どんな状況でもあきらめない。
(いけない・・・ このままじゃいけない・・・)
私は頭をフル回転させて何か策はないかと思案する。
このままお祖父じいちゃんの話に流されると私の夢が潰ついえるからだ。
(お祖父ちゃんは条件次第でならやらせてもいいと言ってくれている。今しかない。今ならお父さんお母さんも納得させられる・・・!)
そう、私にとって最初で最後の夢へ踏み出せる瞬間なのだ。
今を逃すと対策を講じている間に両親や祖母が妨害工作をしてくる可能性もあるし、父から協会に変な圧力がかかるかもしれない。
そうなってはもう取り返しがつかない・・・
だが、焦れば焦るほどに何もいい案は浮かんでこなかった。
(条件は二つ。学校に普通に通うこと。そして、この町の外で活動することだ。)
学校に行くのは学生ならば当然なので問題はない。
問題になるのは『この町の外での活動』だ。
街の外で勝手にヒーロー活動をすれば協会からの批判を受ける。
そうなると学校に連絡されて迷惑行為となり親に連絡が行く。
そして、父は喜んで私のヒーロー活動を禁止するだろう。
そうならないためにはヒーロー活動を行う為の大義名分が必要だ。
この前の様に広範囲に無差別な攻撃があった場合は自衛のために戦う権利がある。
その延長線上でヒーロー活動のマネをして市民の皆を守ることは問題ではない。
問題はそんな状況にはそう簡単にはならないということだ。
では、自分たちで敵のアジトを探して踏み込むか?
それはできない。
力のない人間が悪の組織やそれに類する組織に乗り込んではいけない。
これは自衛であり人質になってヒーローの行動を阻害しないための義務だ。
そのために協会はヒーローになるための学校や厳しい能力制限を設けてヒーローになれる実力者を集めているのだ。
考えれば考えるほどに単体で強力な力のない自分が恨めしい。
特殊な衣装を着て戦うのだから変身ヒーローの様に変身前は弱い。
それで問題ないと思われるかもしれないが、変身ヒーローの変身は一瞬で終わる。
その時間はコンマ1秒を切る。
だからこそ、即座に人を助けられるのだ。
だが、私は衣装を着替えなければならない。
それも普通に着替えるのだ。
さすがにそんなことをやっていては怪人が現れてからかなりの時間がたってしまう。
特撮で見た現役ヒーローのブレザーハートや現役のライダーマスク達がその代表だろう。
セーラーウォーリアも最近復活したという噂もある。
常に服の下に衣装を着こんでおく?
いや、ダメだ。
そんなの下に来てたら絶対にバレる。
ただでさえ恥ずかしい衣装なのに下にずっと着とくとかありえない。
(まぁ、それをいうとあの恥ずかしい衣装で戦えるのか? という疑問はあるわけだが・・・)
そんなことを考えている内に私の後ろの人達が立ち上がって去っていくのがわかる。
振り返るとみんな残念そうに頭を抱えている。
前を向くと父と祖父が顔を綻ばせていた。
私がヒーローにならずに済んで一安心しているのだろう。
だが、私にはその笑みが夢を奪い去っていく悪魔の笑みに見えた。
ポン
と肩に手を置かれた。
振り向くと上伊集院さんが無念そうに私を見つめていた。
「すまない」と今にも謝り出しそうだった。
(ダメだ・・・ このままじゃ、みんなの夢が・・・ 私の夢が・・・)
終わってしまう。
そう思うとすごく悲しい気持ちになる。
そんな私の頬を上伊集院さんが優しく撫でてくれた。
振り向くと上伊集院さんは手にハンカチを持っている。
ハンカチは少しだけ濡れていた。
(ああ・・・ 私泣いてるんだ・・・)
自分が涙で顔を濡らしていることに今更ながらに気づいた。
「う・・・ ううう・・・」
私は小さく呻いてから上伊集院さんの胸の中で声をあげずに泣いた。
大きな声を出して泣くのは恥ずかしくて・・・
