EP 17
ポテト少なめの祝宴と、オカンの説教
「……マジで、釣ってきよった……」
翌朝、ルナミス帝国の港。
ルナミス金融の豚島くんは、巨大なクレーンで絶望丸から水揚げされる『伝説のマグローザ』の極上のブロック肉を見上げて、丸メガネをずり落としていた。
「どうだ豚島さん。鮮度も血抜きも完璧だ。金貨5000枚の価値はあるって、船の班長もお墨付きだぞ」
「お、おう……。間違いのう、最高級品や。……金貨3000枚の借金、たしかにチャラにしたる」
豚島は震える手で借用書に『完済』のハンコを押し、ビリビリと破り捨てた。
さらに、マグローザの売却益の余りである金貨2000枚が俺たちに手渡された。
「よし。これで村の積立金も、ルナの純金(世界樹のヘソクリ)の損失分も、なんとか元通りに補填できるな」
「あぁぁっ……よかったぁぁぁっ……!」
「私たち、マグロ漁船に乗らずに済んだのねぇ……ッ!」
港のコンクリートの上で、四人のヒロインたちが抱き合ってボロボロと嬉し泣きをしている。
だが、村の財政は元通りになったとはいえ、彼女たちがパチンコと地下チンチロリンで溶かした『個人の全財産(お小遣い)』は戻ってこない。
現在の彼女たちの所持金は、正真正銘の『ゼロ』である。
***
数時間後。ポポロ村へと帰還した俺たちは、昨日と同じファミレス『ルナキン』のボックス席に座っていた。
昨日とは打って変わって、四人の顔には憑き物が落ちたような、清々しい疲労感と安堵が浮かんでいる。
「お待たせいたしましたー。フライドポテト(少なめ)と、ドリンクバーのご利用人数様分です」
ウェイトレスがテーブルの中央にコトッ……と置いたのは、小さな皿に盛られた十数本の細長いフライドポテトだった。
「わぁ……っ! ポテトだ! ホカホカのポテトだわぁ……っ!」
「黄金色に輝いて……まるで金塊みたいですぅ……ジュルリ」
昨日、メガ盛りステーキを前にして「死にたい」と絶望していた四人が、たった一皿の『ポテト(少なめ)』を囲んで、まるで神の恵みを見るかのように目をキラキラと輝かせている。
「ほら、食え。俺のポケットから出てきた最後の銅貨三枚で頼める、唯一のメニューだ」
「ありがとう、大地……っ!」
キャルルが震える手でポテトを一本つまみ、口に運ぶ。
「……サクッ。……ッ!! 美味しいぃぃぃっ! 塩加減が絶妙で、お芋の甘みが口いっぱいに広がって……生きててよかったぁぁっ!」
「ふふふ、私のドリンクバー特製『メロンソーダ・カルピス・烏龍茶ブレンド』と一緒に流し込むと、さらに最高よ!」
リーザがタダ活の極致であるドリンクバーの魔改造ドリンクを飲みながら、幸せそうにポテトを齧る。
「……ポテト一本の原価……そしてこの幸福感の費用対効果……。FXのレバレッジなんかより、ずっと心が豊かになるわ……」
「ダイヤさん、最後のポテトの一本は、私の念動力でピッタリ四等分に切り分けますわね♡」
もはや一切のプライドを捨て去り、一本のポテトを分け合って涙ぐむ、次期女王と公爵令嬢と村長とトップアイドル。
その姿はあまりにも惨め(ポンコツ)だったが……同時に、どこかほっこりする家族の食卓のようでもあった。
俺は自分のグラスに注いだブラックコーヒーをすすりながら、四人の顔を順番に見渡した。
「……お前ら」
俺の低く静かな声に、四人がピクッと肩を揺らし、ポテトを持ったまま居住まいを正した。
「パチンコで脳を焼かれ、FXで村の金を溶かし、他人に連帯保証人をなすりつけようとして、最後は地下チンチロで身ぐるみ剥がされた。……この二日間で、お前らがどれだけ愚かなことをしたか、身に沁みて分かったか?」
俺のオカンとしてのガチの説教に、四人はシュンとウサギ耳やエルフ耳を垂れ下げ、深く反省したようにコクリと頷いた。
「はい……。もう二度と、ギャンブルで楽して稼ごうなんて思いません……」
「労働の対価として得るお金こそが、一番尊いって分かりましたわ……」
「……分かればいい」
俺はため息をつき、空になったポテトの皿を横にどけた。
「帰ったら、まずは畑の草むしりだ。放置したせいで太陽芋の畝が荒れてるからな。それが終わったら、夕飯は俺の特製『マグローザの大トロのヅケ丼』にしてやる」
「「「大トロのヅケ丼ッ!!」」」
四人の顔が、パァァァッ!!と今日一番の輝きを見せた。
「ただし! 労働のノルマを終えるまでは、お預けだからな! 食いたきゃ死ぬ気で畑を耕してこい!」
「ラジャァァァァッ!! 時給(大トロ)のために、マッハで草をむしってくるわ!!」
「マグローザ! マグローザですぅぅっ!」
弾かれたようにファミレスを飛び出していく四人の背中を見送りながら、俺はやれやれと首を振って伝票を手にした。
借金地獄とマグロ漁船という、異世界スローライフらしからぬ怒涛の数日間。
だが、どんなトラブルに巻き込まれようとも、俺たちの帰る場所はあの『ポポロ村の畑』と『シェアハウスの食卓』なのだ。
農業高校生にして、最強のオカン。
赤木大地と四人のポンコツヒロインたちの、カオスで騒がしい日常は、まだまだ終わらない。
「……さて。タロウマートで醤油とワサビを買って帰るか」
俺は一人静かに微笑みながら、ルナキンのドアを開け、青空の広がるポポロ村の街道へと歩き出した。




