第176話 聖女様と夏の醍醐味
「おはようございます、庵くん。今日も何かされるんですか?」
朝、庵が外へ出ようとしていると、玄関での物音に気付いた明澄がやってくる。
先日からここに滞在中の彼女は、積極的に家事の手伝いなどをしてくれているので仕事を見つけようとしていたのだろう。
「水やりとか色々」
「そのスイカは?」
「爺さんたちから送られてきてな。けど、何個も送ってくるもんだから、冷蔵庫に入り切らなかった分を庭の芝生の水やりついでに外で冷やしに行くんだよ」
「外で冷やすとは?」
外はまだ涼しい時間とはいえ、じきに灼熱と化すから当然の疑問だ。明澄はこてんと首を傾げる。
「うち、地下水を汲み上げてるから、木陰に置いたビニールプールに水を溜めて定期的に水を入れ替えてやれば、まぁ冷える冷える」
スイカ二玉が一つずつ入ったスーパーの袋を両手に提げた庵は玄関を出ていくと、付いてきた明澄にそう説明しつつ庭に出た。
「はー、なるほど。そういう事が出来るんですねぇ」
「あと、一緒にプールに浸かっときゃ、バカンス気分だし」
「え、プール入るんですか?」
「うん。なんでかしらんが昔、親父がでっかいの買ってきたからな。ローテーブル置いてタブレットでアニメ流して暇つぶしするつもり」
「いいなぁ。ずるいです」
庭の奥に向かえば水場があり、立水栓の蛇口を捻って温度を確認しながら庵が午前の予定を教えると、明澄は純粋に羨むようにそう声を上げた。
部屋に籠って作業するのも良いが、たまには日光を浴びたいので水浴び程度にアウトドアと洒落込むつもりだったのだ。
明澄もインドア派だが好奇心は強い方だから、中々ない体験に惹かれたらしい。
「明澄もやるか? 二人くらいなら入れるし」
「良いんですか! 入ります!」
誘ってやると、それはなんとも素早い返事だった。ぱあぁ、と明澄は表情に輝きを帯びさせる。
どれだけプールに入りたかったんだ、と庵は苦笑しつつ濡れてもいい格好に着替えるよう言えば、明澄は「了解ですっ」と、お茶目に敬礼のポーズの残像を残すようにして小走りで去っていった。
# # #
「こんなもんかな」
芝や植木などにひとしきり水をやり終えた庵は、水滴でキラキラ輝くそれらに達成感を得ながら額の汗を腕で拭う。
ホースを巻いて裏手に片付けていると、玄関の方から明澄の元気な声が聞こえてきて、角からひょっこりと顔を出した。
「庵くん、お待たせしましたー」
芝を踏む音を鳴らしつつこちらにやってくる明澄に作業を切り上げて庵は顔を上げる……のだが明澄は思わぬ格好をしていた。
「おう、グッドタイミ、ん……ぐ、って水着着てきたのか!?」
驚愕。それが一番正しい表現だろう。
水着姿の明澄に目を丸くし、驚きの声を上げる。
「……はい。実は持って来ていて……似合い、ますか?」
側に立った明澄が若干の恥じらいを抱え、後ろ手を組みつつ問いかけてくる。
彼女の水着は目のやり場に困る、というのはそれほどでもなかった。
オフショルダーでフリル付きの袖とオールインワンのフレアスカートタイプの水着で、バックは少し開けてあるもののシンプルな白のワンピース型水着で手足や胸元以外を隠されていたからだ。
それでも、凝視できるほど庵も達観はしていない。
水着の色に負けないくらいの白さを保ち、透明感とつや、西洋人に比類するような明澄の乳白色の肌はシミと無縁でいる。
膨張色の白であっても全体的にその華奢さが目立つ。
袖とスカートから出た手足はほっそりとしているが、逆に主張する箇所はきっちりと主張されており、誘惑的な尊大さで傾斜角を描いていた。
もし、ビキニタイプ、プランジング、キーホールなどを着られていたらと思うと、立ち上がれなかったかもしれない。
あまりの展開に庵は目を白黒させかけたが、女子に似合うかと聞かれれば、それに答えるのが男というもの。
「似合ってるよ。明澄らしい清楚さでいいと思う、けど……一応近くに他の家もあるんだぞ?」
きちんと褒めつつも懸念を示したのは、彼女を想うからこそだった。
こういうのは内に秘めておくので言わないが、日中の庭で派手でもなく露出も控えたとはいえ水着でいるのは尋常ではない。
通りすがる通行人や近隣住民の視線から守ってやりたいのだ。
「塀がしっかりしてるので覗かなければ見えませんし、そんな派手な水着でもないので……」
ごもっともな指摘だが、今さら脱いで戻ってくるのも変だろう。幸い有難い事に敷地は高めの塀に囲われており、隣に家もなく正面に一軒あるだけ。
そもそも人通りも少なく庭の奥側とあって見えづらい。明澄が気にしないのであれば強く言わないけれど、庵としては納得するのに時間はかかるのだ。
「明澄が良いならいいけどさ」
「なんです?」
「あんまり人に見せたくないから」
「ふふ。なので、こうして庵くんに一番に見せに来たんじゃないですか。私、学校指定以外で人に見せるの初めてなんですよ。庵くんが一番乗りという事で、それじゃ駄目です?」
視線を外し嫉妬を滲ませた庵に、小さく笑った明澄は胸に手を当てて小首を傾ける。
初めて、そう言われれば男の優越感も次第に満ちてゆく。
何より本来、後日予定していたプールで披露されるはずだったものだし、そこでは場合によっては庵より先に明澄の水着姿を見る男も居たかもしれない。
結局は健気に庵を想ったが故に、ここで一着披露した明澄へ口の端に嬉しさを露わにして頷かざるを得なかった。
「じゃ、俺も脱ぐか」
「ま、ま待ってください。それはいけません」
下は水陸両用の短パンなので、上だけ脱ごうとTシャツの裾に手をかけた庵の手は明澄に慌てて抑えられた。
激しい動作をするとスカートがひらりと舞ったり、色々揺れたりするのが目につく。明澄には明澄の、庵には庵の刺激的な対象があった。
「なんでだよ」
「は、恥ずかしいです……」
庵が怪訝な目付きをすると、彼女は少々俯きながら頬を赤らめる。
先日の件でマシになったと思ったが、未だに庵の肌を直視するのは難しいらしい。そろそろ慣れてもらわないとプールとか諸々困るので荒療治くらいは必要かと考えるも、その光景を親に見られると不味い。
渋々裾を掴む手を離すと、明澄は安堵したように息を吐いた。
「お前なぁ……てか、この間見ただろ」
「昼と夜では違うと言いますか」
「口までつけた癖に」
ジト目でチクリと刺すように言う。
「うるさいですっ。とにかくTシャツ、短パンでよろしくお願いします」
首から額までぐーんと赤みを登らせた明澄は、ぐいぐいと庵の背をプールの方へ押していく。
分かった分かった、と言うものの歩きはしなかった庵をそれでも押すものだから、明澄は体全部で押す事になった。
いつもより直接的なふくらみを押し付けられた居心地の悪さに庵は逃げるように歩き出し、最終的には大人しくそのまま二人でプールに浸かった。
そうして明澄はひと安心しているものの、ただ後にちょっとしたハプニングが待ち受けている。
明澄さんの水着ですが、まずは一着目完了です。あと三着ェ……。
回を追うごとに露出も増えます。୧(`•ω•´)୨
そしてこの水着回はもうちっとだけ続きます。