でも、泣かずにはいられなかった。
そうやって無念に涙を流して数分後、顔をあげると家族が心配そうに私を見つめていた。
いや、家族だけじゃない。
一緒に夢を追う仲間達も私を見つめている。
仲間達の中には涙を瞳に貯める者、私の様に泣きじゃくる者もいた。
(ああ、もうこの人たちとの夢は叶わないのかな・・・)
仲間たちの光景を見てそう思うとまた涙が出た。
私は涙を拭うと立ち上がる。
「大丈夫かい?」
立ち上がった私にハンカチを差し出したのは徳兄さんだった。
父も祖父も母も心配そうにしているが、私のヒーローの夢に反対しているからなのか。
夢崩れた私に近づくのを躊躇っていた。
(やっぱり、兄さんは優しいな・・・)
血縁的には叔父だけれども私の中で、徳兄さんは『お兄さん』だった。
(そういえば、徳兄さんっていつまで家にいるんだろう・・・)
せっかく久しぶりに実家に帰ってきたのだ。
買い物や新しくできた駅近くのお店に一緒に行ってもらおうかな。
特に今日は夜遅くまで遊んで辛いことを忘れたい気分だ。
私が大人だったなら仲間たちと一緒にお酒でも飲んで辛さを忘れるのだろうが、学生の身なのでそんな訳にもいかない。
(ああ、こんな時に祈る神様がいればな・・・・)
そう思いふと仲間たちの方を見た。
皆、今日は上伊集院さんの作った衣装ではなく普段着で来ている。
その中には自分の好きなヒーローの絵が描かれたTシャツを着ている人もいた。
この仲間達には皆、それぞれに憧れるヒーローがいて、そのヒーローのようになりたくて上伊集院さんの力を頼ってここにいる。
そして、例え上伊集院さんの力を持ってしてもヒーローになれなくても『その手助けがした。』そういう思いでみんなここにいるんだ。
私の憧れるヒーローは言っていた。
『ヒーローとはどんな状況でもあきらめない。不屈の精神を持つものだ。』
(そうだ・・・ あきらめない限り私達は・・・)
もう一度、夢を追いかけられるかもしれない。
そんな希望が、湧いてきた瞬間だった。
「俺、就職しようかな・・・」
そんな私の心に一本の棘が刺さった。
仲間の内の誰かが呟いた小さな呟き。
誰が言ったかまでは聞き取れなかったが、確かに誰かが言った言葉。
夢に向かって立ち向かおうと勇気を手にした瞬間に落ちてきた刃。
それは私の胸を大きく切り裂いた。
(ああ、やっぱり駄目かもしれない・・・)
そんな感情が私の中で膨らんでいった。
きっと他の皆も同じようなことを考えているのだろう。
定着した仕事につかずに夢を追いかけるだなんて長くできることじゃない。
いつかは誰だって現実を知って夢をあきらめていくのだ。
それが、現実。
夢と希望、ご都合主義に彩られた世界なんてきっと三次元ここにはないのだ。
そう思うと悲しくなった。
また泣いているかもしれないと思い徳兄さんに渡されたハンカチで顔を拭う。
きめ細かく柔らかいハンカチがとても心地よかった。
(あれ・・・?)
違和感を感じて顔をあげてハンカチを見つめると刺繍で名前が書かれた部分が顔に触れていたらしくそこだけ妙にざらついていた。
ただ、なんとなく眺めてしまう。
それが兄が刺繍をしたものだからなのか兄の名前だからなのかはわからない。
(自分で作ったのかな? 兄さんは何をやっても上手だな・・・)
そんなことを思いながら兄の名前をそっとなぞった瞬間だった。
パチン
と私の中で何かが弾ける感覚がした。
(ああ、そうだ・・・)
なぜ、ここに兄がいる?
答え、帰省したから
なぜ、兄はこんな微妙な時期に帰ってきた?
答え、何者かに襲われたから兄であるフレイムバサラの庇護下にいるため。
なぜ、兄はいつまでここにいる?
答え、護衛が見つかるまで
その護衛役をやる条件として考えられる項目は?
