表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トイレの扉を開けたら異世界でした。ハズレ(?)スキル【家庭科】とチタン棒で、大陸最恐のポンコツ美女4人のオカンになります!?  作者: 月神世一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
11/42

EP 11

襲来する絶望、封じられた暴力

ギチ、ギギギ、ガシャァン……!!

村の静寂を切り裂いて響く、おぞましい駆動音。それは金属と甲殻が擦れ合い、命なき機械が這い回る、死の行進曲だった。

「キャルル……あれ……!」

村長宅のベランダに飛び出したルナが、震える指で村の入り口を指差した。

月明かりに照らされた村の街道を、黒光りする巨大な影が、地響きを立てて蹂躙していた。

「……嘘でしょ? 『死甲虫しこうちゅう型』……? なんで、古代の遺物がこんなところに……っ!」

キャルルの顔が、かつてない恐怖に引き攣った。

死蟲軍における絶対的な蹂躙兵器。戦車ほどの巨体に、魔法を弾き、物理攻撃を跳ね返す、黒ダイヤ並みの硬度を持つ複合装甲で覆われた、生ける城塞。それが一匹や二匹ではない。十匹以上の群れが、村の家々をその巨大なあぎとで噛み砕き、蹂躙しながら迫ってきているのだ。

「みんな、下がってて! 極大火炎龍インフェルノ・ドラゴンで——」

「ダメよルナ! そんな広域魔法を使ったら、村ごと吹き飛んじゃうわ!」

キャルルがルナの杖を制した。

「私が……私が、あいつらの装甲をブチ抜いてやるわ! バーニング・オーラ・ブレイク!!」

ダイヤが『天魔竜聖剣』を引き抜き、凄まじい炎の闘気を纏わせ、先頭の死甲虫へと肉薄した。

紅蓮の炎をまとった大斬撃が、死甲虫の頭部へと振り下ろされる。

ドガァァァンッ!!

爆辞と共に、炎が渦巻いた。手応えはあった。ダイヤの渾身の一撃だ。

だが——。

「……な、っ!?」

炎が晴れた後、そこには、一筋の傷すらついていない、無傷の死甲虫が鎮座していた。

ダイヤの『バーニング・オーラ・ブレイク』の熱量と衝撃を、その黒光りする装甲は、何事もなかったかのように完全に無効化オーバーライドしていたのだ。

「ブモォォォォォッ!!」

死甲虫が不気味な咆哮を上げ、巨大な角を振り上げた。

「ダイヤ、危ないッ!」

キャルルがマッハの速度で割り込み、ダブルトンファーで死甲虫の角を受け止めた。

バキィィィンッ!!

金属音が響き渡り、キャルルの体が数十メートルも弾き飛ばされた。

特注の靴で地面を削りながら、なんとか踏みとどまる。

「くっ……! 硬ぇ……! 公爵家の家宝の剣が、一ミリも通じないなんて……っ!」

「……ええ。物理攻撃も、ダイヤの炎魔法も、完全に弾かれたわ。あいつらの装甲は……私たちの『暴力ちから』を、根本から否定する存在だわ」

キャルルのトンファーを持つ手が、微かに震えていた。

彼女たちの実力は、Sランク級。本気を出せば、あんな虫けら、一瞬で更地にできる。

だが、ここはポポロ村だ。大地に諭された『世界大戦のフラグ』。彼女たちが大技を使えば、死甲虫を倒せるかもしれないが、その衝撃で村は地図から消え、周辺各国を巻き込んだ全面戦争の引き金になる。

『お前ら……それやったら世界大戦になるだろ!!』

大地の叫びが、キャルルの脳裏をよぎる。

強すぎる暴力が、ここでは最大の弱点ハンデとなっていた。

村を守るためには、本気を出してはいけない。だが、本気を出さなければ、村は蹂躙される。

「ひぅっ……! こ、こわいよぉ……! キャルルちゃぁん……っ!」

リーザが恐怖に顔を歪ませ、キャルルの背中にしがみついて泣き叫んだ。人魚のバフも、恐怖の前には無力だった。

「……クソッ!!」

キャルルは唇を噛み切り、血を滲ませながら、再び死甲虫の群れへと突っ込んでいった。

本気を出せないまま、ただ相手の攻撃を弾き、村人への被害を食い止めるだけの、絶望的な防衛戦。

家々が破壊され、村人の悲鳴が響き渡る。

第一章の平穏が、今、無慈悲な『死』の前に、音を立てて崩れ去ろうとしていた。

その惨状を、村長宅の寝室から、一人の少年が静かに見つめていた。

「……何が、起きてるんだ?」

赤木大地。

異変に気づいて起き、ベランダから外の様子を目にした彼は、エプロンをつけたまま立ち尽くした。

黒光りする巨大な蟲。逃げ惑う村人。防戦一方のキャルルたち。

そして——。

「……おじいちゃん!!」

大地の目が、広場で死甲虫の角に追い詰められた、一人の老人に釘付けになった。

ポポロ村の前の村長。大地を温かく迎え入れ、村の未来を託してくれた、心優しい老人。

「ヒィィッ……! だ、誰か……助けて……っ!」

老人の頭上に、死甲虫の巨大な角が振り下ろされようとしていた。

キャルルは遠く、ダイヤは他の死甲虫を防ぐのに手一杯。誰も、間に合わない。

その瞬間。

大地の脳内で、何かがプツンと弾けた。

『窮鼠、龍を退ける』

いじめられっ子だった少年の、根底に眠る本質。

弱い者が危機に瀕した時、一切の自己犠牲を厭わず庇う、強烈な守護の精神。

「……ふざけるな」

大地の瞳から、光が消えた。

温和だった『オカン』の顔は消え失せ、底なしの静かな怒りが、彼の全身を支配した。

「俺の畑を荒らし、俺の『家族(村人)』を傷つける奴は……絶対に、許さない」

大地はリュックのサイドポケットから『水筒』を引き抜き、カシャッ!とチタン合金棒を伸長させた。

そして、家庭科のエプロンの紐をギチギチと音を立てて締め直す。

「……大地?」

異様な気配に気づいたキャルルが振り返る。

そこには、キャルルですら恐怖を覚えるほどの、圧倒的なプレッシャーを放つ大地の姿があった。

「お前らは、村人を守れ」

大地はチタン棒を静かに構え、死甲虫の群れを見据えた。

「あいつらの『硬さ』は……俺が、家事と農業の知識で、ブチ壊してやる」

農業高校生にしてオカン。

そして、無双流の継承者。

赤木大地が、村人の命を守るため、自らの命を賭して、第一章最大の絶望へと歩みを進めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