EP 6
超重武装農村の誕生と、独自通貨『PG』
ドンガン地下帝国との『非課税(密輸)友好条約』締結から数日後。
ポポロ村の朝は、のどかな小鳥のさえずりと——鼓膜を破るような爆発音で幕を開けた。
ドゴォォォォォォォォォンッ!!!
「あー、また西の森から『アーマー・クロウ(Bランク魔獣)』が畑荒らしに来とるねぇ。こらー、シッ、シッ!」
農家のミキおばちゃん(60代)が、麦わら帽子を押さえながら空を見上げている。
彼女の肩に担がれているのは、鍬ではない。ドワーフ直輸入の最新鋭兵器——『魔導誘導バズーカ』である。
プシュゥゥゥ……。
バズーカの砲口から白煙が上がる中、上空でアーマー・クロウが木端微塵に爆散し、黒い羽根がパラパラと降ってきた。
「ちょっと反動がキツいけど、ダイヤちゃんが『おばちゃん専用』にグリップ調整してくれたから、狙いやすいわぁ。これなら腰痛持ちでも害鳥駆除が楽チンねぇ」
「ミキおばちゃーん! 弾薬(魔力カートリッジ)の無駄撃ちはダメだよー! 一発あたりタローソンのおにぎり100個分のコストなんだから!」
エプロン姿の俺が畑の隅から注意すると、おばちゃんは「ごめんねぇ~、次から『魔導ライフル』の方にするわぁ」と笑って手を振った。
その横の陽薬草の畑では、さらに異常な光景が広がっていた。
「オラァッ! そこだ、もっと深く掘り起こせ! 太陽芋の畝は深さが命なんだよ!」
「ガガガガガッ! 了解ッス、ネギオの旦那!」
タバコ農家兼、裏の顔役であるネギオが、荷台の上でふんぞり返りながら指示を出している。
彼が乗っているのは、あのダイヤが設計を最適化したプロトタイプ兵器——**超重魔導戦車『ドンガン・ジャガーノート(農耕仕様)』**だった。
ドワーフの操縦士が「農業実習」と称して出向してきており、戦車の極太のキャタピラが、硬い土を絶妙な圧力で耕していく。
さらに戦車の後部には、ダイヤの魔改造によって『超大型のプラウ(鋤)』が連結されており、一度に10メートル幅の畑を爆速で耕し終えていく。
「いやぁ、すげぇな大地! この戦車のサスペンション、どんな悪路でもコーヒーがこぼれねぇ! しかも主砲の排熱を利用して、畑の土壌殺菌までできちまう!」
「……お前ら、それ大国が喉から手が出るほど欲しがる戦略兵器だからな? 絶対に地上の他の国の連中に見つかるなよ」
俺は額の汗を拭いながら深いため息をついた。
人口1000人ののどかなスローライフ農村は、わずか数日で『大国の正規軍1個師団を正面からすり潰せる』レベルの超重武装国家へと変貌を遂げていた。
しかも恐ろしいことに、村人たちはこの凶悪な兵器群を、純粋に『ちょっと便利な農具』としか思っていないのだ。
「……まぁ、効率が上がったのは事実だけどな。さて、今日の分の納品に行くか」
俺は収穫したての極上野菜と、木箱に詰めたサケスキーを空間収納リュックに放り込み、地下隠田へと続くシェルターの階段を降りた。
***
地下帝国の辺境区画。
ガンドフの研究所には、すでに密輸品の受け渡し用ルートとして、専用のトロッコ軌道が敷かれていた。
「おお! 大地よ、待っておったぞ! 今日のサケスキーの出来はどうじゃ!?」
「最高品質だ。発酵温度を0.5度下げて、より香りを立たせたからな。はい、これ納品書」
「ふおおおお! 素晴らしい! よし、代金のミスリルインゴットと、最新型の『魔導地雷(害獣駆除用)』じゃ!」
ガンドフがドンッ!とテーブルに積んだのは、眩い光を放つミスリルの山だった。
本来なら喜ぶべき光景だが、オカンたる俺の表情は暗かった。
「……なぁ、ガンドフさん。密輸が軌道に乗ったのはいいんだが、一つ深刻な問題がある」
「む? なんじゃ、金額が不満か?」
「いや、逆だ。現物の量が多すぎるんだよ。」
俺はミスリルの山を指差した。
「こんな大量の貴金属や武器、ポポロ村の金庫(タローマートの裏のプレハブ)じゃもう保管しきれない。それに、地上でこれだけのミスリルを換金して回せば、絶対に三国の経済局に『ポポロ村の資金の流れがおかしい』と怪しまれて、査察が入るぞ」
「むぅ……確かに。国家予算レベルの金塊を地上で隠し持つのはリスクが高すぎるのう」
ガンドフも腕を組んで唸る。
そこで俺は、前世(地球)の経済知識と、ある『悪知恵』を働かせた。
「そこで提案だ。これからは、いちいち現物で決済するのをやめないか?」
「現物決済をやめる? じゃあどうやって取引するんじゃ?」
「『数字』だけで取引するんだよ。」
俺は一枚の羊皮紙を取り出し、そこに『PG』という文字を書いた。
「ドンガンとポポロ村の間に、共同で管理する『地下メインサーバー(魔導計算機)』を置く。そこで、お互いの取引額を『PG』っていう仮想の単位で記録していくんだ。例えば、サケスキー1本は10PG、魔導ライフル1丁は50PG、みたいにな」
「か、仮想の単位……?」
「そうだ。PGの裏付けは、ドンガンが持つ地下の金塊と、ポポロ村が持つ極上物資だ。いちいち現物を動かさなくても、帳簿上の数字(PG)を書き換えるだけで決済が完了する。これなら保管場所もいらないし、地上の国に資金の流れを監視されることも絶対にない」
俺が現代の『暗号通貨(電子マネー)』の基礎概念を説明すると、ガンドフの片眼鏡がピシィッ!と音を立ててひび割れた。
「な、なんという……! 物理的な質量を伴わない、情報だけの経済圏……! お主、錬金術の極致か!!」
「いや、ただのポイントカードの延長みたいなもんだよ。どうだ? システム構築はドワーフの魔導技術でいけるか?」
「カッカッカ! ワシを誰だと思っておる! 暗号化処理を施した魔導端末くらい、三日で作ってやるわい!」
ガンドフは狂喜乱舞し、即座に設計図を引き始めた。
かくして、ポポロ村とドンガン地下帝国の間だけで通用する独自通貨、『PG』が爆誕した。
この時、俺はただ「かさばる現物を管理するのが面倒くさい(そして他国にバレたくない)」というオカン的発想で提案しただけだった。
しかし、大国の法定通貨に一切依存しないこの『完全独立した経済圏の確立』こそが——後日、視察にやってくる強欲な役人たちを地獄の底へと突き落とす、最強の「武器」となるのである。




