スーパーマンジュニア
俺の名前は山根 正継。
あの伝説のヒーロー。
スーパーマンとスーパーウーマンの間に生まれた俺は二人の才能を受け継いだ伝説のヒーローになる予定の男だ。
ヒーロー名はそのまま『スーパーマンジュニア』ということになっている。
親の七光り的なこの名を卒業するために、早く俺は一人前になりたい。
そう思って毎日、学校にも行かず自宅待機しているというのに全く事件に出くわさない。
怪人にも襲われない。
たまに悲鳴が聞こえたからといって|(身支度を整えてから)出かけても魔法少女リリカルバニーや美少女戦士ブレザーハートが戦っていて出る幕がない。
基本的に怪人との戦闘は早い者勝ちで横取りは禁止。
唯一許されるのが戦っているヒーローがピンチに陥った時だけ。
だが、そんなことは早々起きない。
だから、コツコツと怪人退治でなく街の防犯のために犯罪者でも捕まえようかと思ったが・・・
残念ながらそれもできない現状だ・・・
全てはあの男が悪い。
そいつは半年前に急に現われて、朝と夜に町内をジョギングしだしたんだ。
おかげで、今まで治安の悪かった街中での犯罪率は激減。
元々、俺が駆けつける前に誰かヒーローや警察などが犯罪者を捕まえていたので俺の功績が激減したわけではないのだが、ヒーローでもなんでもない民間人がそれをしているというのがいただけない。
しかも、最近ではご近所さんやあのリリカルハニーやブレザーハートの面々とも仲良くしているらしい。
この俺でさえ、お近づきになっていないというのに・・・
ただのモブの分際で調子に乗っているのは頂けない。
いずれ奴には痛い目を見てもらった方がいいのかもしれない。
「今日の郵便物はっと・・・」
俺は朝の朝刊と郵便物を見る。
朝刊はテレビ欄と最近在ったニュースを主に見る。
『警備会社アイギスのビルが怪人たちによって襲撃される!』
と大々的に書いてあった。
(ここ親父が行ってる会社じゃね?)
隠居した爺共の巣窟よりも現役ヒーローである俺と戦えよ。
と思いながら新聞を見た後に、協会からの郵便物を手に取って開けた。
色々と遠回しな内容が書いてあったが、要約すると・・・
『ヒーローとして活躍してください。』
と書かれていた。
まぁ協会の言いたいことも分かる。
俺はヒーローとして登録して以降、何の成果も上げていない。
学業を優先していたという理由もあるが、最近は大学の単位も粗方取り終ってそろそろヒーロー業を真面目にしようかなと思った矢先にあの男がやってきた。
そいつのおかげで治安は良くなった。
それは良い事だ。うん。
ただ、俺の活躍の場が減った。
そんな状態の俺に協会の連中は仕事をしろと言って来る。
おかしくないか?
ヒーローが活躍しない=町が平和なのだ。
そんな状況で活躍しろ?
俺に悪の組織を作って自作自演で活躍しろとでも?
協会の馬鹿さ加減には飽き飽きするぜ。
そんなわけで俺は今日も自宅待機。
新作のエロゲーもやらないとな・・・
俺は以前購入したがまだやっていなかったエロゲーをPCにセットしてインストールする。
「ア、ハン♪ らぶらぶパラダイス☆」
インストールし終わったゲームを起動するとタイトルコールをしてくれる。
(この会社のゲームは初めてやるな・・・)
初めてやる会社のゲームに期待と不安を募らせながらゲームをプレイする。
ゲームの中では主人公がヒロインたちの様々な問題を解決してハーレムを作っていく。
(俺もブレザーハートの子達と共に怪人と戦えばこんな風に・・・)
「さすがはスーパーマンジュニア様ですわ♪」
「素敵♪ 抱いて♪」
「私と結婚を前提にお付き合いを・・・♪」
「抜け駆けは禁止よ!」
「私達なんてスーパーマンジュニア様の足元にも及ばないわ・・・ でも、あなたとの間に強い子は産めると思うの!」
俺はブレザーハートの面々が自分に惚れた後のことを考えて思わず顔がニヤけてしまう。
だが、そのニヤケ顔も長くは続かない。
全てはあの男のせいだ。
あの男はヒーローでも警察官でもないのに街の平和を守っている。
そんなことが許されるのか?
