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実家

目覚めた翌日、俺は午前中に一応、検査を受けて問題がないことを確認した後で退院した。




「じゃ、家で支度してから実家に行くよ。」




秋穂姉さんにそう言って病院から自宅に帰ろうとした。


俺は自宅に帰らずにどこか別の所でお世話になろうと思っているのだ。


自宅には歳の離れた兄と歳の近い姪がいる。


そんな非常に気まずい空間には居たくないのだ。




「大丈夫よ。準備はもう終わっているから。」




「え・・・?」




秋穂姉さんの言葉に驚きの表情を返すと秋穂姉さんは病院の敷地内にある一台の車を指さした。


車の傍には誰かが立っており、こちらが来るのを待っているようだった。




「荷物は昨日の内にまとめて車に積んでいるから後は帰るだけよ。」




秋穂姉さんはものすごくいい笑顔を浮かべていた。


このさりげなく相手の思惑を潰す天然さは尊敬に値する。


俺は仕方なく秋穂姉さんと共に車に向かう。


車の傍で待っていたのはやはり克兄さんだった。




「こんにちは。お久しぶりです。」




俺は克兄さんに深々とお辞儀をして挨拶する。




「おいおい、そんなにかしこまるなよ!兄弟だろう!」




克兄さんは俺の背中をバシバシと叩きながら笑った。




「あなた、退院したばかりの人を叩かないの!」




秋穂姉さんはそんな克兄さんを叱責する。




「おお、すまんすまん。」




克兄さんは悪びれもしない表情でそう言うと車の後部座席のドアを開けた。




「さぁ、帰るぞ。」




俺は克兄さんに促されるままに車に乗り込む。


それを見届けてから克兄さんは運転席に、秋穂姉さんは助手席に乗る。




(逃げ場がないな・・・)




俺は実家につくまでの車の中では大人しくしておくことにした。


兄や儀姉とは20歳ほど年が離れていて何を話していいのかいまいち分からないのだ。




(昔は克兄さんや秋穂姉さんを父母だと思ってたからなぁ~・・・)




そして、姪である智坂 晶あきらのことを妹だと思っていた。




「徳。実はお前に頼みがあるんだが・・・ 聞いてくれるか?」




ドライブ中に突然、克兄さんがそんなことを言い出した。


克兄さんは正面を向いて運転に集中しているので顔は見えないが声からしてかなり真剣なようだった。




「どうしたんだい? 克兄さんがそんなこと言うだなんて、俺でよければいいよ。」




俺と違って正義の味方として活躍できるほどの身体能力と超能力を有する克兄さんがそんなことを言う出すだなんてきっとただ事ではないのだろう。


俺は椅子を座り直して前かがみになり真剣に話を聞く態勢を作る。




「実はな、お前に晶に渡して欲しいものがあるんだ。」




克兄さんがそう言うと秋穂姉さんが振り返って俺に大きな箱を渡してくる。


箱にはでかでかとタイトルと絵が描いてあった。




『デジタルモンスター 初回生産限定盤DVD-BOX』




うん。


何でこれを手渡されたんだろう?


ああ、晶に渡すためか・・・




でも、晶は今年で16歳の高校1年生だよ?


これは昔流行った子供番組『デジモン』シリーズの原点の作品だけど・・・


確かに俺も晶も好きだったけど・・・


今見たいかと言われればそうでもない。


いや、昔を思い出して見てみるのもありかも知れないけど・・・




(高校1年生の女子高生へのプレゼントとしてはどうなんだろうか?)




