敗北
工場内での工作が終了し、あとは逃げるだけだというのに外に出れば地下帝国の連中が暴れ回り外に避難していた従業員たちに襲い掛かり、まさに現場は地獄絵図と化していた。
逃げ惑う人々と暴力を振るい暴れ回る地下帝国の兵隊たち。
ヤクザ達も銃で応戦しているが相手の数が多い事と身体的能力の差で圧倒されている。
(まずいな・・・)
智坂にとってこの状況からの逃走は問題ではない。
ヘルメットはないが戦闘服を着ているのだ。
例え地下帝国のほとんどが純粋な怪物もんすたーだったとしても遅れは取らない。
ドワーフやホビットは戦闘服の持つ純然たる筋力強化で対処できるし、筋力値でゴブリンやオークには負けるが、彼らは知能が低い。
軍隊で接近格闘術を学んだ智坂にとって相手ではない。
問題だったのは彼の倫理観。
人としての優しさだった。
会社に火をつけて火事を起こした放火魔的な行動を容易くとった彼は間違いなく現時点で犯罪者であり、悪の組織の一員として行動している。
そのため、彼にとって最も効率的な行動はこの状況に紛れて逃げること。
彼がここで戦っても地下帝国の兵隊の数は目に見える範囲でも100を超えている。
そのすべてを排除することは戦闘服を着て軍隊に所属していた経験のある智坂にも不可能だ。
放っておいてもいずれは警察か正義の味方である兄、克がフレイムバサラとしてやってきて敵を殲滅することだろう。
今ここで、自分がすべき行動は逃走。
そんなことは智坂には当然わかっていた。
彼は一年しか戦場にいなかった。
その内の半分は訓練の日々で実際に戦場にいたのは半年しかない。
だがその半年間、彼は死なずに生き残った。
人も大量に殺してきた。
仲間も見殺しにしてきた。
それが合理的で正しい判断だったからだ。
仲間を守るために・・・
上司の命令で・・・
自分の命を守る上で・・・
正しい判断をしてきたのだ。
戦場ではそう言った正しい判断ができない者から死んでいく。
仲間を見捨てるのも、相手を殺すのも、自分が生き残るためであり、それは勝利に繋がるのだ。
(ここで俺が戦って被害を抑えようが抑えまいが、ある程度の被害が出る。
俺が戦っても勝利は得られず、戦わなくてもいずれやってくる正義の味方が勝利を勝ち取る。)
今逃げなければ、自分は捕まる可能性もある。
そういったことは、智坂には分かっていた。
それでも・・・・
「助けてくれ~!!」
誰かのその叫びには応えなければならないと彼の本能が叫んだ。
「うおおお!!」
次の瞬間には智坂は戦火の中に居た。
雄叫びをあげて助けを求める人の下へ行き力の限り拳を振るう。
その拳は訓練通り体全体の力を収束して人体の急所を突く。
ドワーフやホビット、ゴブリンやオークといった地下帝国の怪物達も同じ人型故に人体の急所は共通している。
おまけに彼の身体能力は訓練用の戦闘服ではなく実戦用の訓練服であるために10倍の筋力にまで能力を向上させてくれる。
パンチングマシーンで100kgを出せれば1tの攻撃になる可能性のスーツを着ての急所突き。
智坂の攻撃は人を襲っているゴブリンに放ったものなので当然、回避や防御を相手に許さなかった。
なので、これを食らって立っていられる人間はいない。
例え相手が人外の生物であってもだ。
「%’%$#!!」
声にならない悲鳴を上げるゴブリンを余所に智坂は銃を発砲して周囲の敵を引きつけて応戦する。
発砲は一発目は上空に、二発目以降は身近な敵に発砲して使用する。
地下帝国の連中にはハンドガン程度の威力では至近距離でなければ戦闘不能にはできない。
「「「ギャァアアア!!」」」
それでも、拳銃に撃たれ重傷を負った奴を他の仲間が助けて後退していく。
「今のうちに逃げろ!」
智坂に注意がいっているため智坂の周辺の人々は襲われるのが一時中断した。
智坂は声をあげて皆に逃げる様に声をかける。
その声を聴いてようやく周辺の人達も我に返り逃げ始めた。
攻撃を受けた者とそれを救助した以外の者達が智坂を警戒して戦闘態勢に入る。
智坂は銃は撃ち尽くさずに逃走時に使用できるように3発残しておいて戦闘態勢に入る。
「やれ!」
敵の中の1人が号令を出すと数人の敵が俺に向かって一斉に攻撃を仕掛けるために突撃をかけてくる。
