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トイレの扉を開けたら異世界でした。ハズレ(?)スキル【家庭科】とチタン棒で、大陸最恐のポンコツ美女4人のオカンになります!?  作者: 月神世一


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EP 9

 慰労の肉じゃがと、オカンを巡る泥沼

コトコト、グツグツ……。

ポポロ村の広場に、醤油とみりん、そして砂糖が焦げる極上の香りが漂っていた。

「さぁ、食え。赤木家秘伝、究極の肉じゃがだ」

俺がエプロンのポケットから召喚した巨大な寸胴鍋のフタを開けると、湯気と共に暴力的なまでの『おふくろの匂い』が弾けた。

ホクホクに煮崩れる寸前の男爵イモ、味が染み込んで飴色になったタマネギ、そして奮発して召喚した『特選和牛』の薄切り肉。

「うおおおおっ……! い、いただきますっ!」

泥を落とし、すっかり農民の顔になった元・偽装傭兵部隊の男たちが、配られた木椀にがっつく。

「あ、甘ぇ……! なんだこの肉の旨味を吸ったイモは……!」

「しょっぺぇのに、優しい……。俺、傭兵になってからこんな温かいもん食ったの、初めてだ……」

顔に傷のある隊長が、肉じゃがを頬張りながらボロボロと大粒の涙をこぼした。

「赤木のダンナ……いや、アニキ! 俺たち、帝国に帰ったら傭兵稼業からは足洗います! 故郷に帰って、アニキに教わった団粒構造の土で、最高に美味い芋を作ってみせますぜ!」

「ああ。農業は裏切らない。頑張れよ」

俺が肩を叩くと、三十人の屈強な男たちは全員で深く一礼し、憑き物が落ちたような清々しい笑顔で、夕闇の彼方へと帰っていった。

一件落着である。

「……さて。お前らも冷めないうちに食え」

俺は、後ろで涎を垂らして待機していたシェアハウスの四人に、山盛りの肉じゃがを振る舞った。

「はむっ……! んんん〜っ! お芋が口の中でとろける〜っ!」

「和牛の脂と、謎の甘味みりんが絶妙ね……! パンの耳に汁をつけて食べると最高のおかずになるわ!」

「優しい……。お肉もお野菜も、大地の愛情に包まれて幸せそう……」

「くっ……公爵家の専属シェフでも、この温かみは絶対に出せない……っ!」

キャルル、リーザ、ルナ、ダイヤの四人は、夢中で肉じゃがを口に運んだ。

そして、食べ進めるうちに、彼女たちの顔からいつもの騒がしさが消え、ふっと穏やかな表情へと変わっていった。

王族という『籠の鳥』から逃げ出し、一人で気を張っていたキャルル。

見栄を張りながらも、孤独な貧乏生活に耐えていたリーザ。

特別な存在として隔離され、誰とも対等な関係を築けなかったルナ。

実家を飛び出し、たった一人で戦い続けてきたダイヤ。

強すぎるが故に、どこか欠落し、孤独だった彼女たちの心に、俺の作った『家庭の味』がじんわりと染み込んでいく。

「……大地。ありがとう」

キャルルが、少し潤んだ赤い瞳で俺を見つめた。

「私、ずっとこういう『家族』の食卓に憧れてた。あなたが来てくれて、本当に良かった」

「大袈裟だな。俺はただ、飯を作ってるだけだ」

照れ隠しにそっぽを向く俺を見て、四人は顔を見合わせ、ふわりと柔らかい笑顔を浮かべた。

夜風は少し冷たかったが、ポポロ村の村長宅は、本物の家族のような温かい空気に包まれていた。

——と、美しく終わるはずだった。

***

深夜。

俺が自室の布団に入り、深い眠りについていた時のことだ。

——ドガァァァァンッ!!

「……ッ!?」

隣の部屋(女子部屋)から、爆弾が直撃したような轟音が響き、俺は飛び起きた。

「ふふふ……ダイヤ、そこをどきなさい。大地の『正妻』はこの私、キャルルよ。彼の料理を一生独占するのは私って決まってるんだから!」

「寝言は寝て言いなさいキャルル! 私の武器のメンテには大地の知識が必要なの! それに私は公爵令嬢よ、彼を正式な夫として迎える権力があるわ!」

「二人ともずるい! 私はアイドルなんだから、大地さんは一生私を養うプロデューサー兼ダーリンになるの! 愛と!富と!大地さんをちょうだーいっ!」

「もう、みんな喧嘩はだめよ。大地君は私が世界樹の王配キングにして、毎日純金のお風呂に入れてあげるんだから。さぁ、魔界の食虫植物ちゃん、みんなを少しだけ眠らせてね♡」

轟音の正体は、枕投げ——という名の、殺意高めの泥沼抗争だった。

壁に大穴が開き、綿の散らばった部屋の中で、キャルルがマッハの速度で『枕』を蹴り飛ばしている。

ダイヤはマジックバックラー(盾)でそれを弾き返し、リーザは『Love & Money』を歌いながら謎のバフで腕力を上げ、ルナは善意100%の笑顔で巨大な食虫植物を召喚し暴れさせていた。

「「「大地(さん/君)の一番は、私よォォォッ!!」」」

女子四人の放つ闘気、魔力、バフ、自然魔法が空中で激突し、ポポロ村の夜空にオーロラのような謎の閃光を走らせる。

「…………」

俺は、静かに自室からチタン合金棒を手に取った。

カシャッ。

冷たい金属音が、騒乱の部屋に小さく、しかし確かなプレッシャーを伴って響く。

ピタッ。

大怪獣バトルを繰り広げていた四人の動きが、完全に停止した。

「お前ら……」

俺は、般若のような形相——いや、限界まで怒り狂った『絶対的オカン』のオーラを纏い、四人をねめつけた。

「夜中に騒ぐなァァァッ!! 壁の修理代、明日のお前らのお小遣いから全額天引きだからな!! とっとと寝ろォォッ!!」

「「「ひぃぃぃぃっ!! ごめんなさいぃぃっ!!」」」

俺の放つ『無名・昇龍』に匹敵するオカンの気迫に、大陸最強の美女四人は悲鳴を上げ、五秒で布団に潜り込み、死んだように目を閉じた。

まったく、どいつもこいつも手がかかる。

俺は盛大に破壊された壁を見て深いため息をつきながら、明日の朝飯は絶対に『精進料理(肉なし)』にしてやろうと固く心に誓ったのだった。

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