高跳逃の悪行
なぜ、智坂徳が超人 スーパーマン の弱みを握れたのか?
それはある男が悪の道に一歩踏み出したからに他ならない。
あっしの名前は高跳 逃といいやす。
今にも借金を作って国外に逃げ出しそうな名前でやすね。
でも、あっしは名前とはうって代わって逃げも隠れも・・・
いや、隠れる技術はつい最近、師匠である智坂徳さんに教えて貰っているので隠れることに関してはかなりの自信がありやす。
まぁ、そんなことは横に置いといて今日はあっしが師匠に恩を返すために家までやってまいりました。
時間は朝の8:30でやす。
普通のサラリーマンならもうとっくにいませんが、悪の組織に所属するあっしの師匠はこの時間。
熟練の主婦の如く掃除、洗濯をしていやす。
料理の腕も本物の料理人かと思うぐらいでやす。
きっと学生時代に料理人を目指していれば遠い月の学園に行けたかもしれないってぐらいでやす。
そんな師匠がなんで悪の組織なんかやっているんでやしょうね・・・
世の中って厳しいでやすよね・・・
ピンポーン
「は~い。ちょっと待ってください」
師匠の家の呼び出しボタンを押すとすぐに返事が返ってくる。
しかし、少しおかしい。
あの真面目な師匠のことだ。
朝、会社に行くまでの準備はすでに済ませているはずなのに少しばかり時間がかかっている御様子・・・
これは何かお力になるチャンスでやすかね?
ガチャ
「どうも、お久しぶりでやす。」
扉が開くのを少しばかり待つと扉を開けて師匠が出てくる。
あっしはすかさず挨拶をして粗品を差し出す。
悪の一員とはいえ、誠意を忘れてはいけやせんぜ?
「ああ、おはよう。これはすまないね。久しぶりって一日会わなかったぐらいで大げさだな。よかったら上がっていくかい?」
「いいでやすか? すいやせんね。」
師匠の部屋に入ると男の部屋なのにしっかりと物が整理整頓されているでやす。
几帳面かつ生真面目。
師匠が女の子だったら告白してたでやす。
部屋に上がると師匠はテーブルに座ったあっしに飲み物とお菓子を出してくれやす。
しかも、お菓子は師匠お手製の手の凝ったケーキなんかが十中八九出てきやす。
べ、別にこれ目当てで来たんじゃないでやすよ?
「それで、今日はどうしたんだい?」
師匠の出してくれたコーヒーとケーキを御馳走になった後、師匠が不意に尋ねてきやす。
「へい! 実はあっし、今度別の元ヒーローの女性の下に行くことになりやしてね。それで、ここから少し遠くに行くもんですからその前にどうか師匠に少しでも恩返しでもと思いやして!」
「そうなのか。ありがとう。でも、気にしないでいいよ? 俺が勝手にやっただけだし、恩を売ろうとしたわけじゃないんだよ?」
師匠は少し困ったような顔であっしを見る。
しかし、あっしの決意はもう決まってやす!
「ですが、あっしも悪を貫く悪党として貸しは返しておかないといけないんでやすよ。お願いします。
あっしの我が儘をきいちゃあくださいませんか?」
「う~ん。そうまでいうなら何かお願いしたいんだけど・・・ あ! そうだ。 もし今度、俺が入院したら替えの服持ってきてくれない? 洗濯はしないでいいからさ。」
師匠は少し困ったように考えた後、思いついたかのように閃くと、不吉なことを言い出した。
「どういうことでやす?! 何か、そう言う予定でもあるんでやすか?」
「いや~、実は・・・」
師匠の話によると、明日の午後1時に警備会社〈アイギス〉が所有するビルに襲撃をかけるとか。
そこは現役を引退したヒーローが新ヒーローのための最新装備の開発と実験をしているという。
なんとも、恐ろしい場所らしい。
当然の如く、そこには現役を引退した元ヒーロー達がわんさかいるらしい。
分かっているだけでも初代ライダーマスク、スーパーマン、ライダーマスク2号、女忍戦隊クノイチジャーなどの有名どころやレインボーガーディアンに雷神仮面というマイナーな方々までいるらしい。
しかし、彼らは現役時代を生き延びた正義のヒーローなのだ。
その実力は衰えてもなお怪人を圧倒する可能性が十分ある。
そんなところに下級戦闘員の師匠がいったら・・・
病院送りでは済まされないだろう。
「わかりやした。あっしが師匠が生きて帰れるように誰か一人の弱みを握って見せやす!