智坂はその中の1人にこちらから突撃をかけて殴りつけ、相手の手を取って放り投げて別の奴にぶつけている間にその他の奴に攻撃を仕掛ける。
なるべく、一対一で戦えるように気を配りながら囲まれない様にする。
時に逃げ、反撃し、突撃する。
そんな風に戦いながら応戦するが数の暴力には敵わない。
やがては、襲い来る敵の数が徐々に増えて来て智坂をタコ殴りにするだろう。
(もともと無理があったか・・・)
智坂は徐々に追いつめられていく自分をどこか別の誰かだと思いながら冷静に状況を把握して戦いを続ける。
本来ならばすぐにでもフレイムバサラが駆けつけてもおかしくないのだが、彼は未だに現れる気配がない。
だが、智坂はそれがなぜかなんとなくその理由がわかった。
(俺にやられたのに敵の増援がない。)
智坂にとってその情報だけで現状を把握するのには十分だった。
つまり、襲撃地点はここだけではないのだ。
ここ以外にも複数の地点、もしくは広範囲の地点が攻撃を受けている。
そのため、フレイムバサラはそちらを対処しに行っている。
こうなってくるとSランクヒーローがいるとはいえ、一人しかヒーローがいないというのは問題だ。
Sランクのヒーローは強大な力を持つ故にこの戦いに一人で勝つことができる。
だが、街に一定以上の被害を出さないためには力を抑えて戦う必要がある。
故に殲滅力が落ち時間がかかてしまう。
おそらく、兄であるフレイムバサラは今何処かの戦場で戦っていてこちらに来るにはもうしばらく時間がかかるのだろう。
時間が経てば他の地区のヒーローが加勢に来てくれるだろうが・・・
(果たして俺がそこまで持つかな・・・)
そこまで考えた後、智坂は自分がどうすべきかを考える。
このまま、戦えば自分は負けるだろう。
逃走を図はかれば例え逃げ遂おおせてもこの場で戦った意味がなくなる。
智坂が逃げれば今自分に向かってきている敵が他の連中を襲うだろう。
彼らの目的は侵略であり、進行した場所とそこにいる人材の確保が主な目的だ。
抵抗する者は排除、逃げる者は捕まえるか出来そうになければ放っておく。
無駄に戦力を減らさないのも今後のためだ。
なので、智坂が逃げれば十中八九逃げられるだろう。
敵の目的が『殲滅』出ない以上、相手は無駄な消耗を抑えて追っては来ない可能性が高い。
助けを求める人のために立ち上がった智坂が今ここで逃げるのは選択的におかしい。
それならば、最初から闘わなければよかったのだ。
では、相手に捕まるか?
それはできない。
智坂の着ている戦闘服が相手に盗まれれば地下帝国と悪の組織のパワーバランスが崩れてしまう。
そのため、この戦闘服には技術が盗まれない様に自壊する装置が組み込まれている。
いざとなればそれを発動して戦闘服を破壊。
智坂は顔も分からない様な状態で死ななければならない。
正義の味方たるフレイムバサラの弟が放火魔をしていたなどということはあってはいけない。
敵に捕まってしまえばいずれ勝利する正義の味方に捕まることにもなる。
そうなれば変装は意味をなさず、智坂の顔を見たヤクザ達に「こいつが放火魔だ」と供述をされて逮捕されるだろう。
正義の味方を志す姪のため、兄の威厳を守るためにも智坂の死は「遺体がこいつかもしれない」という状況で見つからなければならない。
智坂は咄嗟に火事の現場を見る。
(あそこに飛び込むか・・・)
火災現場に飛び込んで丸焼きになれば死体が誰のものか判別はできない。
現場は怪物が跋扈する地獄絵図なのだ。
丸焼きの死体が見つかっても何も不思議はないだろう。
智坂の頭にはそんな未来ビジョン浮かんでいた。
(さらばだ!)
智坂は最後に地下帝国の兵士を引き連れてトラックの火災現場へと向かう。
敵を引き連れ道連れにする作戦に出たのだ。
自分の命を捨て何かを守る。
その姿は第二次世界大戦時に片道しかないガソリンで特攻をかけた戦闘機に乗せられた兵士の様だった。
彼らの大半は強制的に上からの命令で特攻をかけさせられたわけだが、きっと中には智坂の様に何らかの希望を見つけて飛んだ人たちもいたことだろう。
ピンチの時に駆けつけて助けてくれるヒーローなど存在しない。
例え悪の組織や正義の味方と呼ばれる者達がいる世界でも現実はそんなものなのだ。
本当に助けが欲しい時に差し出される手など存在しないのだ。
グワァァアアン! ジュドーン!!