俺がそんな風に思って固まっていると克兄さんはバックミラーで俺の表情を確認したのか。


「まぁ、どうしてこれをって思うよな。」と苦笑した様な声で言った。




「実はね・・・」




運転している克兄さんに代わって秋穂姉さんが説明を始める。


なんでも最近、娘の晶がアニメやゲーム、漫画などを大量に持って帰ってきてずっと見ているらしい。


おまけになぜかその作品を声に出して朗読しだしたらしい。




俺が最後に晶にあったのは高校3年の時だから2年ほど前だが、その時の晶は少し反抗期を迎えていたのか、言葉遣いは男の様に乱雑で喧嘩っ早い。


女スケバン的な感じだった。


おまけにゲームや漫画、アニメなどは子供が見る物と決めつけて一向に見なくなった。




俺がゲームをしてくると邪魔してくるし、アニメや漫画を読んでいると「ちょっと体動かしたいから付き合え」と言って外に連れ出される始末。


そう言うなれば『アンチヲタク』的な感じだった。




まぁ、アニメやゲーム、漫画を読んでいたらヲタクか?


と、問われれば賛否両論あるだろう。




ヲタクは神聖なものだからアニメやゲーム、漫画をただ読むだけではだめだ。


声優や監督、アニメスタッフなども知っていないと『ぬるい』という人もいれば・・・


「アニメやゲーム、漫画が好きなららヲタクだろ」という人もいるだろう。




ちなみに俺は後者ならヲタクだとだけ言っておく。




おっと、話が脱線したな。


ともかく、アンチヲタク派だった晶がアニメやゲーム、漫画をね・・・




「友達付き合いじゃないんですか? そういう趣味の友達と仲良くなったとか、そう言うのが趣味の男が好きに・・・」




そこまで言いかけたところで俺は冷房の効いた車の中で大量の汗をかいた。


いや、正確には先程まで冷房の効いていた車内が急に暑くなって大量の汗をかくことになっただ。


これは、冷房が壊れたとかではなく・・・・




「晶に男など100年早い・・・」




と克兄さんが怒りだしたからだ。


俺は思わず、「しまった」と思った。


だが、時すでに遅し。




俺の「好きな男ができたんじゃね?」発言で克兄さんは怒りのあまり能力を発動させてしまったのだ。


正義のヒーロー、フレイムバサラである克兄さんの能力は『炎、熱』の生産と操作だ。


その能力はすさまじく、全力を出せば巨大な市を灰燼に帰すことだ出来る。




その昔、悪の組織のボスとの死闘では海上1kmの沖合での戦闘で戦闘の起こった場所から半径1キロの範囲内の海を3時間ほど蒸発させ続けたらしい。


おかげで海水の異常な高温化や台風ができてしまって周囲の街は大変なことになったらしい。


らしいというのは、俺がまだ幼くて覚えてないからだ。




その戦い以降、克兄さんは悪の組織ではSランク判定を受け、協会からは特殊災害能力保有者という特殊な位置づけに置かれることになった。


この特殊災害能力保有者というのは、「ヒーロー活動を自粛してください」と協会にお願いされる存在らしい。


おかげで克兄さんは若くして引退することになり、今は火力発電所に行って炉内で燃え続ける仕事をしている。




燃料費がかからない人件費だけの火力発電は評判がいいらしい。




ああ、だめだ。


この説明を最後に俺は死ぬかもしれない。


多分現在の車内の気温は60℃を超えているだろう。


さようならみんな。


今までありがとう。




「あなた!大変よ!!このままだと徳君が死んじゃう!」




「おお、すまん徳! しっかりしろ~!!」




遠くから秋穂姉さんと克兄さんの声が聞こえる・・・






















「はっ!」




目を覚ますとそこは木目の天井があった。


俺は何が起こったのかわからずにゆっくりと体を起こす。




「あ、徳兄さん起きた? 母さ~ん! 徳兄さん起きたよ~。」




隣からどこか懐かしい女の子の声が聞こえる。




(俺は・・・・ そうか、克兄さんの能力のせいで熱中症になったのか。)




