悪の組織最大最高の技術。
警備会社〈アイギス〉の所有するビルを襲撃する作戦で辛くも脱出に成功した俺達は現在、悪の組織の運営する医療センターに運ばれていた。
俺は肋骨の骨が折れて肺に刺さっていたらしく、緊急手術を受けたらしい。
らしいというのは脱出後から手術を受けて病院のベッドに運ばれて目が覚めるまでの記憶がないのでそのことを隣で寝ていたネイル先輩に聞いたからだ。
ネイル先輩の話によると無事バイパーさんの部隊も逃げることができたらしい。
今回の襲撃では怪人2名、戦闘員8名が死亡、怪人6名が重傷、戦闘員89名が重軽傷を負う事態となったと言う。
「退院したら線香をあげにいかね~とな・・・」
窓の外を見つめるネイル先輩の頬には涙の跡が見える。
きっと一晩中泣いていたのだろう。
「大丈夫かい?」
診察の時間となり、俺達の担当医が室内に入ってきた。
「悪の組織に属しているとはいえ、君たちも無茶をするね~。まぁ、即死してない限りは私は必ず救って見せるがね。」
医者はよほど自信があるのか、笑ってそう言った。
「あのう・・・ 俺達はいつになったら退院できますか?」
「ああ、明日の朝には退院できるよ。拒絶反応がなければだけどね。」
拒絶反応という言葉に引っ掛かり少し質問してみることにした。
「臓器移植したんですか?」
「いや、ただ万能細胞を植え付けて臓器を再現したんだ。傷口も細胞を傷つけない様に細胞同士の結合を分離しただけだから傷は残らないよ。抜糸の必要もないからその為の再手術の必要もないしね。」
「え?! 万能細胞ってあるんですか?」
「もちろんだとも、悪の組織を束ねる組織である≪健康第一≫が発見した悪の組織のみが持つ世界で最高にして最大の発明だよ。これがあるからこの細胞を改造して怪人を作り出すこともできるし、どんな傷も一日で治せるからね。危険な仕事だけど死人も少ないんだ。さすがに、脳みそが破損してたり、即死してる人間は治せないが、それ以外なら何とかしてみせるよ。まぁ、傷口を綺麗に切って細胞同士の結合を分離してそれをまた綺麗に引っ付けるのは僕以外にはそう簡単にはできないけどね。まぁ、一般の人達にはこの技術は見せられないから普通に直すし、糸で縫いつけて塞いだから少し傷は残るけどね。」
医者は自慢気に自慢話のように話して去って行った。
「あんな感じの人だが、あの人の腕は本物だぞ。なんたって我が悪の組織匿名希望☆の最大最高の人材だからな。」
悪の組織、最高の人材が医者だというのはどうだろうと思いつつも悪の組織の技術力に俺は驚きを隠せない。
「あれ? じゃ、この前の入院時もここに搬送してもらえれば一日で治ったんですか?」
「ああ、治っただろうな。でも、あの時はヒーローが絡んでるからここの技術は使えないし、ヒーローたちが運営する病院に行くしか選択肢はなかったな。それでも、悪の組織の運営する病院の次に優秀で腕のいい医者がいるし、施設もここと同格だから問題はないだろう。」
俺の質問に先輩は平然と答えた。
悪の組織はやられ慣れているので、正義の味方よりも医療技術が進んでいるし、スタッフも慣れているので腕がいいらしい。
そんなところで勝ってもなと思う今日この頃であった。
翌日、俺達は会社が開く社葬に出ていた。
先日の戦いで命を落とした怪人と戦闘員は階級を二階級特進し、遺族には特別手当と特進手当が送られるそうだ。
もっとも、表向きは不幸な事故として処理されるので他の名前で手当てが送られるらしい。
こうなった時のためにうちの会社では事前に戦闘に出る全員が有給を取って会社を休んでいることになっており、有給休暇中に起きた出来事として処理される。
なので、会社が疑われることはない。
もし疑われたら、悪の組織は摘発されてヒーローの総攻撃を受けて消滅してしまうだろう。
普通は会社での仕事中の事故でもない限りは社葬は行われないが、裏の理由や本当の死亡理由などの関係で我が社では社員の死はすべて社葬が開かれる。
