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拉致

実家に帰った翌日。


俺は拉致に遭い現在地がどこか分からない場所に連れさられた。


室内はあるが分厚いカーテンで閉め切られていて外の様子は見えない。




ただ電気がついていることと室内に散乱する机や棚から以前はデスクワークをしていた会社のビルか何かであることと電気会社にお金を払っているのでここが廃墟ではないことはわかった。




「手荒い真似をしてすまない。」




女性は俺の前に椅子を持ってきてそこに腰かけると謝罪した。




「何に対してだ?」




俺は不機嫌さを全く隠すことなく女に問う。


ついでに後ろにいる男女数名を睨みつけながら実力がどの程度か確認するのを忘れない。


手足の拘束を解くことができれば戦闘になる可能性も十分にあるからだ。




「無論、この拉致という状況とここに運ぶための行為に対してだよ。」




女性は胸を両手で押し上げて上目使いに誘惑するように俺を妖艶に見つめる。


睨みつけられているにもかかわらず籠絡しようとしているので彼女はなかなか場慣れしているようだ。


こういった経験が他にもあるのかそれとももっと酷い事なのかはわからないが、どうやらこの女性に関しては実力はともかく交渉力では敵わないかもしれない。




「それで俺に何の様だ? 殺さないってことは何か用事があるんだろう?」




俺は単刀直入に質問を投げる。


もし彼らが俺が嗅ぎ回ろうとしている違法なドラッグの製造元に雇われた者達かその一味ならば俺を連れ去ったのは殺す為だ。


脅してから返すだけなんて組織は存在しないし、殺すつもりならば山奥に埋めるか自殺に見せかけるかもしくは遭難者に仕立て上げるかだ。




だが、目の前の女性は第一声で俺に謝った。


そこから推測するに、この女性は俺と何らかの協力関係を結びたいのだろう。


俺の予想は当たっていたらしく女性は「君は頭の回転が速いな」と言ってもう一人仲間を呼んだ。


それは中学生ぐらいの少女でどこかの学校の制服にルーズソックス、頭にはゴーグルをつけていた。




(・・・何処かのアニメで見た姿だな・・・・)




少しだけ逡巡した後に、俺は昨日の夜に晶が見ていた『とある魔術と科学の狭間』にでてくる美坂琴御みさかことみの姿を思い出した。


ゴーグルはつけていなかったが確かにアニメの姿形そっくりの出で立ちだ。


感情が薄い印象を受けるのはコスプレしている本人の性格だろうか・・・




そんなことを考えていると目の前の女性が「これを見てくれ」といって彼女に電球を渡した。


するとどうだろうか手に触れただけだというのに電球が発熱して光り出したではないか。


まるでアニメに出てくる美坂琴御の発電能力そのままじゃないか。




「これが私が作った衣装の力だ。ちなみに、もっと強力な電気も発生させることができるぞ。どれくらいかは君がその身に受けてすでに味わっているだろう。」




女性はそう言って彼女の着ている衣装を指さして説明を始める。


女性の話によると女性が作ったコスプレ衣装には着るとその元となったモノの能力や身体能力を得ることができるらしい。


ただし、衣装の大きさが変化すると得られる能力が低下するし衣装を着る本人がどれだけ本物を理解しているかや本物に似ているかで能力に差が出るらしい。


差というのは元となった者とマネしているの者の差だ。


つまり、似ていれば似ているほどに本人に近い能力を得られるのだ。




「私はこの衣装を作る能力でアニメや漫画に出てくるヒーロー達を現実世界に降臨させてヒーロー業界に新たな風を起こそうと思っていたのだが、残念ながら似ている人物が見つからなくてね。衣装をどれだけ精巧に作っても本人の演技力と身体的特徴が能力に悪影響を与えてしまって能力がうまく発動しないんだ。だが、私は今回の新人ヒーロー発掘作業時に幸運にもこの私の能力と適合する一人の少女に出会った。その少女もまたヒーローに憧れる強い意志を持っていてね。おかげで、彼女を仲間するのは簡単だったよ。」




(嫌な予感がする・・・・)




女性がそこまで言い終わった後に俺はとてつもなく嫌な予感がしてコスプレ中の少女を見た。


少女はクスリと笑って笑顔を向けてくる。




(まさか・・・)