俺は頭痛がする頭を押さえながら上半身を起こすと周囲を見渡す。


そこには俺が生まれ育った家のリビングだった。




内の実家は和式の木造建築の1階建てだ。


ただ、兄のヒーロー時代の稼ぎで敷地面積がものすごく広い。


正確な広さは知らないが、近くにある小学校よりも敷地面積が広い。




「徳君大丈夫? はい、お水。」




秋穂姉さんはそう言って氷の入ったグラスに俺の寝ていたすぐそばに置いてあったペットボトルの水を注いで渡してくれる。




「ありがとう。」




俺はグラスを受け取ると勢いよく水を飲み干す。


余程、喉が渇いていたのだろう。


俺がグラスに入った水を空にすると秋穂姉さんがペットボトルからまた水を注いでくれる。


俺はもう一度グラスに口をつけて今度は半分だけ飲み干す。




「もういいよ。もう大丈夫。」




俺は秋穂姉さんを見てできるだけ笑顔を作る。


それを見て秋穂姉さんも「もう大丈夫そうね」と言って胸をなでおろした。




「お、起きたか。さっきはすまなかったな。」




今度は克兄さんがリビングに来て頭を右手で掻きながら左手で「ごめんなさい」のポーズをとって謝る。




「もういいよ。あれは俺も失言だったし。」




俺は克兄さんが親馬鹿だということを忘れていたのだ。




「そう言って貰えると助かるよ。」




克兄さんはそう言って俺の前に座ると近くにいた女の子の肩を掴んだ。




「どうだ。徳。2年ぶりに見た晶は美人になっただろう。昔の秋穂そっくりだぞ。」




克兄さんはそう言って女の子を抱き寄せる。


やはり、先程の声の主は晶だったらしい。


小学生時代は男なんじゃないかと思っていたが、中学に入り女の子として体が成長しだしたなと思っていたがここ2年でさらに成長したらしい。


顔にしている化粧のせいもあるだろうが、ずいぶんと大人びて見える。




「離せよ!クソオヤジ!」




晶はそう言って抱きついてくる克兄さんを突き放した。




「徳の前だからって恥ずかしがるなよ。」




克兄さんは嫌がる晶へと顔を近づけて抱きつこうとするのをやめない。




「徳兄さんは関係ねえよ! 暑苦しいしオヤジ臭いんだよ!」




そんな克兄さんに晶の痛烈な一言が突き刺さった。




ズーン




克兄さんはものすごくわかりやすく両手を地面について落ち込んだ。




「全くいい加減に子離れしろよな。」




晶はそう言って立ち上がるとリビングを出て行った。




「ああ、あきら~・・・」




克兄さんは情けない声をあげながら晶を見送る。




「ふふふふ」




そんな光景を見て秋穂姉さんは微笑ましく笑っていた。


俺もその光景を見て思わず笑顔になってしまう。




「さて、徳。車内での話の続きだが、今晩の食事時にでもこれを晶にプレゼントしてくれ」




晶がいなくなったのを確認して克兄さんは俺に向き直って先程のデジタルモンスター、略してデジモンのDVD-BOXを渡してくる。




「さっき聞き損ねたんだけど、晶がアニメやゲームに夢中になると何か問題でもあるの? 学校の成績が落ちてるとか?」




(もしそうなら、俺からも晶にもっと勉強するように言わないとな)などと俺は考えていたのだが・・・




「いや、成績は学年でも結構上位だぞ。お前の学生時代より全然いいな。」




どうやら違ったらしい。


俺の学生時代の成績は200人中80~90ぐらいだ。


そんなに悪いだろうか?


真ん中よりは少し上なんだが・・・


まぁ就職難のせいで就職できなかった俺の成績なのだから悪いかもしれない。


といっても、俺より成績が悪くてもいい会社に入った奴もいるけどな・・・




面接で落とされるのはなぜだろうか?


俺から何か不吉な雰囲気でも漂っているのだろうか・・・




「いや、実はな・・・ 知り合いから恐ろしい話を聞いてな・・・」




俺がそんなことで少し悩んでいる合間にも克兄さんの話は進んでいた。


俺は考えるのをやめて克兄さんの話に集中する。




「女の子がアニメやゲームにハマってヲタク化すると『フジョシ』になるらしい。」




克兄さんはものすごく心配そうな顔をして俯く。


どうやら、克兄さんは晶が腐女子になって『BL』やら『やおい』やらに目覚めないか心配しているらしい。


まぁ確かに親の立場からすると少し心配かもしれないが、そこまで気にすることだろうか?