そうすることで本当に休日中の事故死でも社葬を行うことにはなるが、裏の理由や会社の素顔が他にバレることがなくなり怪しまれなくなるのだ。
俺は着なれない黒い礼服を着て参列し、お坊さんのお経に耳を澄ます。
そして、自分の順番が来たらお焼香をしてまた席に戻る。
席に戻ってくる途中で先輩や支部長、バイパーさん達などの顔なじみの方達が涙を流していた。
無論、親族や家族の方たちは号泣している。
小さな子供達だけが、訳も判らず暴れまわったり、親が泣いているのを見てもらい泣きをしていた。
俺はというと、幸いといっていいのか。
知り合いが一人もいなかったので、悲しみで涙が溢れることはなかった。
ただ、戦場に行った時もそうだが、顔を見たことがない仲間でも戦死という事実を知ると心が痛んだ。
(そういえば・・・ 教官が言っていたな・・・)
「悲しいとか、胸が痛むと思えるってことはお前がまだ死に慣れてない証拠だ。それは人にとって大事な感情だから慣れて心が壊れない様にちゃんと守っておくんだぞ。」
そう言った時の教官の笑顔を思い出して懐かしくもなり、悲しくもなった。
(あの人にも、もう会えないんだよな・・・)
昔の思い出に浸りながら、俺は葬式の列に紛れて少し泣いた。
そんな厳かなお葬式が終わると皆、席を移動して別会場に移る。
そこで、二時間ほど待った後で悲しみを忘れるための宴会が始まる。
二時間ほど待つのは、すぐそこにある別館で火葬が行われるからだ。
俺は二時間ほど待つ間、はしゃぎ回る子供達をただ見つめていた。
子供達の笑顔を見ていると悲しいことを忘れられる気がしたのだ。
「なぁなぁ、兄ちゃん。遊んでくれよ!」
「おじちゃ~ん遊んでよ!!」
子供達は近くにいる適当な大人を捕まえては遊んでくれと言って大人たちを困らせる。
「こら! 静かにしてなさい!」
母親たちが子供達を叱りつけて大人たちから引きはがしていく。
そんな情景を微笑ましく見ていると、子供達が俺の下へと駆け寄ってくる。
「暇そうだな! 俺が遊んでやってもいいぜ。」
「私も!」
子供の一人が俺を見て暇そうにしているからと駆け寄ってきた。
それに続いて次々と子供達が駆け寄ってくる。
その後ろから母親たちが心配そうに追いかけてくる。
「ふぅ・・・ 向こうで遊ぼうか。」
俺は母親たちに頭を下げてから子供達と共に別室に向かう。
「あいつは我が社の社員でして、子供の面倒を見るのがうまいのでお任せください。」
支部長が母親たちに頭を下げて俺に子供達の面倒を見させてやって欲しい説得する。
母親たちも社葬とはいえ、葬式の場ではいろいろとやることがあるので子供達を俺に任せることにして去って行った。
俺は別室で子供達とカードゲームやボードゲームをして遊ぶことにした。
幸い、子供達はこれらの遊びができる最低限の年齢には達していたために苦労せずに済んだ。
最後はヒーロー特番を見せてやると子供達は大はしゃぎで画面にかじりついていた。
ヒーロー特番とは、ヒーローの活躍をかっこよく脚色したゴシップ番組だ。
ヒーローの活躍を世間に公表し、活動を支援する団体に向けたこの番組は特撮モノやアニメ、ドラマなどと同等の人気がある。
まぁ、実際の戦闘を編集しているので臨場感は半端ないし、本当に鬼気迫るリアクションが見れるのでそういうのが好きな人には大人気だ。
ただ、子供を持つ親や平和主義者、非暴力主義者などから実際の戦闘を映すのはどうなのかと抗議の声も上がっている。
(まぁ、そうなるよね・・・)
俺のテレビを見ていて思ったが、いくら編集しているとはいえ実際の戦闘を子供達に見せるのは少し反対なのだが、子供達がこの番組が好きらしく見たがったのだから仕方がない。
「おお! やっぱり極道戦隊キワメンジャーはかっこいいな~。」
「そんなことない! プリティシュワワの方がかっこいい!」
「ライダーマスクフルーティが最強さ!」
