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第5章 月三万円



それから一か月後。

翔太の生活は大きく変わった。


離婚は――ひとまず保留になった。

ただし、条件付きだった。


給料はこれまで通り本人名義の口座へ振り込まれる。

そこから給料日に、住宅費と生活費として決めた金額を家計用口座へ自動で移す。

残った金のうち、貯蓄分も別口座へ。


翔太が自由に使える金は。


月三万円。

皮肉にも、彼があれほど馬鹿にしていた佐々木さんと同額だった。


「……三万円って少なすぎないか?」


社員食堂。

一番安いかけうどんをすすりながら、翔太はぼやいた。

向かいに座っていた佐々木が呆れた顔をする。


「お前まだ言ってんのか」


「だって俺の給料だぞ」


「お前の給料から、お前の住んでる家の金払って何がおかしいんだよ」


「でもさあ」


「俺だって住宅ローンも子どもの教育費も払った上で三万だぞ」


「……」


「今まで全部奥さんに払わせてたお前とは話が違うからな?」


近くにいた同僚が笑いを堪える。

翔太は不機嫌そうにうどんをすする。


「欲しいフィギュアあるんだよな……」


「買えば?」


「二万八千円」


「じゃあ今月、昼飯ほぼ抜きじゃん」


「だからちょっと貸してくれない?」


佐々木は即答した。


「嫌だ」


「何でだよ!」


「また同じことするだろ」


隣の同僚も口を挟む。


「俺も貸さないからな」


「まだ何も言ってねぇだろ」


「顔に書いてある」


「五千円だけ」


「無理」


翔太は周囲を見渡した。

誰とも目が合わない。

むしろ露骨に視線を逸らされる。


佐々木先輩に泣きついたせいで、翔太の『生活費ゼロ事件』は部署内にすっかり広まっていたのだ。


上司からも言われたらしい。

――夫婦の金のことは夫婦で決めるものだ。ただし、家庭の費用を三年間一方に押し付けていたのなら、まず自分のやってきたことを考えろ。


思っていたような味方は、一人も現れなかった。


「……みんな嫁の味方かよ」


翔太が吐き捨てる。

佐々木は箸を置いた。


「違う」


「何が」


「お前が間違ってたら、お前が間違ってるって言ってるだけ」


「……」


「俺ら、お前の敵じゃないぞ」


翔太が顔を上げる。


「本当に敵なら、何も言わずに見捨ててる」


少しだけ真剣な声だった。


「奥さんがまだチャンスくれてるなら、一回ちゃんとやれよ」


翔太は黙った。


「それでも無理なら、その時は離婚になるだけだ」


「簡単に言うなよ……」


「三年間一人に全部背負わせた奴が言うな」


「……」


しばらくして。

翔太は何も言わず、残ったうどんをすすった。


以前なら必ず怒鳴っていたはずだ。

それだけでも。

ほんの少しは、変化しているのかもしれなかった。

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