いや、許されるわけがない。
(今日こそは何か手柄をあげて協会の奴らを見返してやりたい。)
そんな思いがあって俺は普段家から出ないのだが、今日はパトロールでもしようかと街に出た。
俺は空が飛べるし目がすごくいい。
耳だって良く聞こえる。
例え分厚い壁の向こうからでも夫婦の営みを感じ取ってしまうほどに・・・
だから、きっと外に出ればすぐに事件に遭遇してそれを「あっ」と言う間に解決して人々の賞賛を得ることだろう。
だが、そんなことにはならなかった。
守護神学園というところで怪人が暴れていた。
おまけに、その学園を守るキョウイクジャーは敗戦が濃厚だった。
(これはついに俺の出番かな・・・?)
そう思った矢先に、見たこともない黄金と白銀の戦士が現れて怪人たちは撤退していった。
黄金と白銀の戦士はキョウイクジャーの救助を優先して後を追わなかった。
では、俺が追えばいいのか?
いや、それは違うだろう。
逃げ回る怪人の前に出ても逃げられるだけだ。
それに、怪人たちは人気のないルートを通って逃走している。
そんな所に出向いても俺の戦いを周囲の人は誰も見てくれない。
なにせこれは俺のヒーローとしてのデビュー戦なのだ。
ヒーロー達が敵わない様な強敵こそが本来は望ましい。
(まぁ怪人なんてそんなあえるわけじゃないから、コツコツと小さなことでもするか・・・)
そう思って街中を見ていると1人の男が若者3人に路地裏に連れ込まれていた。
よく見ると、男は例のあの男だ。
(あんなやつ、少し痛い目を見ればいいんだ! 頑張れ若者3人組!!)
俺はこっそり陰に隠れて若者3人応援しながら見ていた。
無論、男があまりにも悲惨な状態になったら助けてやるためだ。
俺は無慈悲な男じゃない。
だから、ある程度痛い目を見たら許してやるつもりでいた。
だが、残念ながらその夢はかなわなかった。
ブレザーハートの黒と橙色の子達が助けに来てしまったのだ。
若者3人は一目散に逃げて行ってしまった。
(情けない奴らだ・・・)
女の子2人程度なら何とかできるだろうに・・・
そうなれば、俺が登場して可愛い女の子2人を救ってヒーローになれるのに・・・
例の男は二人の名前を呼んでその後少し2人に愚痴を離して去って行った。
橙子と黒条と呼ばれた女の子2人は男のことをものすごく心配していた。
それが余計に俺をイラつかせる。
俺はその後、これ以上イラつきたくないので帰ることにした。
今度は徒歩でゆっくりと帰ることにした。
少し寄り道した後に電車に乗ると例の男も乗っていた。
あいつは電車内でおばあさんに席を譲っていい子ぶっていた。
ものすごくいけ好かないやつだ。
俺は男から視線を逸らして電車のドアの方を見る。
ドアの傍では可憐な一人の少女が電車内で何かの本を読んでいた。
するとそこに、後ろから近づく1人の男が・・・
男は女の子にゆっくり近づきながら女の子のスカートにゆっくりと手を伸ばしていく。
(チャンスだ!!)
痴漢を撃退して少女から称賛を得る絶好の好機。
おまけに、電車内には人も多い。
その人たちが噂に噂を広げて俺のヒーローとしての名はうなぎのぼり間違いなしだ。
(早くやれ! 早くやれ!)
男は手を伸ばしながらも周囲を警戒してか、なかなかその先に進まない。
俺は男が犯行に及んだ瞬間に捉えるべく、すぐに動けるようにしながらも相手に感ずかれない様にしながら視線を逸らして監視する。
すぐ近くに移動してすぐに捕まえられるようにするよりも、感ずかれて未遂に終わられる方が俺としてはメリットが少ない。
そう思って俺がチラチラと男を見ていると、そこに例のあの男が近づいて・・・
「何してるの?」
と、男につぶやいた。
男は「・・・! な、なにもしとらんよ! なんだね君は?!」と言って一目散に逃げて行った。
(またしても貴様わ~!!)
俺はせっかくのチャンスをつぶされてこの怒りをどうすればいいのかわからなかった。
被害者になりかけた少女は本を読んでいて男の存在に気づいていない風だった。
その後、駅のホームに降りると例の男は荷物を持った老人に話しかけて荷物を持ってあげていた。
(俺だって近くにいればもっと早く声かけてたし! ていうか、テメェが声かけなきゃ俺が荷物持ってやってたし!!)