そういうのが好きなのと恋愛は別物のはずなのでそこまで気にする必要はない気がするのだが・・・


これが子供を持つ親と彼女もいない男の持つ考えの差だろうか?




「このフジョシってのは腐った女の子と書いて腐女子と読むらしいんだ。」




どうやら兄の話はまだ終わりではないらしく続きがある様だった。




「そして、この腐女子っての他の子にも伝播するらしい。いや、なぜか他の子にも勧める傾向があるらしい。」




どこでそんな情報を仕入れたのか知らないが本当にそうだろうか?


「まぁBLが嫌いな女の子なんていない!」と何かのアニメか漫画で誰かが言ってたが・・・




「わかるか?腐女子ってのは『腐った伝播する存在』 つまり一種のバイオハザードなんだよ!」




克兄さんは拳を高々と上げてそう力説する。


いや、明らかに間違っているけどね。




「俺は晶がこの腐女子なるウイルスに感染してゾンビ化した場合。俺の能力で燃やせるかと言われると自信がない。何せあいつは可愛い俺の娘だ。例えゾンビになっても生きていてくれるならそれでいいと思う。だが、晶を生かし続けると今度は最愛の妻、秋穂が腐女子になる可能性が・・・!」




克兄さんはそう言って秋穂姉さんを抱き寄せる。




「大丈夫よ、あなた。私はあなたに殺されるなら本望だわ。例えこの身が灰になろうとも、私の愛は永遠にあなたの物よ!だから、あなたは私の夫ではなく正義のヒーローとしてこの未曾有の危機を阻止すべきだわ!大丈夫、あなたならきっとできるわ!!」




秋穂姉さんはそっと克兄さんの頭を抱きかかえて慰める。


そんな秋穂姉さんの頬には涙のしずくが流れていた。




「秋穂、大丈夫だ。俺が晶を腐女子になんてさせないさ!!」




秋穂姉さんが泣いていることに気づいた克兄さんは秋穂姉さんの肩を掴んで瞳を見つめて強く叫んだ。


その声と瞳には覚悟の炎が宿っていた。




「あなた・・・・」




秋穂姉さんはそんな克兄さんの態度に心打たれたのか、そっと目を閉じた。


そして、克兄さんはそんな秋穂姉さんの体を抱き寄せて・・・


俺の目の前で熱いキスを交わした。


しかも、ディープなやつを・・・




「あう、ううん・・・♪」




2人は俺が目の前にいるのにかかわらず、甘い声を漏らしながら口づけを交わす。


俺は居た堪れなくなって台所に出かけることにした。


水分だけでなく、何か小腹が減ったので何か食べようと思ったからだ。




10分後、軽く食事をして戻ってみると二人はまだ続けていた。




「どうかしたの?」




「ああ、晶。実はな・・・」




どうすればいいのかわからずに廊下に立っていると晶が傍を通ったので俺は「二人が話の途中に熱い口づけを交わしだしてどうしていいかわからない」と説明する。




「ああ、ほっとけばいいよ。そのうち終わるよ。」




晶はこの行動にもう慣れた様子でそう言って去って行った。


俺がこの家に住んでいた時はこんなこと一度もなかったのに・・・


そういえば、俺が家を出て行ってからだったな。


晶が反抗期に入ったのは・・・・


もしかしてこれのせいなのだろうか?


俺は晶の背中を見送りながらなんとなくそう思った。




確かに、親がいきなり話の途中でキスしだしてそのまま10分以上し続けたら子供グレルよな・・・


てか、子供の精神衛生上よろしくないな。


この後さらに3分後、トイレに行って戻って来ると2人の熱い接吻は終わっていた。




「2人ともそこに正座。」




とりあえず、俺は二人に腐女子のことを説明する前にお説教を始めるのだった。


無論、お説教の後に腐女子についてちゃんと説明した。

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