「ジャイアントマンの戦闘は敵を踏みつぶすだけでつまらないよね。」
子供達がテレビに映るヒーローを見てはしゃいでいる。
(この子たちの親の中には悪の組織に所属して戦っていた人もいるのかな・・・)
正義のヒーローの活躍や誰が一番強いかなどを純粋に語る子供達の姿を見てまた目から涙が溢れてきた。
この社葬の場にいるということは、少なくとも親族の誰かが死亡した悪の組織に属していた人だったということだ。
そう思うとヒーローの姿を見てはしゃぐ子供達がその事実を知らないことに涙せずにはいられなかった。
「お兄ちゃん大丈夫?」
「大丈夫か?」
俺が涙していたことに一人が気づくとほかの子達もわらわらと傍に集まってきて心配そうに見つめる。
溢れ出る涙を止めることができなかった俺は子供達に頭を撫でられて慰められることになった。
その後、火葬が終わり親族連中のみで骨を拾って貰い宴会が始まる。
宴の席では皆が悲しみを忘れるために盛大に酒を飲む。
「智坂~! 飲んでるか!」
宴会が始まって20分ほどで同期のパン○ース君がすでに出来上がっていた。
「ペースが速すぎないか?」
「いや~、だっていろんなお酒が置いてあって試し飲みしててよ。おまけにさっきまでいろんな酒飲みながらどっちが多く飲めるか先輩と競っててさ~。」
「それは・・・ やめた方がいいぞ。体に良くない。」
俺はパン○ースの奴に水を渡して飲ませようとする。
「馬鹿野郎! 始まって20分でもう水を飲むやつがあるか! 酒を持ってこい!」
あくまでも酒を欲しがるパン○ースに俺はオレンジジュースを出してやる。
「酒持って来いっていってんだろうが!!」
「いや、これはスクリュードライバーっていう立派なお酒だよ。」
悪の組織で身に付けた嘘をつき相手を騙す詐欺のスキルを遺憾なく発揮して俺はパン○ースにオレンジジュースを進める。
「スクリュードライバーって何? プロレスの技名?」
「ウォッカってお酒とオレンジジュースを混ぜたカクテルだよ。口当たりが優しいから女性でも気軽に飲めるんだけど、ウォッカは度数が高いからね。別名マダムキラーって呼ばれるお酒だよ。」
俺はそう言って自分用に持ってきた本物のスクリュードライバーに口をつけてある程度飲んでからコップを離してパン○ースの鼻先に向けて息を吹きかける。
「プハァ~!」
「うお! 酒臭いな!!」
パン○ースは俺の出した酒臭い息を浴びて逃げる様に距離を取るとオレンジジュースに口をつける。
「なんだこれ? ジュースと変わらね~じゃね~かよ!」
一口飲んで酒の味が全くしなかったことにパン○ースは激怒する。
「だから、女の人でもガブガブ飲んで男に連れ去られちゃうんじゃないか。」
「なるほど・・・ これを使えばあの娘と一晩の甘い夜の一夜を過ごすことができるかも・・・」
俺の言葉に何か納得したようにパン○ースは独り言をつぶやく。
「いや、女の子とは普通に純粋なお付き合いをした方がいいよ?」
「え・・・ ああ! もちろんわかってるさ!!」
友人が本当にわかっているのか不安になった。
俺のせいで友人がこれ以上の悪の道に踏み出すことになるかもしれないと思うとやっぱり嘘は良くないなと思った。
「それ、ただのオレンジジュースだよ。」
「な・・・!? やっぱりかよ!! ま、まぁ最初から気づいてたけどな・・・!」
俺のこの一言で友人が過ちを犯さないことを切に願いつつ。
俺はその場を離れて上司や先輩たちの下で酌をするのだった。
(本物のスクリュードライバーもあんまり変わらないな・・・ これなら・・・)
後日、俺の友人パン○ースは付き合いたての彼女に盛大にフラれたらしい。
それがなぜなのかは俺にはよくわからない。
とりあえず、「女性を酔わせて襲うのはやめた方がいい、死ぬかと思った。」と顔面を腫らしたパンパ○ースが言ったセリフだけは胸に刻むことにした。
女性とは真摯に接しましょうね。
サンレッド的な作品を目指していたのにどうしてこうなった・・・




