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智坂晶

この話もほとんど改定しておりません

任務のことで会社に電話をして事情を聴き、自宅に帰るとなぜか極秘任務の資料を晶が見つけて読んでいた。


おまけに俺は晶に見つかってしまう。




(・・・・)




俺はどうすればいいのかわからずに座り込んでしまい、思考は停止した。


資料には悪の組織に関することをボカして書いてあるので見られたからといって即座に俺が悪の組織の一員だとは気付かれないだろう。


だから、何か良い言い訳を考えてこの場を切り抜けるのがベストなのだが残念ながら俺の許容範囲を超えてしまっている目の前の問題に思考は働こうとしない。




そもそも、ただの会社員が違法ドラッグについての資料やその製造工場の調査とか、もしもの時の交戦時用の戦闘服の配備とかされるのはどう言い繕ってもおかしい。


俺がようやく思考を動かしだしたその時、晶はゆっくりと立ち上がり少しだけ開いた障子の扉を開け放つ。


俺にはそれが死刑執行を言い渡しにきた死刑執行官のように見えた。




(終わった・・・)




俺は両手をついたまま俯いて死刑執行を待つ。


晶が俺をどうするのかはわからないが、現状取る選択は恐らく二択だろう。


克兄さんを呼んで俺を倒すか警察に連絡するかだ。




(いや、俺が抵抗しなければ晶でも倒すことはできるので三択か・・・)




俺はそんなことを考えながら捕まるにせよ、殺されるにせよ。


最後の瞬間が来る前に何とか支部に連絡して皆には逃げてもらわなければならないだろう。


そんなことを考えながらズボンの上から携帯の位置を確かめる。




先に言っておくが俺に晶をここで捕獲してどうこうするという選択肢はない。


理由は二つ。


一つ目は場所と時間が悪いからだ。


場所が実家でしかも兄夫婦がいる状況では誘拐も監禁もできない。


時間帯的にも俺の両親はいつ帰ってきてもおかしくない。


塀を飛び越えれば外に逃げられるが、田舎とはいえそれなりの交通量はある場所なので人を抱えて移動すれば目立ってしまう。




あと、確か姪の携帯にはGPSがついている。


父親がヒーローなので誘拐などの危険があるということで協会と兄夫婦の意向でつけられたそれは壊れると克兄さんと警察にすぐさま連絡が行くので壊せない。


かと言って俺が持っていたり姪と一緒に持っていくことはできない。


いや、晶の部屋はすぐ隣だから置いておけば何とかなるだろう。




ただやはり、現状では誘拐も監禁もできない。


この家は普通より大きいが兄や警察、協会の人間が捜索すればすぐに見つかってしまうだろう。


殺害しても一番怪しいのは今日帰ってきたばかりの俺だ。


家族は騙せても警察や協会の人間を騙せるとは思えない。


そんな技術があれば晶に嘘八百を並べ立てて資料のことを誤魔化すことができるはずだ。




そんな訳で拉致や監禁、誤魔化しなどはできない。




二つ目の理由は俺が単純に晶を傷つけられないからだ。


晶だけではない俺には自分の家族を傷つけてまで貫く信念や恨みなどはない。


特に晶は物心ついた時から傍にいる妹のような存在だ。


実際、俺は両親や兄夫婦に言われるまで晶のことを妹だと思っていた。


まぁその事実を知ったから高校に入ってからアパートで1人暮らしを始めたのだが・・・




晶も俺のことを兄の様にしたってくれていたし、実の兄妹ではないが実の兄妹以上に仲が良かったと思う。


実の兄妹じゃないと知ってから少し距離を取るようになったが、それでも俺は晶のことが大好きだ。


無論、性的な意味ではなく家族としてだ。




そんな訳で晶に危害を加えることは俺にはできない。




つまり、俺に取れることはただ成り行きを見守ることと最後の瞬間が来る前に支部の皆に避難を呼びかけることぐらいだ。




タ・・・ タ・・・




晶はゆっくりと俺の方に歩み寄ってくる。


そして、俺の前で立ち止まる。


俺は晶の足を見つめながら晶の次の行動と発言を待つ。


数秒なのか数分なのかどれくらいの時間がたったのかはわからないが、俺にはものすごく長く感じられた。




「徳兄さんって」




そんな体感時間でものすごく長い時間待っていると遂に晶が口を開いた。


その次の言葉がなんなのかを考える暇もなく、晶の口からは言葉が紡がれていく。




「探偵なの?」




(・・・・ん?)