待ってて下せ~! 必ず吉報をお届けしやす!」
「ああ、待て! 早まってはいけない!!」
こうして、あっしは師匠の家から飛び出して情報収集に向かいやした。
まず、あっしが向かったのは自分の所属する悪の組織、エロゲーと通信するために自宅に帰りやす。
あっしの所属する悪の組織は支部を持っておらず、パソコンのインターネット通信でやり取りをしやす。
毎月、暗号化されたパスワードを開くためのソフトが届きやす。
ただ、これ社員価格で3000円なんでやすよね・・・・
あっしは情報を得るためにパソコンを起動してソフトを立ち上げやす。
「ア、ハン♪ らぶらぶパラダイス☆」
ソフトを起動するとOPが流れた後に声優さんの良い声でゲームの題名が読み上げられるでやす。
おっと、もちろんヘッドホンは着用してるでやすよ? マナーでやすからね☆
今月はあっしの大好きなハーレム物でやす。 いや、あっしだけでなく男なら誰でも好きでやすね。
毎月、送られてきたゲームをクリアしないと悪の組織のホームページにログインできないんでやす。
しかも、ゲームをしっかりやってないとわからない問題を解かないとログイン画面に辿り着けないというややこしさでやす。
まぁ、あっしにとってはお茶の子さいさいでやすけどね。
あっしはいつも通りにおまけコーナーで秘密のパスワードを打ち込んでから問題を解き、ログインして師匠のお役にたつために何かいい情報はないかと探すでやす。
「ううむ。キューティーバニーがまさかの現役復帰でやすか・・・」
衝撃的事実に言葉を失ってしやいやすが、あっしはまだ諦めやせんよ。
「むむ! これは・・・!」
あっしはついに師匠の役に立ちそうな情報を見つけやした。
『超人夫婦のセックスレス。 10年目に突入。』
超人夫婦とはあのスーパーマンとスーパーウーマン夫婦のことでやす。
スーパーウーマンは元ヒーローでやすからうちの組織でも狙ってやす。
写真で見ると年の割には美人で素敵なマダムでやすね~。
あっしはこのスーパーウーマンを現在狙っている社員に何とかコンタクトをとってスーパーマンの動向を聞き出したでやす。
意外な出費に苦労しやしたが、師匠の恩に報いるためにもめげずに頑張るでやす。
なぜ、スパーウーマンの観察者がスーパーマンの動向を知っているかって?
