EP 7
無害な村人(重武装)と強欲な役人
タローマートの開業、そしてルナキン(ファミレス)の深夜営業により、ポポロ村の経済は爆発的な成長を遂げていた。
周辺国からお忍びでやってくる客足は絶えず、村にはかつてないほどの活気(と欲望)が渦巻いている。
当然、この異常な急発展を、周辺の大国が指を咥えて見ているはずがなかった。
「……ふん。聞いていた通りの田舎村だな。こんな泥臭い場所で、我がルナミス帝国の帝都を凌ぐ売り上げを出している商業施設があるなど、にわかには信じがたいが」
ポポロ村の入り口。
四頭立ての豪華な馬車から降り立ったのは、ルナミス帝国・財務省から派遣された特別査察官のドルトンであった。
彼は金糸の刺繍が施された豪奢なローブを纏い、背後には威圧感を放つ帝国騎士団の一個小隊(約30名)を引き連れている。
「ドルトン様。あの巨大な箱型の建物が、噂の『タローマート』かと」
「なるほど。緩衝地帯であることをいいことに、関税も払わず荒稼ぎしているというわけか。……よし、騎士たちよ! 武器を構えろ! 野蛮な農民どもに、帝国の『法と税』というものを教えてやる!」
ドルトンの号令で、騎士たちがチャキッ!と一斉に剣や槍を構える。
彼らの目的はただ一つ。ポポロ村の村長を武力で脅し上げ、タローマートの利権と、特産品である陽薬草やポポロシガーの専売権を丸ごと帝国に接収することだ。
ドルトンはふんぞり返りながら、広場で農作業の休憩をしている村人たちに向かって、声高らかに宣言した。
「聞け、愚かな農民ども! 私はルナミス帝国・特別査察官のドルトンである! お前たちの村は、我が帝国の経済法に違反している疑いがある! 直ちに村長を呼べ! そして、村の全財産と施設の管理権を我々に明け渡すのだ!」
騎士たちが剣の腹を盾に叩きつけ、ガシャンガシャン!と威嚇の音を鳴らす。
普通の農村であれば、これだけで村人たちは恐怖に震え上がり、土下座をして慈悲を乞う場面である。
しかし——。
「あー……。ちょっとあんたら、そこ退いてくれんかねぇ」
ドルトンたちの前に、麦わら帽子を被った農家のおばちゃん(ミキさん)が、よっこらせと歩み出てきた。
「なんだ貴様は! 帝国に逆らう——」
「いやね、ちょっとそこに立たれると、『照準』の調整が狂うのよ」
ミキおばちゃんはそう言うと、持っていた布で、肩に担いだ『何か』をキュッキュと磨き始めた。
それは、鈍い金属光沢を放つ、全長2メートル近いドワーフ製の最新鋭兵器——『魔導誘導バズーカ』であった。
「……は?」
ドルトンが間の抜けた声を漏らす。
「ミキおばちゃーん! そのバズーカ、魔力コンデンサの接続が甘いわよ! 暴発したらタロウマートの看板が吹っ飛ぶから気をつけて!」
「あらやだ! ダイヤちゃん、ごめんねぇ! 後で締め直しておくわぁ」
ミキおばちゃんに声をかけたのは、油まみれのツナギを着た公爵令嬢ダイヤだった。
彼女は今、村の広場のど真ん中で、巨大な鉄の塊の下に潜り込んで溶接作業をしている最中だった。
「だ、ダイヤ・レオンハート公爵令嬢!? なぜ貴女がこんな辺境の村で、ツナギなど着て……いや、それより、貴女が乗っているその後ろの巨大な鉄の乗り物は一体……」
ドルトンの顔が、徐々に青ざめていく。
ダイヤがスパナでカンカンと叩いているその巨大な鉄の塊——超重魔導戦車『ドンガン・ジャガーノート』の極太の主砲が、ギギギギ……と音を立てて旋回し、ドルトンたち帝国騎士団の真正面にピタリと狙いを定めたからだ。
「え? あぁ、これ? ただの『新型のトラクター』よ。ほら、後ろに畑を耕す鋤がついてるでしょ?」
「嘘をつけぇぇっ!! その口径120ミリはあろうかという魔導砲の砲身はなんだ!! 城門を一撃で粉砕できる威圧感を放っているではないか!!」
ドルトンが悲鳴を上げる中、広場のあちこちから、村の自警団(という名の農民や大工のオヤジたち)が、ドワーフ製の『魔導ライフル』や『魔導地雷』を布でピカピカに磨きながら集まってきた。
「なんだなんだ? 帝国の偉いさんが何の用だ?」
「お、ちょうどいい。この間密輸……じゃなかった、仕入れた『魔導長距離自爆ドローン』のテスト飛行の的にしてもらおうぜ」
「こらこら、お客様に失礼だろ。まずは魔導ガトリングの威嚇射撃からにしろって」
チャカッ、ガシャッ。
一斉に安全装置が外される、冷酷な金属音。
農民たちの放つ歴戦の傭兵のような殺気に、威圧していたはずの帝国騎士団三十名が「ひっ……!」と悲鳴を上げ、後ずさりして剣を取り落とした。
「こ、こ、こ……っ!!」
ドルトンは腰を抜かしそうになりながら、震える指で村人たちを指差した。
「これの、どこが、無害な村人だァァァッ!? 下手な帝国の砦より重武装ではないか!!」
「えぇ〜? ポポロ村は、のどかで平和な、無害な農村ですよぉ〜?」
そこへ、兎耳をピコピコと揺らしながら、村長のキャルルが現れた。
彼女はドルトンの抗議の視線を完全に無視し、明後日の方向を見つめながら「ヒュ〜♪ ヒュルル〜♪」と、信じられないほど下手くそな口笛を吹いてとぼけ始めた。
「とぼけるなァ!! 貴様ら、帝国に反逆する気か! この武力、ただちに本国に報告し、討伐軍を——」
「まぁまぁ。お客様、そんな入り口でいきり立たないでくださいよ」
パチパチパチ、と。
エプロンで手を拭きながら、俺——赤木大地が、笑顔でドルトンの前に歩み出た。
「せっかく遠いところからわざわざ『税金の取り立て』に来てくれたんです。立ち話もなんですから、村長宅の客間で、ゆっくり『お茶』でも飲みながらお話ししましょうや」
俺はニコニコと人の良さそうな笑みを浮かべたまま、ドルトンの肩にポンッと手を置いた。
「——なぁに、お互い『痛い目』を見ないための、建設的な話し合いですよ」
オカンの笑顔の奥に潜む、極寒のヤクザの気配。
ドルトンは蛇に睨まれた蛙のように硬直し、そのままズルズルと村長宅の客間へと連行されていくのだった。