聞き間違いだろうか。


いきなり『探偵』かどうかを問われた。


俺は訳が分からないこの状況を確認するため、ゆっくりと顔をあげるとそこには・・・


眼を燦々と輝かせて俺を見つめる晶がいた。


両手には極秘任務が書かれた資料が握られている。




「ええっと・・・」




俺は顔を完全にあげて晶から顔を逸らしてチラチラと晶の顔と外の景色を眺める。


外の景色は頭を落ち着かせるために、晶の顔を見るのは晶の考えを読むためだ。


晶の眼はものすごく期待に満ち溢れた物だった。


こんなに晶が目を輝かせるのは幼少期にアニメのヒーローを見て感動しているとき以来だ。




(よくわからないがこれはチャンスだ・・・!)




俺はそう思って考えを巡らせる。


よくわからないが晶は俺のことを探偵か何かと勘違いしているらしかった。


これをうまく利用すれば俺でも晶を騙せるだろう。




「じ、実は会社の上司から個人的にそういうのの調査を請け負っているんだ! いや、別に探偵っていうほどしっかりとした区切りや本業とは違うんだけど・・・ まぁだいたいそんな感じ・・・」




俺はオドオドとしながら「これでいいのか?!」と自問自答を繰り返しながら話し出す。




「やっぱり・・・!」




晶は俺の答えが期待通りでうれしいのか、しゃがみこんで顔を近づけてくる。




「あ、晶・・・ そんなに顔を近づけないで・・・」




俺は晶の両肩を掴んで引き剥がしながら話を続ける。




「こ、このことは会社や兄さんたちには秘密だぞ。会社にバレると社内に探偵まがいの行為を行う奴がいるってなって変な騒ぎになるし、克兄さんたちには心配かけるかもしれないからね。」




「わかった。これは2人だけの秘密だね。」




晶は目を輝かせたまま俺の言葉に頷く。


探偵に会えたのがうれしいのか晶は何度も頷いている。




「そうか。わかってくれたか。じゃ、これは極秘資料だから返してね。あと、見たことは全部秘密だからね。」




俺は立ち上がって晶の手に持つ資料を掴んで引っ張る。


だが、晶は資料を両手で掴んだまま離さない。




「晶? 手を離し・・・」




「あのさ・・・」




俺が苦笑いを浮かべながら手を離す様に促そうと声を発すると晶は呻くような小さな声で語りかけてくる。


その声が真剣みを帯びているようだったので俺は言葉を紡ぐのをやめて聴く体勢を作る。




「その仕事、私に手伝わせてくれない?」




晶は顔をあげて真剣な表情を向けてくる。


その顔には先程までの子供の様な燦々と輝く瞳ではなく、何かしらの決意の炎が宿った瞳が入っていた。


真剣な表情に決意の宿った瞳。


この二つから俺は晶が冗談や好奇心だけでそう言っているのではないと悟った。




(止めるべき・・・ なんだけどな・・・)




調査が主な任務とはいえ、危険が全くないわけではない。


こちらの存在に気づいた敵の放つ兵隊たちとの戦闘や、事故に見せかけた奇襲があるかもしれない。


だから、本来なら俺はどうにかして晶を説得するべきなのだろう。


例え、どんな事情があろうともだ。




だが、俺は人を説得するのがそこまで得意ではない。


以前に紫原さんとその仲間の不良たちを改心?させた気もするが、あれはただ単に俺の身の上話をしただけで説得したわけではない。


晶に俺の身の上話をしたところで以前の様な効果はないだろう。




だから晶に諦めてもらうには『説得』か『放置』しか選択肢はないのだが、説得は俺の能力では無理だろう。手伝いたい内容が内容なので家族を使って説得することもできない。


ならば放置して突き放したところで晶はきっと俺の後を勝手について来て真似事をしだすだろう。


そうなると、敵に晶という人質を取られかねない。




晶を人質に取られると克兄さんが出てくる恐れがある。


それはそれで工場の破壊が楽になるのだが、その後でなぜそうなったかが問われることになる。


そうなれば言い逃れはできないだろう。


そこで克兄さんを晶の様に誤解させることができるかどうかは分からない。


もしもの場合を考えてそうならない様に配慮しなくてはなるまい。




(つまり、説得も放置も現状ではできないな・・・)




