EP 6
緩衝地帯の火薬庫(トラブル発生)
俺がオカン政権を樹立してから数日。
ポポロ村の村長宅は、驚くほど平和で規則正しい生活を取り戻していた。
「大地さーん! 言われた通り、畑の雑草抜き終わりましたぁ!」
「私もクリムゾンアーマーの装甲、安い鉄鉱石から自分で打ち直してみたわ。これで原価が十分の一よ!」
「えへへ、私も村の道端に咲いてたお花に、ちょっとだけ元気になる魔法をかけておいたわ」
泥だらけのリーザ、煤で顔を汚したダイヤ、そして控えめな善意に留めることを覚えたルナが、縁側で麦茶を飲んでいる俺の元に報告にやってくる。
「よしよし、みんな偉いぞ。今日の夕飯は奮発して、自家製マヨネーズを使ったチキン南蛮定食にしてやる」
「「「やったぁぁぁっ!!」」」
三人が歓喜の声を上げる。
キャルルも横で「本当に……この村長宅がまともに機能してるなんて奇跡よ」と、お茶をすすりながら感涙していた。
だが、そんな平穏は、突如として破られた。
「おいコラ田舎者! 酒だ! 酒と女を出さねぇか!!」
村の広場の方から、下品な怒声と物が壊れる音が響いてきた。
「……何事だ?」
俺たちが急いで広場に向かうと、そこには三十人ほどの武装した荒くれ者たちが居座っていた。ルナミス帝国の旧式魔導銃や、無骨な剣で武装している。
彼らは村の出店を蹴り飛ばし、収穫したばかりの太陽芋を乱暴に踏みにじっていた。
「ああっ! 俺たちが育てた芋が……!」
「ふんっ。あいつら、ただのならず者を装ってるけど、足運びや銃の構え方は正規の訓練を受けた部隊のそれね。間違いない、ルナミス帝国軍の『偽装傭兵部隊』よ」
キャルルが鋭い目で分析する。
このポポロ村は、ルナミス帝国、レオンハート獣人王国、アバロン皇国という三大国の国境が交わる『緩衝地帯』だ。
表立って手を出せない大国は、こうしてならず者を装った部隊を送り込み、村の防衛力や他国の動向を探る『威力偵察』を頻繁に行ってくるらしい。
「なるほど。政治的な嫌がらせってわけか」
「ええ。でも安心して、大地。あんな連中、一瞬で終わらせてあげるから」
キャルルが特注の靴を鳴らし、重心を低く落とす。
「超電光流星脚(スーパー・ライトニング・メテオ・ストライク)で、あの部隊ごと広場を更地にしてあげるわ」
「待て待て待て!!」
俺は慌ててキャルルの兎耳を掴んだ。
「痛っ! 何するの大地!?」
「何するのじゃない! マッハの飛び蹴りなんかぶっ放したら、連中どころか村の広場と周囲の畑が消し飛ぶだろうが!」
「大丈夫よぉ、大地君」
今度はルナが一歩前に出る。その手には、不気味な赤い炎をまとった杖が握られていた。
「私の『極大火炎龍』で、彼らを一瞬で灰にして、風に乗せて遠くに飛ばしちゃえば、証拠も残らないわ。善意の焼却処分よ」
「お前が一番エグいこと言ってる自覚を持て!! 放火魔エルフ!!」
ツッコミが追いつかない。
すると今度は、ダイヤがガチャリと『魔導バズーカ』を構え、瞳に¥マークを浮かべていた。
「ルナミス帝国の裏部隊なら、将校の首には高額の懸賞金がかかってるはず……! これで今月の家計が黒字に……『大斬撃』の準備を——」
「お前も借金返済のチャンスみたいに言うな!!」
俺はダイヤのバズーカの砲身を力ずくで上へ逸らした。
三人揃いも揃って、殺意(と善意と欲)が高すぎる。
「お前ら、よく考えろ! あいつらは大国ルナミスの部隊なんだぞ。もしお前らが派手に消し飛ばしたらどうなる?」
俺は家庭科のエプロンを揺らしながら、四人に向かって説教を始めた。
「『ポポロ村が帝国軍を不当に虐殺した』という大義名分を帝国に与えることになる。そうなれば帝国は正規軍を派兵し、それを見たレオンハートとアバロンも黙っちゃいない。結果として、この村を火種にした『世界大戦(三カ国全面戦争)』が勃発するんだぞ!!」
「「「あ……」」」
政治的リスクを全く考慮していなかったポンコツヒロインたちが、口をポカンと開けた。
村の平和を守るための防衛力が、一歩間違えれば世界を滅ぼす引き金になる。これが緩衝地帯の恐ろしさだ。
「それに何より……あいつら、農家が丹精込めて作った芋を泥靴で踏みにじりやがった」
俺の腹の底から、ふつふつと静かな怒りが湧き上がっていた。
「命の次に大事な作物と畑を荒らす奴は、俺が許さない」
俺はリュックのサイドポケットから『水筒』を引き抜き、カシャッ!とチタン合金棒を伸ばした。
そして、過剰防衛しかねないヒロインたちを背中で庇うように、一人で前へと歩み出る。
「だ、大地……?」
「キャルルたちはそこで見てろ。あいつらには、血を一滴も流させず、かつ『ここには手を出してはいけない』と骨の髄まで分からせてやる」
農業高校生にしてオカン。
そして、無双流・護身棒術の継承者である俺の、異世界での初陣が始まろうとしていた。