知ってないと鉢合わせしたらただじゃすいやせんからね。
どんな寝取りエロゲでも、寝取る対象とその夫の動向は知っているものでやす。
そんなわけで、あっさりスーパーマンの動向を知ることができたあっしは、行きつけのお店で待ち構えることにするでやす。
ガララ
「いらっしゃ~ぁせ~い。」
聞いていた時刻より少し早めにスーパーマンはそのお店へとやってきたでやす。
「いつものをいただけるかい?」
「はい。少々お待ちください。」
スーパーマンはカウンター席に腰を下ろすと店の店主にそう言って差し出されたコップの水を一口飲む。
超人スーパーマンは見た目も筋骨隆々とした背の高い男だった。
顔にはヒーロー時代に負った傷と年老いてできた皺が見て取れる。
服装も落ち着いたものを着ており、貫禄がある渋い中年オジサンだ。
(もし今怪人が現れたらあの恰好のままで戦うんだろうな・・・)
俺は昔見た彼の活躍の映像を見て思い出す。
彼は肉体そのものが強靭な武器であり防具である超人スーパーマンだ。
彼は戦闘時にいちいち変身や着替えを必要としない変わり種のヒーローとして人気がある。
素顔を平然とさらし、いついかなる奇襲を受けても正面から戦う。
そんな愚直な戦士が彼だ。
ただ、その戦闘能力はすさまじく。さらに変身をしない通常状態で常に他のヒーローの変身後の能力を持っているのに日常生活に支障をきたさないのは彼の繊細な動きやその力を完全にコントロールしているためだろう。
始めはただ『超人』とだけ呼ばれ、途中からは英語読みの方がかっこいいから『スーパーマン』と呼ばれている。
ただ、気になるのは誰も彼の本名を知らないことだ。
昔、彼はそのことをインタビュアーに聞かれてこう答えた。
「本名? 別に名乗ってもいいけど普通だよ? 名乗らないのは名乗る必要がないから、困っている人を助けるのは普通で当たり前のことだ。 助け合いの精神があって初めて人は生きていけるのだから、だから別に人を助けたからって名乗らないし、僕の様になって皆に人助けをして欲しいとは思わないかな。
危険が多いからね。 僕は体が人より丈夫だからね。 所謂、超人ってやつさ。 皆の呼び方は自然に僕を表すいい言葉だと思うよ。 英語読みはなんだかかっこいいよね。」
そう言って彼は質問を軽くスルーして話したため、結局本名は公表されなかった。
ただ、普通に本人に聞くと教えてくれるらしい。
「あのう、スーパーマンさんでやすよね?」
「ああ、そうだよ。」
あっしが話しかけるとスーパーマンさんは普通に返事を返してくれた。
「あっし、昔のスーパーマンさんの活躍してるDVDもってやす! いや~こんなところで会えるなんて感激でやす! ご、ご一緒しちゃダメでやすか?!」
あっしはスーパーマンさんのファンを装って彼の席の隣に押し掛ける。
「HAHAHA 構わないよ。 でも、僕はもう引退しているから本名の山根 唯継って呼んでもらって構わないかい?」
ニッコリと歯を見せて笑う山根さんの歯は綺麗に輝いていた。
「へい! わかりやした山根さん。」
「はい。これ、いつものね。」
あっしの返事の後に店主が見計らったかのようなタイミングでビール瓶とコップ、それにおひたしを出してくる。
「注いでもよろしいでやすか?」
「おお、悪いね。」
あっしは山根さんのコップにビールを注いで自分も適当に飲み物と食事を注文した。
「HAHAHA、まぁ君も飲みたまへ。」
そう言って山根さんはあっしに新しいコップを渡してビールを注いでくれる。
「す、すいやせんねなんか・・・ 店主さんビールもう一本追加で。」
「やめといたほうがいいよ。 その人いつも一人で4、5本飲むからさ。 一本空いたら新しいのこっちで出すよ。」
あっしが気を利かせたつもりで頼んだビールは店主さんの一言で軽く却下される形になりやした。
というか、あっしの口は開いたままふさがりやせん。
一人でビール4、5本・・・
ヒーローは怪人を倒す化け物とは思ってやしたがスーパーマンの異名を持つ山根さんは酒豪でもあったようでやす。
その後、山根さんと楽しくお酒を飲んで二時間ほどして帰ることになったでやす。
あっしはチビチビと少ししか飲んでいないのに豪快に酒を飲みほした山根さんの方が元気だったのはいうまでもないでやすね・・・
帰り間際に風俗に誘ったら山根さんは「仕方ないなぁ・・・」と言ってにやけ顔でついて来てきれたので山根さんはやっぱりかなりいい人だなとは思いやしたね。
師匠と気が合いそうでやす。
そんな山根さんを裏切って写真を盗み撮りしたあっしはもう立派な悪の組織の一員でやすよね・・・
早朝、あっしは現像した写真をそっと師匠に渡しやした。
山根さん、ごめんよ・・・
心が痛んでこの日はちょっと悲しくなったでやんす・・・
語尾の「やす」のせいで読みにくかったらごめんなさい。