「紹介しよう。彼女こそ私の・・・ いや、私達の救世主である。智坂晶君だ。」




女性がそう言い終わると同時に目の前のコスプレ少女は軽やかに変身して顔の形を変える。


その顔は俺のよく知る姪の顔だった。


人限定の変身能力を持つ俺の姪、智坂晶。


彼女こそ俺を気絶させた張本人だ。




実家のしかも玄関先での強襲。


目の前の女性からの攻撃は未然に防ぐ自信があったので背後からしかありえないとは思ったが、まさか姪の犯行だとは思わなかった。


まぁ半ば引退しているとはいえ正義のヒーローのいる家に隠れて行動する誘拐犯などいないだろう。




「ごめんね。兄さん。」




晶は深々と頭を下げて俺に謝罪した。


その姿に思わずため息をつきながらもとりあえず一言。




「そちらの方達の自己紹介と手足の拘束を解いてくれ。話はそれからだ。」




俺の言葉に女性と後方に控えている男女数名は少しだけ戸惑ったが晶が率先して拘束を解くので一緒になって拘束を解いてくれた。




「縄の跡が・・・」




俺は手や足に着いた縄の後を見て少しだけブルーになりながらも彼らに自己紹介をする。




「智坂徳です。晶の叔父です。」




「私は上伊集院かみいじゅういん 椿つばきだ。この組織のリーダーで衣装を作っている。」




「佐部さぶ 萌々子ももこです。通信やパソコンを使っての探索などを担当しています。」




「熱血と筋肉担当の篤是あついぜ 純あつしだ!」




「インテリ系と頭脳派を担当する印輝いんてる 灰照はいてるだよ。」




「ナレーション担当の七色なないろ 音呼いんこです。」




次々に行われる自己紹介+名刺交換。


なぜ俺が名刺を持っているのかって?


そりゃ表向きはただの会社員ですからね。


持ってた方がそれっぽく見えるでしょう?




俺は名刺交換を終えて椅子に座り直すと本題に入る。




「それであなたの能力を使って特殊な衣装を作ってそれを着て晶が戦うと・・・」




「そうだ。変身によって顔の形から体型、体格とすべてを完全にトレースすることで私の能力を完全に使うことができるようになる。」




上伊集院は目を輝かせながら子供が夢を語る様にそう言った。


俺はそれを聞いた瞬間、ゾクリと恐怖を感じた。


それはアニメや漫画、特撮好きの夢を叶える魔法の様なアイテムでもあるが、実際にそれが存在すればただの凶悪な兵器でしかない。




なにせアニメのヒーローというのは最初は弱いが最終的にはその物語で最強たる力を持つ存在になるのが基本だ。


その実力はもれなく『S』ランクのヒーローかもしくはそれ以上の超常の力を持つ。


いや、コスプレするだけで能力が使えるならば何も正義のヒーローでなくてもいいだろう。


最初から最強クラスの力を持つ悪側のラスボス的存在に変身コスプレすればいい。




物語の中では最強最悪な彼らもコスプレしてその能力を引き出すだけならば別に危険でもなんでもない。


寧ろ、中には最強無敵の能力を持つ者さえ存在するだろう。




(なんて恐ろしい能力だ・・・ 晶の変身による完全な変身コスプレが成功すれば、これは悪の組織を・・・ いや、ヒーロー界を震撼させるヒーローが誕生するぞ・・・)




