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理想の崩壊

今日から俺は新部署に配属になって別のヒーローを追うことになる。

俺は今日も期待に胸を膨らませて朝のジョギングには励んでいる。

一昨日の戦いの傷は言えているはずなのだが、まだ体が本調子ではないのか。

いつもよりペースが思うように上がらない。


あぁ、ほんの少し前まで入院していて退院した後もジョギングは控えていたからかもしれない。


「おはようございます。」


「あら、おはよう。今日も元気ね~。」


道端ですれ違って人との挨拶を忘れてはいけない。

さわやかな朝の挨拶は健康で健全な生活の第一歩なのだ。

悪の組織の一員は体が資本であり財産なのだ。

まぁ、これはどんな職業でも同じだけどね。


(最近は夏休みに入って子供達に会うことも少なくなったな)


朝の日課がなくなり、少し寂しいと感じる今日この頃、俺はまさかの事実を知る。


「あ、兄ちゃんおはよう!」


「「「「おはようございます。」」」


「ああ、おはよう。どうしたんだい? こんなに朝早く。」


ジョギング途中になぜか子供たちの一団に出会った。

こんな朝早くから遊びに行くのだろうか?


「ラジオ体操だよ。折角の夏休みなのにめんどくせ~よな。」


「そうだよね。」


「う~ん。眠たいよ~。」


朝早いために眠たそうに目を擦りながら進む子もいるようだ。


「へぇ~。ラジオ体操か。懐かしいな。この辺はどこでするんだい?」


「向こうの公園だよ。この辺の子は皆あそこに集まるよ。」


少年の一人が近くにある公園を指さしてそう言った。


「この辺の子ってどこまでの?」


「ん~とね~」


「いつも兄ちゃんが立ってる交差点の向こうのやつらも集まるんだぜ!」


少女がどこまでなのかを考え込んでいると少年の一人がだいたいどの範囲かを教えてくれる。


「な、なんだって~!!!」


予想外の事態に俺は絶叫してしまった。

俺の声にビビったのか子供達が驚き、近くの家の住人が「朝からうるさいぞ!」と怒鳴り散らす。

俺は平謝りして子供とご近所に頭を下げて「それじゃ、気を付けてね!」と言って去って行った。


(くそう…! こんなに朝早くに子供達があの交差点を渡るだなんて予想外だ!! 夏休みに入ったことに気づいてないドライバーの人がこんな朝早くだから人通りがないだろうと突っ切ったり、いつも通る道だからと安心しきったトラックの運ちゃんが子供達に気づかずに突っ込んでくるかもしれない!!

急がなくては・・・!!)


俺はこの時、悪の組織に襲われる一般人を救うヒーロー並の速度で現場へと向かった!


(行ける!! あの角を曲がれば!!)


俺が角を曲がった瞬間には、子供達は無事に横断歩道を渡り切っていた。


(良かった・・・)


俺はその場に両手をついてうずくまり歓喜の涙を流した。


「お兄さん大丈夫?」


「おはよう兄ちゃん。こんなところで何してるの?」


「おはよう。俺お兄さん久しぶりに見た。」


「俺も~」


「おはよう皆。気をつけてラジオ体操に行っておいで・・・」


道端でうずくまる俺に優しい言葉をかけてくれる子供達。

その笑顔に俺は救われた気がした。


「「「「は~い。」」」」


俺の言葉に気持ちのいい返事を返す子供達。

こんなくらい世の中でも子供達の笑顔を見ると一筋の希望が見える気がした。


(おお、神よ。彼らをお守りください。)


俺は胸で十字を切って神に感謝とこれからの彼らの安全を祈る。

悪の組織に所属する俺の頼みなんかを神様が聞いてくれるだなんて思わない。

だが、信じる者が救われるのが宗教というものだ。

俺はこの時ばかりは神様を信じた。


俺は子供達とラジオ体操をした後で、帰り道の補導員をして帰路につく。


(今度からは行き帰りの補導とプラスして周辺の子供達の公園までのルートを確認して危険がないかチェックしないとな。幸い、子供達はグループで公園に向かっている。確認すべきルート数はそう多くないはずだ。)


俺は朝の新たな作業に使命感を持って取り組むことをここに誓った。


(子供達の安全は俺が守って見せる!)


