせるためにもここは協力するのがベスト・・・
「い・・・」
「いいですよ」と口を開きかけたところで晶達の背後にある襖が少しだけ空いていることに気づいき、そこから覗く視線に言葉を途中で止めてしまう。
兄がものすごい勢いで睨んでいたのだ。
まるで「俺を裏切るのか?」とでも言いたげな視線に声が出ない。
(大人げないなぁ~・・・)
そう思いながらも兄からの視線で動きを止めてしまった俺を晶と上伊集院さんが不思議そうに見つめる。
やがて、2人は俺の視線に気づいて振り返るとサッ!っと兄は襖の陰に隠れた。
2人は不思議そうに首を傾げながらこちらを振り向くとまたしても少しだけ空いた襖から兄が覗き始めた。
兄の視線は完全に俺をロックオンして離さない。
こちらを振り向いた二人も真剣に俺を見つめて答えを待つ。
この二人は女性であるからかまるで涙を浮かべて懇願するように俺を見つめる。
実に断りずらい視線を放ってくる。
(そうすればいいんだろうか?)
兄と2人の女性からの視線にさらされてどうすればいいのか迷っていると遠くから助け舟が出て来た。
「あなた何をしてるの?」
おそらく、秋穂姉さんが襖の間から覗く兄に声をかけたのだろう。
「え?! ああ、これは?!」
襖の向こうで声をかけられた兄がアワアワしだした。
「お父さん?」
晶が不思議そうに襖を見つめて声をかける。
「いや! 落し物をしただけで決して覗いていたわけではないぞ?!」
完全に裏目に出得る言葉を述べながら兄はそそくさとその場から逃げる様に去って行った。
その後に秋穂姉さんが襖を開けてお茶とお茶菓子を持ってきたが、すでにあったので持ち帰ることになった。
「徳君。あの人のことは気にしなくていいからね。」
秋穂姉さんは去り際にこの言葉を残して去って行った。
本当はこの言葉を言う為に来たのかもしれない。
なんだか、そう思った。
(秋穂姉さんは晶の夢を応援しているのかな?)
そんなことを思いながらも俺は2人に「わかりました。俺でよければお手伝いしましょう」と言ってこの申し出を受けるのだった。
「では、さっそく採寸から入るから服を脱いでくれたまえ。」
上伊集院さんはどこからかメジャーを取り出して立ち上がる。
「わかりました。」
俺は促されるままに服を脱いで採寸を受けることにした。
「ちょ?! 私が出るまで脱がないでよ!!」
晶は何が恥ずかしいのか両手で顔を覆って俺の裸を見ない様に部屋から出ていく。
だが、出ていく瞬間まで上半身の服を脱いだ俺を指の間から見つめていた。
(見たくないのか見たいのか・・・ というか、昔は一緒にお風呂にまで入っていたのに何を恥ずかしがっているんだ?)
と思いながらもそれは子供時代の話ので、この後の採寸中に晶も成長して年頃の乙女になったのだろうと納得する俺であった。
採寸が終わると「明日にはできるから訓練の時にでも渡すよ」と言って上伊集院さんは帰って行った。
一体誰のコスプレ衣装を作るのかは定かではないが、できるならカッコイイ人がいいなと思った。
(俺も体を鍛え直すのにちょうどいいな・・・)
上伊集院さんが返った後、明日の戦闘訓練に支障が出ない様に俺はトレーニングを再開した。
翌日。
俺は晶に連れられて俺が拉致された廃ビルへとやってきた。
どうやらここが彼女たちのアジトらしい。
「これに着替えてくれ。」
そう言って手渡されたのはどこかの教会の神父の様な服だった。
「特殊メイクと髪型を弄ってより似せようか」
そう言われて2時間ほどメイクをした。
他の人はすでにこの特殊メイクをしてできるだけ本物そっくりになっているらしい。
特殊メイクが終わると鏡で顔を見るよりも先に訓練のために工場跡に連れて行かれた。
そこにはすでにコスプレを終えた人たちがいた。
「ええ、ではこれより模擬戦を始める。各自チームを組むなりして適当に戦ってくれ。」
自己紹介や説明なしに適当に戦えと上伊集院はまるでやる気がないのかそう言って壇上から去る。
「上伊集院さん。あんたの衣装作るのに昨日徹夜したんだってさ。」
俺が「アレでいいのか?」と頭を抱えていると隣から美坂御琴のコスプレをした人が話しかけてきた。
声も完全に一致しているので誰かはわからない。
(この前もこのコスプレだったから晶なのかな?)
とは思うが違っていたら恥ずかしいので何も言わない。
とりあえずここは「ビリビリ」と呼んでおくのが正解なのだろうか?
「ええ、では模擬戦の開始は5分後にベルがなると同時に始めます。範囲は私有地の敷地ない全てです。原則として戦闘不能者への攻撃は禁止です。戦闘不能の定義は降参か立ち上がれなくなったらです。ですので、地面に寝ている人への追撃は禁止とします。立ち上がる場合では気絶したフリをしての不意打ちも反則とします。禁止事項反則を行った人はその場で敗北ですので注意してください。制限時間は2時間でこの時もベルが鳴りますので2回目のベルが鳴ったら試合終了とします。先程上伊集院さんが言ったようにチームを組んで戦うのもありです。以上で説明を終えます。」
佐部さんがISインフィニティストライクの山田真やまだまことのコスプレで登場して説明を終えると会場内から出ていく人やチームを作ろうと話を始める人などがいた。
「じゃ、私はもう行くから」
美坂のコスプレをしている人はそう言って工場内から出ていこうとしていた。
「待ってくれ。」
「なに?」
俺は彼女を呼び止めると彼女は振り返って俺を見る。
「ここに来るまでに鏡がなくて何のコスプレをしているのか知らないんだ。なんだと思う?」
「フェイト/0(れい)の礼言れいげん峰綺ほうきだよ」
と言って去って行った。
なるほど、礼言峰綺れいげんほうきか・・・
CVはジョージさんだったな・・・
残念ながら声を似せることは出来そうにない。
ともかく、自分の実力を知るためにまずは工場内で戦闘をしようと思う。
最初に集まっていた人数は20人ほどだったが今は俺を合わせても10人もいないものとなっていた。
どうやら半数以上が工場内から出たらしい。
俺は神父服内にある黒剣こっけんを確認してから臨戦態勢に入る。
ジリリリリリ
ベルの響きと共に戦いの火ぶたが切って落とされた。