俺は男を睨みつけると男は俺に気づいたのか。
俺の方を見て困ったような顔を向ける。
(なんか俺の顔についてるってのか?! それとも、俺がお前に何かしたか?!)
その男の表情に俺はさらにむかついた。
(こっちを見てるあの男の人。あんな道の真ん中で立ち止まったら交通の邪魔じゃないかな・・・
ああ! ほら、おばあさんがすぐ隣で困ってるよ?!)
智坂は男の横にいる杖を突いたおばあさんを見てハラハラしていたという。
さらに、あいつは駅の構内で迷子の子供をあやしながら子供の母親を探してあげていた。
(いちいち、俺の手柄を横取りしたいのかこいつは?!)
「ママ~ あのおじちゃん怖いよ~。」
「見ちゃいけません!」
今日は近くをうろつくガキどもがやけにうるさいぜ。
俺は負けじと構内をうろついて迷子のガキか困った人がいないかを探したが、残念ながら見つからなかった。
「ねぇ、さっきの人。眼が血走ってて危険じゃない?」
「駅員さんに行った方がいいかしら、きっと不審者よ。」
どこぞのおばさん方がそんなことを話している声が聞こえてくる。
どうやら、どこかに不審者がいるらしいがいるらしい。
だが、結局どこを探してもそんな男は見つからなかった。
「くそう!」
俺は結局、何の成果もあげられないまま帰路につくのだった。
その帰路につく途中でまた例の男が前を歩いていた。
おまけに今度はブレザーハートの紫の女の子と一緒だった。
(次から次に女をとっかえひっかえかよ。)
俺の怒りはさらに募るばかりだ。
おまけにあいつは、近所のガキやおばさんに人気らしくよく声をかけられていた。
紫の子はそれを見て感心していた。
俺なんかは同じ町内の人間なのにまるで不審者を見るような目で見られた。
「ねぇ、さっきの人この町にいたかしら?」
「さぁ、わからないわ。」
「不審者かしら?」
「違うわよ。この先のアパートに住んでる大学生よ。」
「ああ、あの家から全く出てこない・・・」
おばさんが俺を見てそんな道端会議を始めた。
(ああ、イラつくぜ・・・)
おかげで、俺の怒りはマックスに達してしまった。
「きゃぁ~!ひったくりよ~!」
だが、そんな俺の前に絶好の機会が訪れた。
そう、俺はこのひったくり犯を捕まえるために今日この時、この場所にいたのだ。
(俺の怒りを思い知れ!!)
俺は今まで貯めたイライラを発散するべく、声の方向に全速力で駆けだした。
「はぁ、はぁ。」
俺の心は敵に飢えていた。
乾いていた。
だから、このひったくり犯には悪いが少し痛い目を見てもらおう。
まぁ被害者の女性が美人だったらクールにカッコよく捕まえて称賛されるつもりなので、精々いい女のバックをひったくっておくんだなと思った。
そう、思っていた・・・
だが、そこに俺の活躍の場はなかった。
例の男が運よく居合わせて・・・
しかも、ひったくり犯は男のいる方向に逃げて来ていたのだ。
これが反対の方向だったならば、自転車に乗っている犯人は例の男に捕まらず、俺に追いかけられて捕まっていただろう。
そう、これは運が悪かっただけ・・・
男が右に進むか左に進むかの二択を誤っただけのこと・・・
だが、その選択を誤ったせいでひったくり犯は男に捕まった。
この俺の活躍の場はまた例の男に奪われたのだ。
あの男がいるから・・・
あの男さえいなければ・・・
そこから先のことは怒りでよく覚えていない。
俺は男が手に取った携帯電話を砕いて、男の腹に一発いいのを入れていた。
「%&%%$#”」
男は声にならない悲鳴を上げて地面に倒れ込んだ。
その無様な姿に俺の心は躍った。
人生で・・・
今まで生きてきた中で・・・
最高の気分だった。
俺はとても愉快な気持ちになって思わず笑みを浮かべてしまった。
「テメェ! 何してやがる!」
そんな状況を見てひったくり犯を抑えていた。
ブレザーハートの紫の女の子が怒声をあげて叫んだ後に、立ち上がり変身しだしたのだった。




