【第三章 地下帝国のマッドサイエンティストと、ポポロ村の絶対防衛線】
地下隠田の開拓と、掘りすぎたオカン
「よし、ダイヤ! もう少し深く掘り進めるぞ! 肉椎茸の菌床を並べるには、あともう少しだけ地下の湿度とスペースが必要だ!」
「任せて大地! 私の『ウェポンズマスター』の前に、砕けぬ岩盤など存在しないわ! バーニング・削岩・ブレイクゥゥッ!!」
ズガガガガガガガガッッッ!!!
ポポロ村の地下深く。有事の際の避難用シェルター兼、秘密のキノコ栽培所である『隠田』の最奥部。
土煙と凄まじい騒音が立ち込める中、俺と公爵令嬢ダイヤは、ヘルメットにヘッドライト、首にはタオルという完全なる『ガテン系スタイル』で、地下空間の拡張工事に勤しんでいた。
ダイヤが両手に構えているのは、タローマンで仕入れた魔導バッテリー駆動の『大型電動削岩機(はつり機)』だ。
あらゆる武器を最適解で使いこなす彼女のチートスキルは、工事現場の重機にも完全に適応していた。炎の闘気を纏った削岩機が、マッハの速度で分厚い岩盤を豆腐のように削り取っていく。
「いいぞダイヤ! その調子だ! 削った土砂は俺が掻き出す!」
俺はエプロンのポケットから銀貨を取り出し、『召喚』を発動。
ズスゥゥン!と現れたのは、地球のトンネル工事などでお馴染みの『ホイールローダー(中型)』だ。
「フッ……パチンコ屋の建築で培った俺の腕を見せてやる。いくぞ!」
運転席に飛び乗った俺の脳内で、『車両系建設機械(整地・運搬・積込み用及び掘削用)』の国家資格が火を噴く。
ガオォォォンッ!とエンジンを唸らせ、ダイヤが砕いた大量の岩と土砂を、巨大なバケットでミリ単位の精密さで掬い上げ、ダンプへと流し込んでいく。
「ふぅ……最高ね、大地! 土と汗に塗れて働くこの充実感……! FXのチャートを眺めてるだけの不健全な生活とは大違いだわ!」
「当たり前だ! 労働の汗の結晶こそが、一番確実な富を生むんだよ! この地下隠田を広げて肉椎茸を大量栽培できれば、村の財政はさらに盤石になる!」
俺たちオカンと大工令嬢のコンビネーションは完璧だった。
しかし、調子に乗ってガンガン掘り進めていた、その時である。
ガキィィィィンッ!!!
「きゃっ!?」
突如、ダイヤの削岩機が凄まじい火花を散らし、強烈な反動で彼女が後ろに吹き飛ばされた。
「ダイヤ!? 大丈夫か!」
「い、痛たた……。なんなの、この岩!? 私の闘気を込めた削岩機のドリルが、根元からへし折れたわよ!?」
俺がホイールローダーを降りて確認すると、土壁の奥から、黒光りする異常に硬い『岩盤』が露出していた。
いや、ただの岩盤じゃない。金属のような光沢があり、魔力を含んで微かに脈打っているようにも見える。
「……ミスリル鉱石の原盤か? いや、それにしては硬すぎるな。それにこの奥、空洞になってるような音がするぞ」
俺がチタン合金棒でコンコンと叩くと、確かに硬い岩の向こう側に、広大な空間が広がっている反響音がした。
「大地、どうする? これ以上は掘れないわよ? ルートを変える?」
「……いや。この岩盤を迂回すると、湿度のバランスが崩れて肉椎茸の生育に悪影響が出る」
俺は、オカンとしての(あるいはキノコ農家としての)絶対に譲れないプロ意識を燃やし、ニヤリと笑ってエプロンの紐をキュッと締め直した。
「『地山の掘削及び土止め支保工作業主任者』の資格を持つ俺を舐めるなよ。硬い岩盤なら、点で貫けばいい!」
俺は再び銀貨を消費し、新たな建設機械を召喚した。
それは、先端に巨大なドリルを備えたトンネル掘削の主役、『クローラー・ドリル』である。
「いくぞダイヤ! 俺の資格と、お前の闘気の合わせ技だ! ドリルに魔力を注ぎ込め!」
「了解よ! 魔力出力、限界突破!!」
俺が操縦桿を握り、ダイヤがドリルの基部に直接手を当てて炎の闘気をブチ込む。
地球の重機と異世界のチート魔法の悪魔合体。
ドリルは赤熱し、けたたましい轟音と共に、黒光りする謎の岩盤へと突き刺さった。
ギュィィィィィィィンッッッ!!!
「いけえええええええっ!! 美味しい肉椎茸のためにィィッ!!」
「砕け散れええええええっ!!」
バキィィィィィンッ!!!!!
凄まじい衝撃音と共に、ついに絶対不可侵と思われた岩盤が崩壊した。
大量の土煙と瓦礫が奥の空間へと雪崩れ込み、俺たちの目の前に、車一台が通れるほどの巨大な『風穴』がポッカリと開いた。
「ふぅ……やったぞ! 貫通だ!」
「大成功ね、大地! ……って、え?」
歓喜のハイタッチを交わそうとした俺たちは、土煙が晴れた穴の向こう側の光景を見て、ピタリと動きを止めた。
「…………なんだ、ここ?」
岩盤の向こう側に広がっていたのは、自然の洞窟などではなかった。
冷たく光る鋼鉄の床。
規則正しく並んだ、青白く発光する魔導ランプ。
そして、無骨なパイプや歯車が複雑に絡み合った、まるでスチームパンクの世界から抜け出してきたような『超巨大な地下施設』が、どこまでも果てしなく続いていたのだ。
「これ……まさか……」
俺が嫌な予感に冷や汗を流した、その時。
『ピーッ! ピーッ! ピーッ! 【警告:第7区画・外周防壁に物理的な破壊活動を検知。侵入者あり】』
無機質な機械音声のアラートが鳴り響き、通路の奥から、ズシン、ズシンと重い金属の足音が近づいてきた。
「なんじゃあ!? ワシの神聖なる実験場に風穴を開ける大馬鹿者は!!」
土煙の中から姿を現したのは、身の丈をゆうに超えるゴツい『魔導パワードスーツ』を着込んだ、白い髭を腹まで伸ばした小柄なドワーフの老人だった。
「……終わった。ダイヤ、俺たち、他国の防壁を無断でブチ抜いたっぽいぞ」
「て、撤収!? 急いでコンクリで穴を塞ぐ!?」
農業の情熱(と重機の過剰なパワー)が招いた大事故。
俺たちの目の前に広がるこの鋼鉄の空間こそが、マンルシア大陸の地下に広がる謎多き武装国家——『ドワーフの地下帝国ドンガン』の辺境区画だったのである。