俺はようやく冷静に現状を観察して答えを出す。


俺が答えを出すまでの間も晶の真剣な表情は崩れない。


瞳に宿った決意に関してはどんな説得を受けようとも跳ね除ける覚悟まで宿っている。




「あ、晶はどうしてこんなことにかかわりたいんだ? 危険だしお金は出せないぞ? お小遣いが欲しいなら久しぶりに会ったから今ここであげよう! いくら必要なんだい?」




俺は晶がお金に困っているのではないかと想定して話を振る。


もし間違っていても、これで晶の眼に宿った決意の理由が知れればそこから突破口があるかもしれない。




「それは・・・ 中で話そう。」




晶は左右を見て人がいないことを確認すると俺を部屋の中に引っ張り込む。


俺は抵抗なく晶に引かれるままに自室に入って床に座布団を敷いて座る。


俺を部屋に引き入れると晶は部屋の扉を閉めて俺の前に座布団を敷いて正座して座る。




「えっと・・・ 徳兄さんはヒーローになりたいって思ったことはない?」




晶は両足の間に両手を挿んで擦りながら恥ずかしそうに顔を少し下に向けて視線だけを俺の方に向けて上目使いに聞いてくる。


質問の意図はよくわからなかったが俺は真面目に晶の言葉に返事を返すことにした。




「ないよ。俺は自分がヒーローになりたいだなんて一度も思ったことはない。」




ハッキリとそう告げる。




「え? そうなのか? でも、徳兄さん。昔は超能力に憧れてたよな?」




俺の答えが納得いかないのか意外だったのか驚いた様子で言葉を返す。


晶の言う通り俺は小学生の高学年から中学二年生の頃のに超能力者になりたくて昔でいう厨二のような存在だった。


ちなみに、今では厨二とは呼ばない。


なにせ、本当に超能力者がいるのだ。


その真似事をしていても特に『おかしい』とは思われないし子供ならば誰だってそうだろう。




寧ろ、そういった厨二行動を取る人間は能力に目覚めやすいらしい。


なのでそういった行動をとる人は『発症者』と呼ばれる。


無論、発症者が全員超能力に目覚めるわけではないがそう呼ばれている。


だから俺も元発症者と言われればその通りだ。


結局、超能力に目覚めることはなかったが晶はその時の俺の行動が『ヒーローになろうとしている』様に見えたのだろう。




「確かに俺は超能力が欲しかったよ。でも、それはヒーローになりたかったわけじゃない。」




俺は嘘偽りなくハッキリと答えを述べる。


晶はまだ信じられないのか疑いの眼差しを向けている。


確かに超能力に憧れる人間のほとんどが次に目指すのはヒーローだ。


だが、力の大小や能力によってはそのサポートなどに回されることがある。


寧ろ、俺としてはそういった方の仕事の方をしてみたいと思う。




「そうか。晶はもしかして知らないのかな?」




「何を?」




俺の言葉に晶は抱いている疑問を強くしたのか表情は険しい。




「秋穂さんが超能力を使えることは知っているよね? じゃ、克兄さんだけでなく俺の両親。晶の祖母も超能力を使えることは知っているかい?」




「そうなのか? でも、見たことないぞ?」




晶はそう言って首を傾げる。


克兄さんの能力と性格上、時たまに怒った時にその能力で周囲に熱を放つためにその能力を見ることは家ではさほど珍しくない。


秋穂姉さんの能力は熱吸収なのでそれを唯一抑えることができる能力なのだが、残念ながら威力が低いので他の人を守れず兄を説得することしかできない。


そういった理由もあって秋穂姉さんの能力も家族全員が理解している。




ただ、俺の祖母は超能力の性質上あまり見ることがない。


きっと晶もそれで知らないのだろう。




「うん。実はそうなんだよ。今度見せてもらうと良いよ。大したことないけど使えるのは事実だから。


それでね。実はうちの家系を辿った本家は代々超能力者の家系でね。」




俺は晶に家の両親の実家のことを話す。


