学業守護戦隊キョウイクジャー
俺は学校の周りを一周して観測に適しているであろうポイントにいくつか目星を付けていく。
そのうちの一つ、使われていない廃ビルに入り4階の窓から景色を見渡す。
(予想通り、ここからなら学校内を覗けそうだな。)
住居不法侵入という罪を犯してしてまで校内を覗こうとするこの仕事っぷり・・・
きっと誰にも褒めてはもらえないだろう。
俺は罪の意識に苛まれながら双眼鏡で学校内の様子を探る。
(ここから見えるのは・・・ 教師棟の1階にある学長室と職員室、生徒指導室と・・・
教育棟の3階にある3年1組か、教室内に生徒の姿が見えるが・・・
職員室では1人の男が女の人を口説き落とそうと努力している。)
俺は見える範囲を確認して写真を取り出す。
写真には前回説明した6人とそれ以外の生徒や教師の写真がある。
カイチョウレッドとシンマイホワイトの二人の正体不明であるため容疑者は学園中に存在するのだ。
(ん・・・? この写真は・・・)
キョウトウブルーである遠藤教頭の写真を手に取って俺はどこかで見たことがある様な気がした。
「あ・・・!」
どこかで見たことがあると思い記憶を辿った結果。
今朝であった痴漢のおっさんだった。
(教頭先生が痴漢か・・・・ 明日にはニュースになるな・・・)
早ければ夕刊に載っているかもしれない。
確認しておかなければな。
奇しくも、同じ正義の味方であるブレザーハートによってキョウイクジャーの1人が戦線を離脱する破目になった。
(俺が痴漢として捕まえたんだけど・・・・ 評価には繋がらないだろうな・・・)
何かの作戦で痴漢をでっち上げたならばともかくとして、ヒーロー本人が犯罪行為に走って自爆しただけなので特に評価等には繋がらないのだ。
残念に思いながらも監視対象の1人が消えたことを喜ぶことにした。
(御堂学はっと・・・)
3年1組の教室では学校が行う夏期講習が行われている。
守護神学園は進学校であるため、夏休みでも勉強ができる様になっているのだ。
御堂学もその夏期講習に出ているようで、学校内にいるらしい。
3年1組の教室内を覗くとそれらしき人物の後姿が窺えた。
真面目に先生の話を聞いているようだった。
講師の先生はシンマイホワイトの疑いがかかっている闇乃教だ。
(学長先生は・・・?)
学長室を覗くとそこには誰もいなかった。
夏休みに入っているので来ていないのかもしれない。
職員室の方ではタンニングリーンである光之解読が・・・・
女性と楽しげに話して・・・
女性たちに囲まれてウハウハ・・・
しているようには見えなかった。
女性たちは悪鬼の形相で怒鳴り散らしたり、髪を掻き毟って周囲に当たり散らしている。
光之はそんな女性たちを宥めようと必死に身振り手振りで何かを説明しているように見える。
(・・・ばれたな・・・ というか、さっき女の人を口説いてた人だったのか・・・)
どうやら、光之解読の女性教師複数との関係が露呈した様だ。
夏休みに入り教師陣にもある程度の休みが入り、それを活用してデートとか旅行とかしまくったのだろう。そのせいで、今まではバレていなかった事実が露呈したのだろう。
「大勢の女性を口説くだなんて・・・ 俺もそんなことしてみたいなぁ~・・・」
俺は未だに彼女がいたことがない寂しい男なのでついそんな言葉が出てしまった。
英雄色を好むというが、残念ながらこの国では現在、重婚は認められていない。
そんな訳で二股や三股など以ての外なのだ。
(5人か・・・)
俺はタンニングリーン光之解読の凄まじいであろう女性を落とすテクニックに少し興味がわいた。
が、バレた時の悲惨な結果をこの目にすることになり、必要ないことを悟った。
(なんだろう・・・ 朝から二人? 俺が来た瞬間に・・・?)
