EP 9
尊厳破壊のフルコースと裸足の逃走
「ちょっと大地~! お客さんいじめてずるーい! 私達にも遊ばせてよ~!」
バタンッ!と勢いよく客間のドアが開き、ポポロ村が誇る最凶のポンコツヒロインたちがなだれ込んできた。
すでに大地の「インテリヤクザ外交」によって精神の限界を迎えていたドルトンは、ヒィッ!と小さく悲鳴を上げてソファの隅に縮こまった。
「ふふふっ。帝国の役人さん、さっきはずいぶんと威勢が良かったわねぇ?」
最初に動いたのは、村長であり武闘派ヤンデレ月兎族のキャルルだった。
彼女はドルトンの目の前まで歩み寄ると、極上の笑顔を浮かべたまま、ゴキキキッ……と拳の関節を鳴らした。
「あんまりグダグダ言って村に迷惑かけるとぉ……その偉そうな顎、粉々に砕いちゃおっかなぁ~?♡」
「ひぃぃっ!?」
窓の外からは、大工のダイヤや自警団の農民たちが、一斉に魔導ライフルの銃口を客間に向けて「チャキッ」と構える音が響く。
「あ、そうだ! 役人さんのこのビビり散らしたイキリ顔、魔導通信網の『T-TUBE』で全世界に生配信して晒しちゃおっかな~♡」
キャルルは胸元から魔導通信石を取り出し、ドルトンの顔をパシャパシャと撮り始めた。
「や、やめろ! 帝国特使の肖像権を——」
「あーっ! さっそくリスナーさんからタレコミ情報が来てる! えーっと……『このドルトンって役人、奥さんに隠れて浮気してて、帝都の下町に隠し子も作ってますよ』だって! やだー、最低のクズじゃん!」
「なっ!? な、なぜその秘密を……ッ!?」
ドルトンの顔面が、恐怖と羞恥で土気色に染まる。
だが、尊厳破壊のフルコースはまだ前菜に過ぎない。続いて、優雅なエルフのルナが、ふんわりとした笑顔で歩み出た。
「あらあら。植物さんたちのネットワークから、私にもタレコミが来ましたわ♡」
「し、植物のネットワークだと……?」
「ええ。ポポロ村から帝都まで続く、森の木々や草花たちの囁きです。……ねぇ、ドルトン様? 最近、ひどく酔っ払って『おねしょ』をなさいましたわね?」
「…………は?」
「しかも、**大きい方(脱糞)**も同時にやらかして……証拠隠滅のために、泣きながら汚れたシーツを夜の山の中に埋めましたわね? 全部、山の植物さんたちが見てましたのよ?」
「アバァッ!?」
ドルトンは白目を剥いて、口から泡を吹きそうになった。
大の大人の、しかもエリート役人の「ウンコ漏らし」という絶対に知られてはならない究極のプライバシーが、ド田舎のエルフに完全に把握されていたのである。
「まぁまぁ、そんなに震えないでくださいな。大丈夫、このハッピードリーム(催眠幻覚植物)でキメて、幼児から教育をやり直して差し上げますわ♡」
ルナが袖口から取り出したのは、ダラダラとヨダレを垂らすグロテスクな触手植物だった。
『シュルルル……』と這い出た触手が、ドルトンの頬をナデナデと這い回る。
「ヒ、ヒギィッ……! や、やめ……」
「大丈夫? おもらししないおまじないの歌、私が歌ってあげようか?」
完全に心が折れかけているドルトンの前に、最後の一人、守銭奴アイドルのリーザがキラキラとした笑顔でしゃがみ込んだ。
「ねぇねぇ、**『だっぷんだぁおじさん』**する? みんなで踊ろっか!」
「だ、だっぷん……っ!?」
可憐な美少女から放たれた無邪気な「だっぷん」という単語が、ドルトンのプライドを粉々に粉砕した。
武力で脅され、不倫を暴露され、脱糞おねしょをイジられ、アイドルの蔑むような(無自覚な)視線を浴びる。
どんな拷問よりもえげつない、精神の完全解体作業である。
「——っくしょい!」
そこで、ずっと後ろで腕を組んで見ていた大地が、盛大にくしゃみをした。
「おっと、悪い悪い。……じゃあ、今のおもらし情報と隠し子情報、ドンガン地下帝国のメインサーバーの『ブラックメール・リスト』に入力しとくから」
大地は再び、あの『オカンのインテリヤクザスマイル』を浮かべた。
「あんただけじゃない。あんたの上司や、帝国の偉いさんたちの恥ずかしい情報も、草の根ネットワークでいくらでも握ってるんですよ。……どうです? ポポロ村に手を出して、この『パンドラの箱』、開けてみます?」
武力、経済力、そして情報戦(ネット炎上と弱み握り)。
絶対的な敗北を悟ったドルトンの頭の中で、何かが『プツン』と弾ける音がした。
「ひ……」
「ん?」
「ひいいいいいいいいいいっ!! き、貴様らは悪魔だああああああっ!!!」
錯乱したドルトンは、客間の窓を突き破らんばかりの勢いで飛び出した。
革靴を履くことすら忘れ、靴下のまま、涙と鼻水を撒き散らして全速力で逃げ出していく。
「お、おい! ドルトン様!?」
「待ってください! 一体どうなされたのですか!?」
外で待機していた帝国騎士団は、突然狂ったように裸足で逃げ出した上司の姿にパニックを起こし、慌ててその後を追って村から撤退していった。
「あーあ、逃げちゃった。靴、忘れてるよー」
「ふふっ。ハッピードリームの出番がなくて残念ですわ」
ヒロインたちがケラケラと笑う中、大地は残されたドルトンの高級革靴をヒョイと持ち上げた。
「……まぁ、これはタローマンの中古コーナーで売って、村の資金(PG)の足しにするか。よし、皆! 厄介払いも終わったし、ルナキンで宴会にするぞ!」
こうして、大国からの不当な圧力は、ポポロ村の極悪非道な「尊厳破壊外交」によって、物理的・社会的に完膚なきまでに撃退されたのであった。




