第17話 生徒会選挙までの日々
選挙までの日々で、
いちばん困ったことがある。
立候補している人たちの、
下馬評がわからなかったことだ。
誰が有利なのか。
誰が人気なのか。
誰に票が集まりそうなのか。
何も、わからなかった。
門限は、
相変わらず厳しかった。
放課後は、
学校に残れない。
だから、
家に帰ってから、
必死で原稿を書いた。
学校を良くしたい。
そのために、何ができるのか。
机の上に紙を広げて、
親に見つからないように、
小さな声で読み返した。
でも、
去年までの私は、
ただの図書委員長だった。
執行委員になったことも、
なかった。
生徒会が、
実際にどんな仕事をしているのかも、
よく知らなかった。
だから、
その原稿は、
ぜんぶ、
空想の物語だった。
そんな私に、
急に、
委員会の日々が始まった。
執行委員になると、
毎週のように集まりがある。
そして、
隣に座っているのは、
齋藤拓真だった。
自然と、
話す機会が増えた。
「田中、行くぞ」
委員会が終わるたびに、
彼は、
当たり前のように
私を呼んだ。
それが、
新鮮だった。
家では、
名前を呼ばれることなんて、
ほとんどなかったから。
それなのに、
彼は、
何でもないことのように、
私の名字を呼ぶ。
呼ばれることが、
新鮮だった。
そして、
呼ばれないことも、
新鮮だった。
「早く来い」とも、
「何してるの」とも、
言われない。
ただ、
当たり前の顔で、
そこにいる。
少しずつ、
その言動が、
気になるようになった。
でも、
その気持ちには、
まだ名前をつけなかった。
そのうち、
選挙の幕が上がる。
私が、
私のために用意した、
私の毒親家庭のうっぷん晴らしのための、
書記長選挙。
その候補者の中に、
新しい美人の先輩が
立候補しているのを知った。
見たことは、
なかった。
けれど、
美人には違いなかった。
そう思った。
下馬評がわからない私は、
見たこともない先輩の顔を、
想像するしかなかった。