両親の実家は代々超能力者の家系でその能力は全員がヒーローとして活躍できるほど強大だ。


そこに生まれた能力の低い落ちこぼれがうちの父『智坂 繕ぜん』だ。


父は成人と共に実家を追い出されていて父の両親や兄妹とは不仲だ。




父は結婚時に苗字を捨てるために婿養子となって母である『智坂真矢』の姓である『智坂』を名乗ることにした。


旧名である苗字は父がその名を使うと嫌がるので伏せておく。




「まぁそんな訳で実は俺達には顔も名前も知らないけどおじさんやおばさんがいるんだよ。」




「・・・」




晶は口を開けて驚きの表情を浮かべたまま固まっている。


いきなり言われた事実に理解が追いついていないのだろう。




「まぁ、そんなわけでうちは超能力を持つ家系なんだよ。だから、俺は超能力が欲しかったんだ。ヒーローになるためじゃなくて家族の一員の証としてね。」




俺の言葉に晶は暗い表情をして言葉を失う。


おそらく今までは兄が突然変異で超能力者になっただけで普通の家系だと思っていたのにそんな大それた一族の末裔だと知っての混乱と俺に対する認識の間違いに気づいてしまったのだろう。


なにせ、俺は能力の低い『落ちこぼれ』である父よりも下の『能力なし』なのだ。


俺の家族内での居た堪れなさが歳の差があり過ぎる兄と歳が近すぎる姪だけでなく、超能力を持つ家族全てが俺にとって実家にいたくない理由の一つとして追加される。




おまけに、晶の能力は決して大きくない。


晶はそれを昔、俺に色々と愚痴ったりしていた。


そうすることで能力のない俺よりはましだと子供ながらに思いたかったのだろう。


まぁ大抵は俺が晶に意地悪をしたことへの仕返しなので全面的に晶が悪いわけではない。


だが、それがここにきて重くのしかかっているのだろう。


晶は下を向いたまま何も言おうとはしない。




「晶、気にするなよ。超能力が無いことはもう気にしてないし、目覚めるのが30代を超えてからの人だっているんだ。だから、お前が気にすることじゃないよ。」




俺はそんな晶にできるだけ優しく話しかける。




「ごめん。そんな理由があっただなんて知らなくてさ・・・」




晶は顔をあげて俺に謝罪する。


その瞳には涙が溜まっていた。




「いいんだよ。晶はこんなこと気にしなくて、今まで通り接してくれればいいからね。」




俺はハンカチを取り出して晶の涙を拭いてやる。




「兄さん・・・!」




感極まったのか晶は俺の胸に飛び込んで来た。


俺はそんな晶を優しく受け止めて頭をなでてやる。




ガラ・・・ 「晶、徳君。ご飯よ・・・・」




そんなことをしていると秋穂姉さんが扉を開けて入ってくる。


いや、入ってこようとして固まった。


そして、体全体を硬直させて俺と晶を見つめる。




自宅の密室で抱き合う夫の弟と娘。


秋穂姉さんが入ってきたために頭を少しだけ起こして顔をあげた娘の眼には涙が・・・


だが、どう考えて2人の体勢からして晶が泣きじゃくりながら抱きついている。




(こ、これは・・・・ 禁断の・・・ 近親相姦・・・?!)




「ワタシハナニモミテイナイ・・・」 スス~・・・




片言な日本語をしゃべりながらなぜか秋穂姉さんは扉を閉めようとする。




「違うから!! 秋穂姉さんが誤解しているような内容じゃないから!!」




必死に手を伸ばして秋穂姉さんに訴える。




「どうしたの・・・?」




晶は状況を把握しきれていないのか涙を拭いながら俺から離れようとはしない。




「あなた! 晶と徳君が・・・・・!」




そんなことをしている間にも秋穂姉さんは何を血迷ったのか克兄さんの下に走り去る。




「何~!? 晶と徳が?!」




俺はこの後、晶と共に克兄さんと秋穂姉さん、さらに騒ぎを聞きつけた俺の両親に何とか事情を説明するのだった。

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