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『書籍化』隣に住んでる聖女様は俺がキャラデザを担当した大人気VTuberでした  作者: 乃中カノン 
第3章

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第185話 働かざる者食うべからず

 身バレの件も落ち着き、開店の一時間以上前にも関わらず、店外にはちらほらと客が並び始めていた。


「祖父さん、飯時まで明澄を二階に上げてやっていいか?」


 本日は祖父母が昼食を振舞ってくれるので、それまで明澄にはのんびり待っていてもらうつもりだ。庵がそう言いながら立てた親指でレジ横の階段を指し示すと宗一郎はゆっくり頷いた。


「構わないとも。二人でゆっくりしていなさい」

「いや、俺は店を手伝うよ。働かざる者食うべからずってな」


 首を振った庵は腕捲りしながらそう言い、歯を見せてニカッと笑った。


 お気楽に待っているのは庵の性に合わない。何より祖父母を労りたいと思ってここに来ているので、明澄を一人で待たせるのは悪いとは思いつつ、今日は初めから従業員に加わるつもりだったのだ。


 しかしながら、徒食を恥じるのは庵だけの性格ではなく、明澄が強く意思を示した。


「えっ、それなら私も働きます……! 雑用でもなんでもしますから」

「別に明澄は何もしなくていいんだぞ。俺が二人分働くだけだし」

「いえ、庵くんだけ働かせて自分は美味しいご飯をいただくなんて絶対に有り得ませんので。働かざる者食うべからずです、よね?」


 明澄は断固拒否だった。

 胸の前で両手を握りしめて、ぐいっと覗き込むように庵をじっと見つめてくる。


 あちらの自宅でも炊事は半々にするし、庵の部屋で過ごす事も多いので掃除も分担を譲らないだけあって、彼女は平等をとても大切にする。

 それに恋人だけ働かせて、自分が待っているというのは彼女のプライドや信条が許せなかったらしい。


「気持ちは有り難いけど、大丈夫か? 大変だぞ」

「お掃除や皿洗いであればご指導頂ければなんとかなると思います。バイトをした事がないので舐めていると言われたらそうかもしれませんが……」


 接客業、飲食業が厳しいという触れ込みは有名だ。本来、雑務くらいは明澄のスペックならどうという事はないのだが、謙虚過ぎて彼女は次第にその威勢を萎ませる。


 おずおずと彼女が宗一郎と鈴音を伺い見ると、二人は優しく笑っていた。


「いやいや、人手が増えるなら正直助かる。今、夏休みで旅行に行ったバイトが何人かいるものでね。どうかね、やってみるかい?」

「はいっ。是非やらせてください」


 微笑を浮かべて尋ねた宗一郎に、明澄は願ってもないとばかりに笑みを見せ、頭を下げた。


「うむ。結構。鈴音、彼女に誰か指導役を付けてやってくれ」

「決まりね。今呼んでくるから、二人は休憩室《バックルーム》で待っててちょうだいね」


 静かに佇んで話が纏まるのを待っていた鈴音は明澄にそう微笑みかけて、店のバックヤードに姿を消した。


             # # #



「やっほー。久しぶりだね、庵」


 店のバックルームは二階にある。そこで鈴音の指示通り待っていると、ミルクゴールド色のセミロングを陽気に揺らす女性が、ひらひらと手を振りながらひょっこりと現れた。


「ありゃ、これ覚えてない感じかあ。最後に会ったの小学生の時だもんね」


 やっほー、と言われてもなと庵が困った顔をすると、彼女は気恥しげに後頭部を擦りながら苦笑する。

 ただ、姿が大きく変わっていたから一瞬誰なのか分からなかっただけで、彼は仕草や口調ですぐに思い出した。


「……あ、ああ! 静穂《しずほ》さんか」

「そうそう。その静穂さん」

「庵くん、この方は?」

「この人は俺のはとこの静穂さん」


 彼女は宗一郎の兄の孫に当たる人物だ。幼少期に何度か顔を合わせていたが、最後に会ったのは五年以上も前だ。

 その時はまだあどけなさが残る黒髪の少女で、ここの従業員でもなかった。


 今のように洒落たピアスを着けていたり髪を染めたりとか、ばっちり化粧などもしていなかったから見た目はほぼ別人である。