俺は自分が正義の味方を呪う力でも持っているのかと少し疑ってしまった。
そんな力があるはずはないのだ。
ピピピ ピピピ
無線機に連絡が入ったので俺は無線の通話スイッチを押して電話に出る。
「はい、こちら智坂。」
「おう、俺だ。」
無線の声の主はおそらく浜田さんだろう。
来たばかりの新人である俺に連絡をしてくるのは部署長と浜田さんぐらいだ。
「浜田さん。どうしましたか?」
「ああ、実はキョウイクジャーの内の3人が戦闘不能状態に陥ったから強襲をかけることになってな。
お前も参加してくれ。迎えに行くからさっき降ろした地点に戻ってくれないか?」
どうやら、俺の知らないところでもうもう一人ダメになった方がいるらしかった。
「了解しました。すぐ戻ります。キョウトウブルーとタンニングリーン以外に誰が戦闘不能になったんですか?」
俺は階段を下りながら戦闘不能になった戦力について確認する。
「ああ、ガクチョウブラックの女子更衣室の盗聴、盗撮の証拠をついに掴んでな。今、仲間が証拠を警察とPTAに送り付けている。これで確実にヒーローとしても社会人としてもあいつは終わりだ。
これまで女子更衣室を監視してた結果がついに出たぜ!!」
浜田さんはうれしそうに笑い声を抑えながら説明してくれる。
どうやら、ガクチョウブラックの行動を予測して女子更衣室を監視していたらしい。
・・・
浜田さんの趣味とかじゃないよね?
「あとはキョウトウブルーが痴漢で逮捕されたらしくて・・・ ってなんでそのことを知ってるんだ?
いや、どうでもいいか。あとシュニンイエローは生活習慣病にかかって闘病生活を強いられるだろう。ん?タンニングリーンも何かあったのか?」
浜田さんは俺がなぜキョウトウブルーのことを知っているのか知りたがったが、先に説明を終わらせてくれる。
「実は・・・」
俺は浜田さんに今朝あった出来事とタンニングリーンに起こった悲劇を説明した。
「よっしゃあ!あいつは女教師を次々と落してる羨まし・・・ じゃなくて、妬ましい屑野郎だからな!そうか、ついに天罰が下ったか!!」
浜田さんはタンニングリーンが嫌いらしく、その話を聞いてものすごく喜んでいる。
「それでは、切ります。」
「おう。待ってるぞ。」
俺はこの後、浜田さんと合流して戦闘服に着替えると、馬の怪人であるホースさんと複数の戦闘員と合流して守護神学園に奇襲をかけるのだった。
「ヒヒーン!!」
ホースさんが早速変身して馬の怪人となり、鳴き声を高々にあげる。
こうやって残っているカイチョウレッドとシンマイホワイトを誘き出しているのだ。
学校内に乗り込んで暴れないのかって?
我が悪の組織、匿名希望☆は未来ある若者に危害を加えない方針なのだ。
なにせ、世界を征服した後に国民として国を背負って貰わなければならないのだ。
若者は国の財産なのだ。
傷つけるわけにはいかない。
そんなわけでグラウンドで怪人が来たと言うことを知らせるために適当に暴れる。
馬の怪人であるホースさんは奇声を上げ、戦闘員の俺達は重火器を適当に撃ちまくっていく。
この時気をつけなければならないのは、器物を破損させない様にうまく地面を撃つことだ。
学校の器物を破損させると学校のみならず、学生にも迷惑がかかるからね。
「待て!そこまでだ!」
そうこうしている内にカイチョウレッドとシンマイホワイトが現れた。
二人はすでに変身していて素顔は見えない。
「来たな!キョウイクジャー!しかし、たった二人とは私も舐められたものだ!」
ホースさんはあたかも他の四名が戦えない状態であること知らないかのように語る。
ピーポー ピーポー
遠くから救急車のサイレンが聞こえる。
(おかしい。まだ誰もけが人は出ていないはず・・・・)
俺達がそんなことを思っていると、職員室の方で何か騒ぎがあったようだった。
きっと光之解読が女性に刺されでもしたのだろう。
女性問題はこじらせると殺人事件に発達するのはサスペンスドラマが教えてくれるというのに・・・
「キーキー!(たった二人なら俺達だけで十分ですよ!!)」
先輩たちがホースさんの前に立って臨戦態勢を取る。
どうやら、戦闘員だけでキョウイクジャーの二人を倒すつもりらしい。
「ふ、戦闘員風情が俺達キョウイクジャーに勝てるとでも?」
カイチョウレッドが不敵に笑い声をあげて言い放つ。
「キーキー!(ふん!たった二人で何ができる!!)」
「キーキー!(今日こそ、その服をはぎ取って正体を掴んで見せるぜ!)」
先輩たちは相手が少ないので意気揚々と距離を詰めて今にも襲い掛かろうとする。
「二人じゃない! 私達には頼もしい仲間がいるわ!」
こちらの言葉が聞こえないはずのシンマイホワイトが急に信じがたい事を言い出し、思わず先輩たちも動きを止めてしまう。
「キー・・・!(そんなはずは・・・!)」
先輩の一人がそう否定しようとしたところで、二人の後ろから三人のヒーローが登場する。
「キーキー!!(そんな馬鹿な!!)」
先輩たちは思わぬ伏兵に驚き二、三歩後ずさる。
それとほぼ同時にキョウイクジャーの五人が横並びになった。
「生徒会の頼れるリーダー! カイチョウレッド!」
「生徒会の名参謀! フクカイチョウブルー!」
「生徒会の金庫番! カイケイイエロー!」
「生徒会の記録係! ショキブラック!」
「生徒会の新顧問! シンマイホワイト!」
「「「「「我ら学業守護戦隊キョウイクジャー!!」」」」」 ドドン!!