ヒーローの主な仕事は『悪の組織と戦うこと』『悪の組織を壊滅させること』だが、その他にも危険な現場に赴いての救助活動も存在する。


逆にそれのみに特化したヒーローも存在する。




そして、重要なのはヒーローは決して万能ではないということが覆ることだ。


俺の兄であるフレイムバサラは炎しか扱えないので可燃性のガスを街中で発生させられると一般人の安全のために戦闘ができなくなるし、ライダーマスクは空中戦ができない。


スーパーマンは一見万能だが、遠距離攻撃を持たないので長距離攻撃は苦手だ。




そのため実はヒーローには空中戦ができる怪人や長距離攻撃のできる怪人を使って確実にダメージを与えて勝つといった戦法が取れない訳ではない。


寧ろ、取れが勝てるのだが・・・


その場合は別の相性のいいヒーローがやってきて戦うことになるのでなかなかそう言う訳にもいかない。




そんなヒーローの欠点を完全に無視できると言っていい能力を俺の姪は持つかもしれないのだ。


これには戦慄せずにはいられない。


叔父としてはうれしい気持ちがないと言えば嘘ではないが、悪の組織の一員としてはもはや戦う前から白旗をあげたくなる。




「ふふふん。すごいだろう♪」




上伊集院は勝ち誇ったような笑顔を向けて俺に自慢げに晶を見せつける。




「ああ、あんたたちがすごいのは分かった。それで・・・ なんで、俺を拉致したんだ?」




俺は頭を抱え込みながら結局、自分がなぜ拉致られたのかがわからないので聞くことにした。




「おっとそうだったな。実はね・・・」




「徳兄さんの仕事を手伝わせてほしいんです!」




上伊集院が話を始める前に晶は言葉を発する。


昨日の俺の説得でまだ納得いっていなかったのだろうか・・・




「いや、でもそれは昨日話しただろう。探偵の仕事はヒーローとは・・・」




「無関係というわけではないのだよ。」




俺が晶を説得しようとすると上伊集院が俺の言葉を遮って反論する。




「君の仕事を手伝うことは我々にとって意味のあることなのだよ。」




そう言って上伊集院は自分たちの組織の現状を説明する。


なんでも彼女たちは協会から正式にヒーローとして認められていないらしい。




「その理由は三つある。一つは能力が規定値に達していないこと。二つ目は実績がないこと。三つ目がこの街ではヒーローの活動ができないからだ。一つ目の課題は晶君の加入によりコスプレ時の能力が上昇したので戦闘向きの服を作成すればすぐにでも解決するだろう。となると残りの二つが問題なのだが・・・」




上伊集院は何か言いたげに俺を見つめる。


恐らくは二つ目の『実績がない』についてだろう。


俺の仕事を手伝うことで何かしらの実績になると彼女たちは考えているのだろう。




「断る。」




俺は断固として彼女たちの助けを拒んだ。


兄貴に内緒で晶を危険に巻き込めないし、彼女たちの実力が不確定なためだ。




「ならばしかたない・・・」




上伊集院はそう言って一瞬諦めたかのように残念そうな顔をする。


周りにいる仲間も晶も上伊集院に「いや、交渉か説得しましょうよ」と視線を向ける。


そんな上伊集院を俺は「話の早い人でよかった」と安堵する。


だが、それはほんの数秒のことだった。




「探偵業の件を君の会社とご両親に報告しよう。」




上伊集院の口から放たれたこの一言で俺は一瞬凍りついた。




「どうするね? 私達と共に隠れて探偵業をするか。ご両親と会社にバラされて人生を終えるか。」




上伊集院は勝ち誇った笑顔を向けて俺を楽しそうに見つめる。


俺はというと固まってしまって動けないでいた。


探偵業のことがバレたとしても、親の方はまぁ問題ないだろう。


心配はされるかもしれないがそれだけだ。




問題は会社の方だ。


表向きは探偵業のせいで醜悪な眼で見られ、裏でも『身内バレした危機管理のない馬鹿』扱いだ。


果たして、その扱いに俺の繊細な心が耐えられるだろうか・・・


いや、最悪は悪の組織の一員としての自覚が足りないと判断されてクビになるかもしれない。




表向きは副業と会社内での迷惑行為の為ということになるだろう。


探偵業というのを『個人情報を不正入手しようとしていた』などというでっち上げをするだけで簡単に会社側は俺をクビにできるだろう。




この就職氷河期にまた就職活動をしなければならないのかと思うと憂鬱になる。




「さぁ! どうするね!」




上伊集院は俺の狼狽する姿を見て完全に勝利を確信したのか。


強気な態度で俺に決断を迫ってきた。


俺はどうすればいいのかわからずに悩んでいると晶は突然、携帯を取り出した。




「早くしないと交渉決裂でいいよね。」




なんということだろうか。


晶は携帯の『家』と表記されたアドレス画面を見せて俺を脅してきた。




(実の姪に脅迫されるだなんて・・・・)




そんなことを考えている間にも晶は画面を操作して電話番号を呼び出して『呼び出しボタン』に手を近づけていく。




「分かった。協力しよう。」




俺はこうして晶たちと組むことになった。



人を脅迫するのは『脅迫罪』という犯罪です。

絶対にしてはいけません。

晶たちはヒーロー側ですが今は実績欲しさに手段を択ばない強引な手法を使っています。

なので本来はヒーローの行う手法ではありません。

探偵業自体は犯罪ではありません。

主人公たちは悪の組織の一員なので個人、又は団体での尾行や身辺調査を行っているので正確にはストーキングだと作者は思っております。

ストーキング自体は恐らく犯罪ではありません。

もしストーキングが犯罪ならばメディアは犯罪者の集団ということになります。(情報を得るための待ち伏せ行為などをしている作者のイメージ的にです。)

作者がドラマをなどを見た感想からも、ストーキングは過度でなければ厳重注意しか受けません。

ただ、社会生活を送る中でマナーとして人が嫌がる行為はやめましょう。

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