第19話 生徒会選挙に負けた一週間
帰った私への第一声は、「選挙、お疲れ様」ではなかった。
「兄弟に、泥を塗った」
玄関で、靴を脱ぐより先に、その言葉が飛んできた。
「兄弟の人生、考えたことあるの?」
「無責任なことして」
母の声は、家の中のどこにいても、追いかけてきた。
台所でも。居間でも。自分の部屋の前でも。
言葉の種類は、そんなに多くなかった。
兄弟の名前を出して、私を責める。
選挙に出たことを、無責任だと責める。
負けたことを、恥だと責める。
同じ言葉が、形を変えて、何度も何度も繰り返された。
その夜は、夕飯の時間になっても終わらなかった。
次の日も、終わらなかった。
その次の日も。
朝の食卓でも、帰ってきた玄関でも、風呂上がりの廊下でも。
一週間くらい、それは続いた。
誹謗中傷、と呼んでもいいと思う。
でも、あの頃の私は、そんな言葉も知らなかった。
私は、何も言い返さなかった。
なんで、生徒会に入っているかを
知らない癖に、
言う権利はないと思っていたからだ。
言ってるお前のせいだろ
自業自得じゃね。
くらいにしか思っていなかった。
むしろ、初めての挑戦で
シンプルに負けてしまった事の方が
しんどかった。
ただ、黙って、やり過ごして
自分の部屋に戻ってから、怒りに燃えていた。
悔しかった。
負けたことが、ただ、悔しかった。
四百票を超えていた。逆転できるかもしれなかった。
あと少しだった。
家の中で、自分を好きになれる場所を作りたくて、
やっと手を伸ばしたのに。
その手は、届かなかった。
壁の向こうから、まだ、母の声が聞こえていた。
私は、人間じゃないものはシカトした。