俺は悪の組織の一員として子供達の安全を守ることをここに誓うのだった。


「あれ? 橙子ちゃんおはよう。」


「あ、おはようございます。」


そんなことを思って走っていると途中で橙子ちゃんに出くわした。

学生服を来ていないので高校も夏休みに入っているのだろう。


「こんな朝早くからお出かけかい?」


「はい、せっかくの夏休みですからバイトを入れているんです。では。」


彼女はそう言って手を振って逃げる様に去って行った。


(この前みたいな余所余所しさはなかったけど・・・ 避けられているような・・・)


寂しさを感じつつ帰る道のりは朝なのにどこかどんよりしていた。


自宅に帰ると朝食を食べてから軽くもう一度町中を回ってから出社する。


出社時は基本的に普通の会社員とは出くわさないので、本来なら人のほとんどいない電車に乗れるのだが、夏休みということもあってか。

電車内には結構な人がいた。


(満員電車ではないんだろうけど、人が多いな・・・)


俺はいつもの電車に乗り込んだのはいいが、席に座れず立って電車に乗ることになった。


(ううん。若い子は皆お出かけなんだんぁ~。)


夏休みだから普通かとは思いつつ、少し昔を懐かしんだ。


「ん?」


なんだか、後ろの方で中年男がモゾモゾと動くので何をしているんだろうと振り返ると、端の方で立っている小さな女の子に痴漢をしているように見える。


(あんな小さな子に・・・ ロリコンか?)


とりあえず、俺は男の手を掴んで持ち上げてみる。


「な、何をするんだね君は・・・!」


男は慌てた様子で手を離せと言わんばかりに暴れ出す。


「痴漢は犯罪だぞ。」


俺は男を睨みつけて威圧して黙らせる。


「ち、痴漢だと?! 私がそんなことをする男に見えるのか?!」


男は暴れるのをやめて無抵抗になるも、口で俺に対抗してくる。


「君、大丈夫かい?」


俺はそんな男を気にせず、先程痴漢を受けていたと思われる少女に話しかける。


「はい。大丈夫です。ありがとうございます。」


そう言って何事もなかったかのように平然と話すのはあのブレザーハートの一人、碧ちゃんだった。


「こ、こんな子供に私が痴漢するわけないだろう! 君も! 適当な嘘をつくんじゃない!」


男はあくまでもやってないと主張する。


「そんなことはない。あなたはやった。証拠ならある。」


碧ちゃんはそう言ってスマートフォンを取り出して動画を再生する。


そこには、男が痴漢をした証拠が映し出されていた。


「そ、そんな馬鹿な・・・」


男はその場にへたり込み、次の駅について駅員さんに引っ張られて去って行った。


「ありがとう。それじゃ、私はこれで。」


「待って。」


何事もなかったかのように去ろうとする碧ちゃんを俺は引き留める。


「なにか?」


「なんで、自分で捕まえなかったの? 羽佐間さんならそれができたよね?」


「うん。でも、私は観察者だから。」


「観察者?」


碧ちゃんは変わった子だとは思っていたけど、まさか自分のことを観察者などと言い出すとは思いもよらなかった。


「観察者だから見ているだけなの。それ以外はしちゃいけない。」


「でも、羽佐間さんは正義の味方だよね? ブレザーハートに変身して五人で戦っているよね?」


「あれは、困っている人がいるから。皆が助けようっていうし… 別に私がしたい事じゃない。」


碧ちゃんはあくまでも正義の味方は自分の意志でやっていないと主張する。


「そんなことないよ。たとえ誰かに言われてやっていることでも、君はブレザーハートとして皆の為に戦っている。その事実は変わらない。それに、痴漢された時だって君自身は嫌だったんだろう?だから、助けられてお礼を言ったでしょう?だったら、今度からはああいう人がいたら捕まえないとね。そうしないと、君の様に嫌な思いをする人がまた現れてしまうからね。」


俺の言葉を聞いて少しばかり考えた後、彼女は口を開いた。


「私は、私の思う通りに生きているのかな?」


「もちろんさ。観察者だから何もしないでおこうと思うのだって君が自分で決めてやっていたことだろう?だから、君は自分の思った通りの生き方をしているし、そうしてもいいんだよ?」


「それが間違ったことでも?」


「その時は、友達や大人の俺なんかが悪いことだとか間違ってるとか言ってちゃんと止めてあげるよ。 それに君は頭のいい子だから善悪の判断や間違ったことは自分で気づけるさ。」


