表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トイレの扉を開けたら異世界でした。ハズレ(?)スキル【家庭科】とチタン棒で、大陸最恐のポンコツ美女4人のオカンになります!?  作者: 月神世一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
14/42

EP 14

決着!奥義『無名・昇龍』

ズズンッ! ズズズズズンッ!!

体長十メートルにも及ぶ『中型・死蟲王機』の突進は、まるでブレーキの壊れたダンプカーだった。

赤黒い装甲が月明かりを反射し、大顎から滴る強酸の粘液が、地面をジュウジュウと溶かしながら迫ってくる。

「だ、大地ッ!!」

キャルルがマッハの速度で飛び出そうとするが、間に合わない。

ボスの狙いは、群れを壊滅に追いやった『司令塔』たる俺ただ一人。その奇襲はあまりに唐突で、殺意のベクトルが完全に俺へと固定されていた。

逃げれば、背後にある村長宅が消し飛ぶ。

躱せば、後ろにいるヒロインたちが巻き込まれる。

(……なら、真っ向から叩き潰すしかねぇな)

俺の意識が、極限まで研ぎ澄まされ、周囲の音がフッと消え去った。

『大地。棒は刃を持たん。だが、大地と天を繋ぐ柱となることはできる』

脳裏に、今は亡き祖父ちゃんの声が響く。

『自らの命を捨ててでも、守らねばならんものができた時。その時初めて、お前の棒は天に昇る龍となる』

俺はチタン合金棒を握る両手にギリッと力を込め、膝を極限まで曲げた。

地を這うような、異常なまでの低い構え。全身の筋肉、骨格、腱。その全てを、限界まで圧縮した一本の『バネ』へと変える。

「ギチィィィィィィッ!!」

ボスの巨大な大顎が、俺の頭上から、まるでギロチンのように振り下ろされた。

巨大な影が俺を完全に呑み込み、死の匂いが鼻先を掠める。

その、刹那。

「——無双流・護身棒術 奥義」

限界まで圧縮された俺のバネが、解放された。

大地の反発力、腰の捻り、背筋の伸び。全身から生み出された全ての運動エネルギーを、チタン合金棒の切っ先『一点』へと集中させる。

「『無名・昇龍むめい・しょうりゅう』!!」

地を這う構えから、一気に垂直への突き上げ(アッパー・スラスト)。

放たれたチタン棒が、迫り来るボスの大顎の下——装甲の継ぎ目である一点の死角へと、寸分の狂いもなく激突した。

ドゴォォォォォォォォンッ!!!

大気が、爆発した。

魔法でも闘気でもない。純粋な物理エネルギーと、俺の『絶対に守り抜く』という極限の気迫プレッシャーが、空間に物理的な衝撃波を生み出したのだ。

「ギ、ギ……ギャアァァァァァァッ!?」

ボスの巨体が、空中でビタッと停止した。

いや、その複眼に映っていたのは、下から突き上げてくる一本のチタン棒ではない。

——大地を割って現れた、眼前の巨虫すら丸呑みにするほどの『巨大な龍のあぎと』。

俺の気迫が生み出したその圧倒的な幻影(死の恐怖)に、機械であるはずの死蟲王機が、本能的な恐怖に竦み上がったのだ。

バキィィィィンッ!!

チタン棒から伝わる凄まじい衝撃力が、ボスの強固な大顎を根元から粉砕し、赤黒い装甲に巨大な亀裂を走らせた。

「吹き飛べェェェッ!!」

俺が最後の一押しを込めると、十メートル・数十トンはあるはずのボスの巨体が、まるでピンポン玉のように夜空高くへと打ち上げられた。

ズゥゥゥゥンッ……!!

空中で完全に機能停止したボス蟲は、広場の端へと墜落し、大量の土煙を上げて二度と動かなくなった。

***

「——ははっ。はははははははっ!!」

遠く離れた天魔窟の最深部。

魔人ギアンは、空中に展開していた魔法陣のモニターが、凄まじい気迫の余波でヒビ割れるのを見て、狂ったように笑い声を上げた。

「素晴らしい……! なんて素晴らしいんだ! 魔法も闘気も持たないただの人間が、己の意志と技だけで龍を生み出した! あの少年……赤木大地と言ったか。あんな極上の魂、見たことがない……!」

ギアンは震える手で仮面を抑え、恍惚とした表情を浮かべた。

「今は引こう。あんな美味そうな果実、青いうちに摘むのは勿体ない。……せいぜい、ポポロ村の英雄として肥え太るがいい。いずれ絶望の淵に突き落とし、その魂をサルバロス様に捧げてやるからね……ふふっ、あははははっ!」

闇の中に、魔人の歓喜の声が溶けていった。

***

「……ふぅ」

土煙が晴れる中、俺はチタン合金棒をカシャッと縮めて水筒の姿に戻した。

手がビリビリと痺れ、息が少し上がっている。

さすがに奥義を使うと、体力の消耗が激しい。だが、村への被害は最小限に抑えられたはずだ。

「おい、お前ら。怪我はないか?」

俺は振り返り、呆然と立ち尽くしている四人のヒロインたちに声をかけた。

「…………」

「…………」

キャルル、ダイヤ、ルナ、リーザ。

四人は、言葉を発することなく、ただじっと俺を見つめていた。

月明かりに照らされた俺の背中。いつもエプロンをつけて、小言ばかり言っている『オカン』の背中ではない。

強大な絶望の前に一人で立ち塞がり、一歩も引かずにそれを打ち砕いた、無双の武人の背中。

「あ、の……大地……っ」

キャルルの兎耳がペタンと伏せられ、顔が林檎のように真っ赤に染まっていた。

ダイヤは両手で顔を覆いながらも、指の隙間から熱っぽい視線を送ってくる。

ルナは両手を胸の前で組み、祈るような乙女の瞳になり、リーザに至っては腰を抜かしたまま、ポォッと頬を染めて俺を見上げている。

(……なんだ? なんで全員、顔を赤くして固まってるんだ?)

農業高校生の俺には、乙女心という名の『フラグ』の重さは全く分かっていなかった。

「あー……怖い思いさせたな。とりあえず、片付けは明日にして、今日はもう寝るぞ」

俺がそう言って手を差し出すと、四人はビクゥッ!と肩を揺らし、

「「「は、はいぃぃぃぃっ♡♡♡」」」

先ほどまでの威勢はどこへやら、最高潮の黄色い悲鳴を上げて、俺の元へとすっ飛んできたのだった。

村の危機は去った。だが、俺の貞操の危機は、ここから本格的に幕を開けることになるのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