EP 3
魔境シェアハウスの惨状と、農業スキル無双
「村長宅へようこそ!」
キャルルが案内してくれたのは、ポポロ村の中心にある立派な一軒家だった。
だが、その広々とした前庭には不自然なボロテントが張られ、そこからモクモクと黒煙が上がっていた。
ドガァァァン!
「ゲホッ、ゴホッ……! くっ、やっぱり安物の火薬じゃ魔導弾の調合は不安定か……それに、三日何も食べてなくて手元が狂った……」
黒煙の中から現れたのは、紅蓮色の重装甲を着込んだ、スレンダーな美女だった。顔は煤だらけだが、隠しきれない気品がある。
手には工具と、黒焦げになった魔導弾の薬莢が握られていた。
「あーあ。またダイヤが爆発させてる」
「ひもじい……肉まん……熱々のコーンスープが飲みたい……」
キャルルが呆れたように言う横で、ダイヤと呼ばれた令嬢がフラフラと地面に倒れ込んだ。
庭で飢え死にしかけている完全武装の令嬢。情報量が多すぎる。
「……とりあえず、家の中で何か作るから、あんたも入りな」
俺がため息をつきながら玄関の扉を開けた、その瞬間。
バサァァァッ!
「えっ」
視界を埋め尽くしたのは、鬱蒼と茂る『ジャングル』だった。
家の中だというのに、極彩色の不気味な果実を実らせた巨大なツル植物が壁や天井を這い回り、床板をメキメキと押し上げている。家屋の倒壊は時間の問題だ。
「おかえりなさい、キャルルちゃん、リーザちゃん!」
ツルのブランコに乗って現れたのは、長い耳を持った神秘的なほど美しい金髪のエルフの少女だった。
「ルナ!? また家の中で植物出したの!?」
「うん! 村の子供たちが『甘いものが食べたい』って言ってたから、善意で魔界のフルーツをいっぱい生成しておいたの! みんな喜ぶわ!」
ニコニコと笑うエルフのルナ。完全に悪気ゼロの『歩く自然災害』だ。
「ああもう、これだからエルフの魔法は……!」
「待て」
俺はキャルルを制止し、エプロンのポケットに手を入れた。
「密集させすぎだ。日照条件も風通しも最悪。これじゃ果実の糖度も上がらないし、何より根腐れを起こす」
ポケットから取り出したのは、使い慣れた『剪定バサミ』。
俺が持っている国家資格『日本農業技術検定(3級)』の知識と、じいちゃんから叩き込まれた間合いの感覚が研ぎ澄まされる。
俺はジャングルへと踏み込んだ。
チョキッ、パチンッ、ザクッ!
無駄な枝葉を躊躇なく切り落とし、ツルの軌道を誘導し、果実の栄養を集中させるべきポイントを即座に見極める。
「えっ!? あ、私の出した植物があっという間に……!」
ものの三分。
家を破壊しかけていた暴走ジャングルは、見事な和風の『巨大盆栽』のような、機能的かつ美しい屋内果樹園へと変貌を遂げていた。
「す、すごい……自然魔法の専門家でもこんなに綺麗に整えられないわ……!」
ルナが目を丸くして感嘆の声を上げる。
「日本の農業を舐めるな。で、キッチンはどこだ?」
風通しの良くなった台所へ向かい、俺は再びエプロンに手を突っ込んだ。
***
十数分後。
「「「いただきます!!」」」
食卓には、俺が錬成した『究極の粗挽きハンバーグ定食』と、ダイヤのために特別に添えた『熱々のコーンスープ(インスタント粉末ベースの特製アレンジ)』が並んでいた。
「はふっ……! こ、これは……ナイフを入れた瞬間、お肉の肉汁が爆発を……! 実家(公爵家)のフルコースより美味しい……っ! それにこのコーンスープ、五臓六腑に染み渡る……!」
煤だらけのダイヤが、ボロボロと涙をこぼしながらハンバーグを口に運んでいる。
「大豆のお肉で作ってくれたハンバーグ、とっても優しい味がするわぁ……」
ルナもニコニコとオーガニック仕様の和風おろしハンバーグ(俺が作り分けた)を味わっている。
キャルルとリーザも、当然のように二杯目の大盛りご飯をおかわりしていた。
「美味しいか?」
俺が尋ねると、四人のポンコツ美女たちは口の周りにデミグラスソースをつけながら、一斉に勢いよく頷いた。
「よし。なら俺がこの家にいる間、財布と冷蔵庫の管理は俺がする。掃除、洗濯、庭の手入れも当番制だ。文句ある奴は今日の夕飯抜きな」
「「「はいっ!!(絶対服従)」」」
こうして、三国が恐れる緩衝地帯・ポポロ村の村長宅において、チタン棒とエプロンを身につけた高校生による『絶対的オカン政権』が爆誕したのである。