五人は思い思いの自己紹介と決めポーズをとって名乗りを上げる。
名乗り終ると同時に、五色の色つきの煙玉が爆発する。
「くう、まさか新しい仲間を連れてくるとは・・・! カイチョウレッド侮れない男だぜ!!」
以前から問題があることがわかっていたのか。
カイチョウレッドはまさかの生徒会メンバーで新ヒーロー戦隊を結成していた。
「キーキー!(そんなウソだろ?!)」
「キキー?!(奇襲は早まったか?!)」
予想外の事態に先輩たちも奇声をあげて怯えだした。
「よし、行くぞ!」
「はい!」
カイチョウレッドが気合の籠った掛け声と共にこちらに向かって走り出す。
だが、ついて来ているのはシンマイホワイトだけだった。
「「「「「「?」」」」」」
俺達は何かの作戦かと思いどうしていいのかわからずに混乱してしまう。
そんな俺達を見てカイチョウレッドは後ろを振り返って状況を確認している。
これは、作戦ではないのだろうか・・・?
「皆! どうしたんだ?!」
どうやら作戦ではないらしく、カイチョウレッドも後ろにいる三人を見て声をかける。
「うるさいぞレッド。いきなりの戦闘で作戦もなく戦えるわけないだろう。」
フクカイチョウブルーはそう言って俺達を倒すための作戦を模索し始める。
「急な出費で生徒会の予算が・・・ もう無理・・・」
カイケイイエローは急な出費で予算がないと頭を抱えてしまう。
きっと今彼らが来ているヒーロースーツを急ピッチで作ってもらうために生徒会予算をつぎ込んでしまったのだろう。
「私は生徒会の書記ですからね。きっちりと記録を残させねばなりませんので・・・」
ショキブラックはそう言って議事録に戦闘の一部始終を残すために椅子に座り机に議事録を広げてペンを持つ。
中の人はメガネをかけているのか、ヒーローマスクの上からメガネを上げる仕草をしている。
「な、なんてまとまりがないチームだ。」
そのあまりのまとまりの無さに、ホースさんは驚愕の声を上げる。
周りの戦闘員も言葉を失ってレッドとホワイトに哀れみの眼を向けて動かない。
(わ、私が何とかしなくちゃ! だって私は先生だもの! この中で一番年上なんだから!!)
「皆!私に・・・きゃ!!」
シンマイホワイトは何を思ったのか後ろを振り返った状態で駆けだして、石に躓いてこけてしまう。
「ホワイト!大丈夫か!」
レッドがすぐに傍に駆け寄ってホワイトを抱き起す。
「あ、ありがとう・・・」
ホワイトは恥ずかしがりながらもレッドの手を取って起き上る。
俺達が何もしていないにもかかわらず、すでに相手はボロボロの様な気がする上に、ひどい茶番見せつけられてしまい。
俺達のやる気は一気にどん底に落ちてしまう。
「キーキ!(どうします。戦いますか?)」
「え、いや・・・ そんなこと聞かれても・・・・」
ホースさんは戦闘員の一人に戦うのかどうかを聞かれて口ごもってしまう。
本来ならまたとないチャンスなんだが、現状を見る限りでは戦う雰囲気ではない。
どうしようかと俺達が顔を見合わせて相談していると・・・
「待たせたな!!」
学校内からまた一人、誰かがやってきた。
そいつは緑色のヒーロースーツを着ていた。
「ま、まさかのタンニングリーンか?!」
ホースさんが予想だにしていなかった男の出現に奇声をあげる。
「キーキー!(くそう!女性に刺されて死んだんじゃなかったのか!!)」
浜田さんが悔しそうに声を張り上げて叫ぶ。
だが、そいつはタンニングリーンではなかった。
なぜなら、ガタイが全然違うからだ。
背の高さも、骨格も筋肉の量も全く別人がヒーロースーツを着ていた。
なぜわかるのかって?