「そっか。わかった。」


碧ちゃんはそう言って駅員さんの方に証拠となる映像を届けに行った。

それを見届けた後で、俺は会社に出社した。


出社後とりあえず、受付で新配属される部署名を聞いてから部署が管理する部屋に顔を見せに行く。


「初めまして、智坂徳と申します。今日からよろしくお願いします。」


俺は部署に辿り着くと部署の長的おさてきな人にまず挨拶をする。


「ああ、話は聞いてるよ。今日から君はこの学業守護神キョウイクジャー専属部署の職員だ。直接の先輩はあそこにいる浜田君に話は通しているから説明受けてくれる。」


「はい。わかりました。」


俺は上司に頭を下げてから浜田さんと呼ばれた人の下に向かい挨拶を行う。


「おはようございます。今日からよろしくお願いします。」


「おはよう。お前かアイギスの所有するビルに攻め込んで正職員になった猛者もさってのは・・・」


浜田さんはだるそうに椅子に座ったまま俺を見て笑った。


「いえ、俺はあの戦いでは何もできませんでしたから。」


「まぁ、そうだろうな。怪人になってもヒーローに手も足も出ないんだ。戦闘員クラスじゃそうなるだろうさ。ついて来い。早速監視対象のカイチョウレッドを探しに行くぞ。」


浜田さんは椅子から立ち上がると鞄を持って部屋の外へと向かう。

俺もそれについていく。


「カイチョウレッドを探すんですか?」


「ああ、学業守護神キョウイクジャーの5人で正体がわかってるのはキョウトウブルー、ガクチョウブラック、シュニンイエローの3人だけだ。リーダーであるカイチョウレッドとシンマイホワイトは不明だな。助っ人でたまに出てくるタンニングリーンの正体は掴んだんだけどな。」


たまにしか出てこない助っ人ヒーローの正体は分かっているのか・・・

きっとタンニングリーンさんはおっちょこちょいなのだろうな。

そう考えると、毎回登場するカイチョウレッドとシンマイホワイトはすごいな・・・

特にシンマイホワイト、本当に新米なのか?

実はベテランなんじゃないのか?


そんなことを考えている間に先輩はエレベーターに乗り込んだ。

同じように乗り込んで1階のボタンを押す。


「これがわかっている4人の素性と今まで調べた資料な。」


そう言って先輩は分厚い資料を鞄から取り出して渡してくる。

俺は資料を開いて早速中を見る。


「ついたぞ。資料は車の中で読め。現場には車で向かう。」


俺は先輩の後について行って車に乗り込み現場へと向かう。


現場に着くまでの間に俺は資料に目を通す。


学業守護神キョウイクジャー

隊員数 5名 助っ人 1名

主な出現場所 守護神学園とその周辺


カイチョウレッド 正体不明

守護神学園 生徒会長 3年1組 御堂みどう まなぶが一番怪しい


キョウトウブルー 守護神学園 教頭 遠藤 教練きょうれん

カツラを被っている。 痔持ち。 最近妻との関係がうまくいっていない。


シュニンイエロー 守護神学園 3年の学年主任 富阪とみさか 訓練くんれん

体重100kg メタボ。 娘が反抗期に入り不良化している。


ガクチョウブラック 守護神学園 学園長 富阪とみさか 学修がくしゅう

独身 女生徒を変な目で見ている。 女学生物のAVを集めている。


シンマイホワイト 正体不明

一番怪しいのは 守護神学園 3年1組 副担任 闇乃やみの おしえ

大学を卒業したばかりの新米教師 年下好き 御堂学に恋している模様


タンニングリーン 守護神学園 3年1組 光之こうの 解読かいどく

学校内の複数の女性教師と関係を持っている 最近の狙いは闇乃教


「・・・・」


ざっと目を通して俺は「この学校大丈夫なのか?」と頭を抱えた。


「まぁ、気持ちは分かる。だがな、ヒーローなんてそんなもんだぞ。あいつらもただの人間だからな。

普通じゃない趣味や経歴なんて普通にあるさ。」


「この御堂学って人だけが唯一まともですね。」


「ああ、そいつはマジで完璧だ。眉目秀麗、文武両道、清廉潔白な完全無欠の生徒会長だな。

ハッキリ言ってそいつさえ倒せればあとはどうとでもなりそうなんだがな・・・」


浜田さんは窓を開けて煙草の煙を窓の外に向かって吹いた。


「なんだか、この仕事って夢が壊されますよね。」


「ふ、現実はいつも残酷なもんさ。」


俺は大人になったことを後悔しながら浜田さんとのドライブを楽しんだ。


その後、俺達は守護神学園を二手に分かれて監視することにした。


「お前はもう正社員だからな。監視するための絶好のポイントぐらい自分で見つけろ。」


浜田さんはそう言って俺を車から降ろして去って行った。


俺は一人、学校の周囲を探索することにした。


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