智坂が地下帝国の兵士を道連れにトラックに突っ込もうとしたその時、巨大な貯水タンクがトラックにぶつかり破砕しながらトラックと共に飛んで行った。
「真打登場。といったところかしら?」
貯水タンクの飛んできた方向を見ると先程晶が来ていた制服と同じものを着つつもルーズソックスから普通の靴下に変更され、髪は黒髪に手には扇子を持っている。
「この金剛こんごう 光ひかるが来たからにはもう安心ですわ!」
そう言って彼女は扇子を広げて高笑いを始める。
敵が襲ってくると彼女は敵に触れて能力を発動し噴き飛ばした。
彼女が触れたん場所からは強力な空気が噴出し敵を噴き飛ばし、引き飛ばされた敵がその他の敵を巻き込んで弾き飛んでいく。
「筋肉筋肉~♪」
「探の装」
「皆さん。こちらが安全です。すぐに避難してください。」
「陣風シュツルムヴェレン」
他のメンバーも先程と同じようにコスプレして敵と応戦しながら戦っている。
オペレータの佐部さんは避難誘導をしている。
(な、印輝さんが変身しただと?!)
智坂の予想は外れており、印輝さんは見事に三ツ星獄制服へと変身を果たした。
そう、上伊集院が作った獄制服は変身すら可能なのだ。
効果音などは車内で上伊集院がアニメの変身シーンを流すことで見事に再現されていた。
思わぬ伏兵の到着に智坂は一瞬だけ思考を止めるが、すぐに思考を再始動して状況を確認。
すぐさま、逃走を開始した。
「皆さんは付近の人の安全を確保してください。私わたくしは敵を排除しますわ!」
金剛は周りの人にそう指示を出して自分は率先して戦闘を開始した。
これにより突如出現した強敵に地下帝国の兵士たちは一声に襲い掛かるが、本部からの撤収命令が出たのか。
この後、すぐに引きさがるのだった。
この後、警察や消防、救急隊員が救助活動や負傷者の運送を行うことになるのだが残念ながら違法ドラッグの生産工場は火事で全焼。
火事に紛れて製造していた違法ドラッグも見事に処分した製造元は高笑いを浮かべることになるのだった。
「ゴクリ」
男は痛み止めの薬を飲み、ボスの部屋へと向かう今回の件を報告するためだ。
コンコン
「入れ。」
ボスの部屋をノックするとすぐに返事が返ってきた。
カチャリ
「失礼します」 バタン
中に入る前に一礼してから部屋に入ると男は扉を閉めた。
「すみません。ボス。敵を取り逃がしました。」
坊主頭のヤクザがそう言って男に頭を下げて早速謝罪の言葉を述べる。
「かまわんよ。薬やくは全て焼却処分することができた。証拠はない。製造は別の場所でやることになるがな。」
男は坊主頭のヤクザを怒ることなく冷静にそう告げる。
「ボス。あの地下帝国の連中はまさかボスが・・・?」
「ああ、直接ではないがある筋からお願いして来てもらったんだ。まさか、この辺一帯であんなに暴れるとは思わなかったがうまくいってよかったよ。」
坊主頭の男の質問に男は平然と窓の外を見たままに答える。
「すいやせん。俺が不甲斐無いばかりに・・・」
「なぁに、構わんさ。貴様の代わりなどいくらでもいる。」
「え、それはいったい・・・ ガハ・・・!」
坊主頭の男は突如襲い来る猛烈な痛みに胸を押さえて地面に這いつくばった。
「悪いな。地下帝国との取引で生きのいい生贄を数百人ほど用意せねばならん。時間がないので、お前の部下とお前に言って貰うことにしよう。」
ガチャリ
男がそう言うとドアが開き複数の地下帝国の兵士が入ってきた。
「薬で弱らせているがじきに良くなる。今のうちに連れて行ってくれ。」
男の言葉に兵士達は頷き男を抱えて部屋を出ていく。
「ボ、ボス・・・」
「すまねぇ~な。」
パタン
男は最後まで坊主頭のヤクザに振り返ることはなかった。




