EP 9
景品『魔導ファミコン』と、破滅の遊戯
「……すいませんでした。うちの同居人が、物理法則を無視したとんでもないご迷惑をおかけしまして……」
「次やったら出禁だからな! 全く、エルフのねーちゃんが念動力で玉を操るなんて前代未聞だぜ……」
ルナミスパーラーのバックヤード前。
俺はエプロン姿のまま、黒服の店長相手に九十度の土下座スレスレの平謝りをかまし、なんとか次期女王ルナを解放してもらった。
「ぐすっ……大地さん、ごめんなさい……。私、ただスルーチャッカーに玉が入らない台が可哀想で、善意でアシストしただけで……」
「パチンコ屋で善意を発揮するな。それは立派な犯罪(ゴト行為)だ」
俺がルナを説教していると、シマの奥からフラフラと、真っ白な灰になったジョー(※公爵令嬢ダイヤ)が歩いてきた。
「……負けた。全財産、溶かした……。私の……私のキュイイインが……」
「ダイヤ! しっかりしろ! だからギャンブルなんて胴元が勝つようにできてるんだとあれほど……!」
「あーっはっはっは!!」
ダイヤの絶望を打ち消すように、景品交換カウンターの方から高笑いが響いた。
村長のキャルルだ。彼女の後ろには、ビギナーズラックで出しに打出した銀玉の入ったドル箱が、ピラミッドのように積み上げられている。
「見た!? 私の圧倒的なヒキ強! やっぱり私には雷神の加護がついてるのよ!」
ドヤ顔でウサギ耳を反り返らせるキャルル。
その横で、両手にガムテープを巻いたリーザが「おこぼれ……おこぼれを……」とゾンビのように群がろうとしているのを、俺はチタン棒で軽く小突いて制止した。
「キャルルちゃん、すごいですわ! あ、見てください! 景品コーナーに凄いものがあります!」
ルナが、カウンターのガラスケースの奥を指差した。
そこには、神々しいオーラを放つ赤と白のツートンカラーの魔導機器が鎮座していた。
「な、何あれ……?」
「村長はん、お目が高い! あれはルナミス帝国でも限られた貴族しか手に入れられないという伝説の遊戯機……『魔導ファミコン』でっせ!」
店員が揉み手で解説する。
魔導ファミコン。テレビ(魔導水晶モニター)に繋ぐことで、仮想空間で様々な冒険や疑似体験ができるという、超高級娯楽アイテムだ。
「本当!? 私、王宮にいた頃からずっと魔導ファミコンやってみたかったのよ! おじさん、私のこの玉全部でそれと交換して!!」
「まいどありぃぃっ!!」
キャルルは、一日で稼いだ大量の銀玉を、あっさりと魔導ファミコン本体と交換してしまった。
「わぁ……! ついに念願のファミコンをゲットしたわ!」
「やったー! 今夜は徹夜でゲーム大会ね!」
キャルルとルナがキャッキャと喜んでいる。
全財産をスったダイヤも「ゲーム……ゲームならタダで遊べるわね……」と虚ろな目で寄ってきた。
「ちょっと待ってキャルルちゃん。本体はいいけど、ソフトは何をもらったの? ソフトがないと遊べないわよ?」
リーザが、ファミコン本体とセットになっていた黒いパッケージの箱を手に取った。
そこには、赤々とした禍々しいフォントで、謎の文字列が刻まれている。
「んー? えっとね……『エフエックスドレイセンシ』? って書いてあるわね。よく分からないけど、きっと剣と魔法の面白い作品ですわ♡」
ルナが首を傾げながら、善意100%の笑顔でパッケージのタイトルを読み上げた。
「……え?」
その文字列を聞いた瞬間、俺の背筋に、死蟲王機と対峙した時以上の『悪寒』が走った。
「エフ……エックス……奴隷戦士……?」
俺の脳裏に、前世(地球)のインターネットで散々見てきた、恐ろしいネットミームの数々がフラッシュバックした。
画面に張り付き、赤い線と青い線の上下に一喜一憂し、わずか数分で数百万を溶かして首を吊る者たちの阿鼻叫喚。
『ロスカット』『追証』『電車が止まる日』——。
「お、おい待てお前ら!! そのソフトはダメだ! それはただのゲームじゃない、人間の欲望を食い物にする最悪の——」
「早く帰りましょう大地! テレビに繋いであのソフトをプレイするのが楽しみだわ!」
「早く帰ってピコピコするんですのーっ!」
俺の制止も虚しく、完全にゲームに心を奪われたヒロインたちは、魔導ファミコンを抱えて意気揚々とシェアハウスへと帰っていってしまった。
「ま、まさかな……。いくらなんでも、異世界にそんな恐ろしい『金融商品』があるわけが……」
俺は額に嫌な汗を浮かべながら、夕陽に照らされたルナミスパーラーのネオン看板を見上げた。
だが、俺のその甘い希望は、今夜、容赦なく打ち砕かれることになる。
ポポロ村のヒロインたちが、本当の『絶望のどん底(借金地獄)』へと叩き落とされる、魔の夜が始まろうとしていた。