 ただ見た目の雰囲気は変わったものの、性格は気さくなお姉さんのまま。静穂は「よろしくね」と片手を上げながら、からりとした表情で明澄に笑いかける。


「初めまして。水瀬明澄です。本日はご指導ご鞭撻のほど、どうぞよろしくお願いいたします」

「OK、任せて。……しっかし、庵もなんとも可愛らしい子を連れてきて……! 羨ましいぞお」

「この間母さんから聞いたぞ。あんたも素敵な婚約者がいるんだろう? 羨ましがる必要は……」


 肩に肘を乗っけてにやにやする静穂に庵は半眼を向ける。


 昔から何人かいる従兄妹やはとこの中でも彼女は、何故かいつも庵に絡んでくるのだ。慣れてはいるが、うざいものはうざいので面倒くさそうに肩を回して追い払った。


「ノンノンノン。可愛い子は別腹なのだよ」

「そうですかい。あんまり構い過ぎないでやってくれよ」

「ははは! それは約束しかねるね!」

「あんたいよいよ曾祖父さんに似てきたなあ」

「そう? よく言われる。ふははっ……あ、そうだ。ひぃおじーちゃんが会いに来いってさ」


 腰に手を当て豪快に笑う静穂は、数年前に会ったきりの曾祖父の顔と重なった。

 そして、庵はその曾祖父が少し苦手であり「今度はそっちか……」と、ため息混じりに独り言を呟いた。


「ちゃんと会いに行ってあげなよ? めちゃくちゃ寂しがってたからさ。老い先短いのに、曾孫が会いにこん……! って嘆いてたし」

「どこが老い先短いんだよ。あのじじい、絶対百二十まで生きるタイプのくせに。あと三十年は確実にピンピンしてるだろ……」

「庵くんは曾お祖父さまが苦手なのですか?」

「まぁな。あの人、あまりにも孫、曾孫を可愛がり過ぎるんだよ。小遣いやるって言って財布丸ごと投げてきたり、散歩行くだけだってのに毎回付いてくるし、食いきれんくらいアホみたいに飯を作るし、挙句の果てには家一つと結婚相手くらいは用意してやるとか言い出すしなあ」

「ご、豪快ですね……」


 豪快で済めばまだいいが、庵には愛情表現として過剰なのだ。


 それでいて、曾祖父なりに可愛がってくれていると分かっているから拒みづらいし、断ると一々悲しそうな顔をしたりと子供みたいな人だからあまり会いたいと思わなかった。

 この分だとどこかで顔を見せなければならなさそうで、庵は気が滅入る。


「まぁまぁ。会いに行ってあげてよ。最近、ブチ切れてたからなんか疲れちゃっててさ」

「はあ? 誰か何かしたのか? あの爺さんを本気でキレさせるって相当だぞ」

「いや、それがさ……」


 喜怒哀楽がはっきりしていて、厳しさもある人だが曾祖父が本気で怒った姿はほぼ覚えがなく、庵は首を捻る。


 言いづらい話なのか、静穂は耳打ちしてこっそり教えようとしてくるのだが「こらっ……! お前たち遅いぞ!」と、階下から宗一郎からお叱りの声が飛んで来た。


「あ、やっば。宗一郎さん、怒ってる」

「おー、やべえな」

「じゃ、明澄ちゃん、制服合わせにいこうね」

「はい。では行ってきますね」

「はいよ」


 仕事モードの彼の怖さを知っている庵と静穂は急いで支度に取り掛かる。


 静穂に両肩を優しく押されながら隣の更衣室に向かう明澄を見送りつつ、庵も男子更衣室へ足を早めた。


「じゃじゃーん! どうよ、この超絶美少女《ヴィーナス》! 看板娘間違いなしでしょ!!!」


 二十分ほど経った頃、二人の支度が出来たようなので先に着替え終えて一階で仕事を手伝っていた庵がバックルームに戻ると、テンションMAXの静穂が後ろに隠していた明澄を前に押しやる。


「どう……です、か? 似合ってますでしょうか?」


 押し出されて彼の眼前に立った明澄は女性用のウェイター服に身を包んでいて、ちょっぴり照れを携えた表情で庵を窺った。

 そして、それが庵に深く突き刺さる。

うおー、はやく庵くんにぶっ刺さった明澄さんのウェイター姿で接客する様子をお見せしたい!


 それと前回、あとがきに残した本作への質問受け付けの件ですが、常時募集&一人何問でもokで基本個別にお答えしつつ、溜まったらあとがきか活動報告で公開しますね。

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