だってヒーロースーツがピチピチで足先や手先が隠れていないし、首は締まるのか、手で破いている。
そして、タンニングリーンにはないであろう。
鍛え抜かれた腹筋が露出していた。
マスクのおかげで顔は隠れているが、どう見てもタンニングリーンではなかった。
「お、お前は何者だ!」
ホースさんはお決まりのセリフを言って相手の名乗りを待つ。
実は一般人だったとかいうことを防ぐためだ。
「守護神学園を守る。一陣の風! 風紀委員長! 大文字 傑ただ今推参!」
どうどうと名乗りを上げたグリーン。
どう聞いても本名を名乗っている様にしか聞こえないが、何かの作戦だろうか?
「大文字君。本名は言っちゃだめよ。」
シンマイホワイトがさりげなく大文字君にアドバイスを送る。
「しまった!! 守護神学園の一陣の風! フウキグリーンだ! いくぞ!!」
名乗りを間違えたのが恥ずかしかったのか。
フウキグリーン大文字君は名乗り直すといきなり襲い掛かってきた。
「キー!(うわ~!)」
戦闘員の1人が不意の一撃を受けて倒れる。
「キー!!(よくもー!)」
それを見ていた別の戦闘員がフウキグリーンに襲い掛かる。
「遅い!!」
しかし、フウキグリーンはその巨体からは想像もできない素早さで攻撃を避けて攻撃を放ってくる。
「ぬう、あやつ。なんて素早さだ!!」
その素早さにホースさんも驚きを隠せない。
「言った筈だ! 俺は一陣の風、フウキグリーン! その身のこなしは風の如く!」
フウキグリーンは次々と戦闘員をなぎ倒していく。
「「「「ギギー!!(ぐはー!!)」」」」
戦闘員たちはフウキグリーンの拳に当たって宙を舞う。
「キーキー。(俺がやる。)」
浜田さんは一人、フウキグリーンの前に立ちはだかる。
「誰が来ても同じだ!!」
突如立ちはだかった浜田さんに、フウキグリーンの右拳が炸裂する!
ドン!!
かと思われたが・・・・
次の瞬間。
その場に立っていたのは浜田さんだった。
フウキグリーンは地面に倒れ仰向けになっている。
「こ、この俺が投げ飛ばされるだと・・・?!」
どうやら、右ストレートを軽く見切られてそのまま一本背負いの要領で投げ飛ばされたようだった。
「キーキー!(動きが速いだけで攻撃が単調なんだよ。)」
倒れたフウキグリーンを見下ろして浜田さんはカッコ良く佇んでいる。
問題はマスクの機能でその声が相手にちゃんと届いていないことだろうか。
「こ、このやろう!!」
フウキグリーン大文字君は立ち上がってまたしても浜田さんに襲い掛かる。
ゴス!!
だが、その拳は躱されてしまい。
逆にカウンターを叩きこまれて地面に倒れ伏した。
「キー、キー。(来るとわかってる攻撃ほど、カウンターは合わせやすいのさ。)」
浜田さんは倒れ伏したフウキグリーンを見下ろして呟く。
その光景に、皆が圧倒されてしまった。
「よ、よし! 気を取り直してこの機にキョウイクジャーを皆殺しに・・・」
ホースさんがそう言った瞬間だった。
その場が凍りついたのだ。
実際には凍ってなどいないが、その場の空気が凍りついたかのように張りつめて動けなくなってしまう。
(戦場で経験がある。絶対的な能力差のある相手が近くにいるときに感じる威圧感・・・)
俺達は恐る恐る同じ方向を振り向いて息を飲む。
そこには黄金と白銀に輝く二人の戦士がこちらに向かって歩いて来ていた。
「ま、まずい! 逃げろ~!!」
「「「「「「キキー!(了解しました!)」」」」」」
ホースさんはその場にいることに危機を感じて皆に逃げるように伝える。
俺も他の戦闘員も、浜田さんでさえ、一目散に逃げ出した。
黄金と白銀の戦士はキョウイクジャーの救助を優先したため。
俺達は追い回されることはなかったが、キョウイクジャーとの戦いの前にあの二人が何者なのかを突き止めることが、一番の課題とされた。