答え、四六時中、智坂徳を監視し続けられる人間。(単数、複数は問わない。)
「これだ!!」
私が突如出した大声に全員が一斉に私の方を注目する。
「私達が徳兄さんの護衛をすればいいんだ!」
私の提案を皆はポカンと口を開けて聞いていた。
「・・・ええっと・・・ どういうことか説明をしてもらっても?」
少し間をおいてから上伊集院さんが私の提案についての説明を求める。
私は叔父である智坂徳の現状を説明してそれに対する対策として智坂徳の護衛を私達が引き受ければいいと説明する。
「なるほど、確かにその通りだ。我々なら交替で見張れるし、晶君が同居すれば自宅での襲撃には完璧に対応できる。ヒーローの増員やシフト管理の必要はない。この案を早速協会に連絡してOKが出れば転校の手続きをしようか。」
「な、ちょっと待て!」
携帯を取り出して電話しようとする上伊集院さんを父が止めようと手を伸ばす。
「なんですか? まさか、今更却下したりしませんよね?」
まるで下種な男を見る様な目で座している父を見下す上伊集院さんの口元にはドSな笑みが浮かんでいた。
ここまでの話の流れから条件次第でヒーローになるのを家族の総意としてOKを出している。
その条件が先程までは整いそうになかったが今は違う。
整う可能性がある。
そのことに父が焦りを覚えたのだろう。
祖父の方は「孫と息子が危険人物に狙われるのはのぉ~・・・」と呟きながらも「ヒーローは危険な仕事じゃししょうがないのかのぉ~」と付け加えてお茶をすする。
祖父の言うと通り『危険だから』という理由で今更断ることはできないだろう。
そんな訳で父は上伊集院さんの電話を止めることはできなかった。
上伊集院さんは協会に電話して事情を話し始めた。
「おい、徳! お前からも何とか言ってくれ! 姪との二人暮らしなんて嫌じゃないか?! な?! そうだよな?! 彼女とかいるんじゃないか? 今はいなくてもできる可能性は十分ある! なのに姪と同居なんて嫌だろう?!」
父は私達への抗議が通らないと悟ると今度は徳兄さんを説得し始めた。
徳兄さんは母に助けを求めるが、母は笑って誤魔化している。
(お母さんは私の夢に反対なのかな?)
一瞬だけそんなことを思いつい母を見つめてしまう。
すると母は私の視線に気づいてニッコリと笑顔を向けてきた。
そして、口元を小さく動かした。
父に聞かれない様に声を出さなかったが口の動きからして「気をつけてね♪」だと思う。
そう思うと「ああ、お母さんは応援してくれるんだ」と心が温かくなった。
どうやら母は父の手前何も言わないが内心では私の夢を応援してくれているらしい。
そのことが知れただけでも今日は収穫があった。
「わかりました。では、後日話し合いの場を持ちましょう。」 ピ
上伊集院さんの電話が終わったようだ。
皆の視線が一斉に上伊集院さんの方に集まった。
「後日に会談による話し合いと私達の能力テストの結果次第ではOKだそうです。」
ワァっと仲間が歓声をあげた。
逆に父は徳兄さんから手を離して地面に手をついて泣き崩れた。
そんな父を母が優しく慰めている。
「では、私達の方で先に話を詰めておこうか。護衛のタイムシフトも組まなければな。晶も能力測定でいい結果を出す為に戦闘訓練を行おう」
「「「「「はい!」」」」」
こうして、私達は涙を拭い明日に向かって笑顔で我が家を後にしたのだった。
「くそう・・・ 絶対に阻止してやる・・・ まずは協会員に圧力をかけて・・・」
智坂克が電話をかけようとしたその時。
「あなた。大人げないわよ。」
妻である秋穂が笑顔を浮かべたままものすごく凄んできた。
「不正は良くないよね・・・」
克はすぐに電話をしまう。
そう彼はヒーローなのだ。
不正なんてするわけがない!
なので、深夜に克が誰にもバレない様にどこかにメールを送ったことは決して不正ではないのだ!




