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『書籍化』隣に住んでる聖女様は俺がキャラデザを担当した大人気VTuberでした  作者: 乃中カノン 
第3章

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第157話 満たすもの

前話については、大きなミスがあり一話先の内容が途中のまま更新されるという、とんでもない事になっておりました。

現在は修正中ですので、まだ修正版をお読みになられていない方はお手数ですがそちらからお願いいたします。

 マンションへ帰宅後、明澄を家に帰したのだが、一時間ほどしてもう十二時を超えるというのに彼女が部屋を訪ねてきたので、眠くなるまではとハーブティーを二人分用意した。


 あの後、最終的にはこのまま澪璃の留学や配信活動の停止を納得して解散したが、明澄には突然過ぎて怒涛過ぎて許容量を超えていたのだろう。


 ソファに並んで腰掛ける彼女はカップに口を付けて、ほっと息を吐いてようやくどっと押し寄せる疲労を解放していた。


「明澄。全部を受け入れる必要なんてないからな」

「そう……ですよね。私、なんでもそのままにしておけなくて、放っておけなくて、ずっと気にしてしまうので」


 明澄は揺らぐカップの水面に映る自分を自戒するように見つめる。


「俺はその明澄に救われたからな。本人には言わないけど、そもそもちょっとあいつが悪いとこの方が多いし、澪璃とは衝突したけどきっと悪いものじゃない」

「そうだといいんですけどね」

「澪璃がそのままでいいって言ってくれたんだ。昔とは違っても明澄の思うようにやればいいと思う」

「はい。……やっぱり、澪璃さんの事は気になりますから。留学も精神面とかよりも、だらしないのとかテキトーだったり、語学とかの方が心配ですしね」

「それは俺もそう」

「あの子、好奇心旺盛なので、海外で変な事しないか本当に大丈夫かなって。あと、忘れ物したり、引越しとか色々もうほんと……」


 言い出せば止まらなかった。

 澪璃の病よりも、本人の性格とか衝動的な振る舞いは庵も懸念点ではある。


 だとしても、ある程度自立していたのも事実だ。

 実家暮らしだった彼女が今年の春先に引っ越していたが、どうやら海外生活に向けてマンスリーマンションで一人暮らしを始めていたらしい。


 部屋は散らかっている所もあったし、自炊も週一、二回でするかしないかぐらいのようなので、現在奮闘中なのだろう。

 やる気は認められる、といったところだろうか。


「ほんと世話焼きというか保護者みたいだな」

「私って心配症なんですかね」

「まぁ、あいつが保護欲掻き立てられるタイプなのは間違いないかもしれん」

「そうなんですよ。昔から自由人ですけど、怪我とか怖がらないから木登りしたり、野山駆け回ったりしてましたし」

「めちゃくちゃアクティブだな」

「ええもう、私も何度か連れ回されたので。でも、そういう彼女に助けられていたのも事実ですからね。私、結局澪璃さんが居なくなるのが不安だったんですよね。支えられていたのは自覚していますし、手から離れる心配と不安は間違いなく常にあったんだろうなって今になって思います」


 明澄が頼れる人間は少なかったから、傍に居た彼女が心の支えだったのは前々から気付いている。

 家族関係から、心を閉ざした明澄は親しい人間以外とは距離を置くので、踏み込んでくれる人が必要だったのだろう。


 そして、その一人であると庵は自負しているし、今では一番になれたとも思っている。


(なんか、もやっとする……)


 だから、明澄が澪璃ばかり気にしてそちらを見ているばかりなのが、少し嫌だった。

 素直に吐露する明澄に優しく笑いかけながらも、チクッとした痛みを胸に抱える。


 溜まり続けていくそれを解消するには、明澄を、自分を愛してくれる存在を直に感じる事でしか不可能だと庵は悟った。


「明澄」

「なんでしょう?」

「今日はまだ帰したくないって言ったら、どうする?」

「えっ……?」


 急に転換した話に、明澄は固まってぱちくりと瞬きする。

 庵がこんな事を言い出した覚えがなかったから、言葉の意味を吟味咀嚼して、自分なりに解釈しようとしたようで、瞳を左右に泳がせる明澄にじっと目を合わせ続けた。


「それはその……ええと、」

「別に取って食べたりはしない。ちょっと、抱き締めさせて欲しいだけ」


 寝るつもりだったから部屋は間接照明だけにしてあり、庵の言い方もあって明澄が不審に思ったようだが、そんな事をするつもりはないので、言い直して再度瞳を合わせる。


「そ、それならいつでも……」


 月明かりをバックに承諾した明澄は、ハグしやすいように庵との距離をなくして座り直す。

 ぴたっと肩をくっつけてきた明澄とソファの背面の間に腕を挿し入れ、腰を引き寄せて胸の前に連れてくると、前からも腕を回して抱き締めた。


 一時間経ってから部屋に来たのは風呂を済ませてきたからだろう。明澄がいつも使っているシャンプーやボディクリームの甘い匂いがふわっと香り、冷房で涼しげな中その熱と柔らかさが多幸感に変換される。


 庵の嫉妬する想いも次第に薄れ、愛おしさが充足していくのは抱き締められている明澄も感じているようで、幸せそうに瞳を伏せていた。

 どちらも緩く締まらない口許がその多幸感を表し、この溶けるような一体感に一種の快楽を味わう。


「庵くんはいつもして欲しいタイミングですね」

「そりゃあ、好き同士なんだからシンクロするだろ」

「……だからこそ、こうしていると、やっぱり寂しいですね」

「こうしてるのに?」

「彼女とは長い間、一緒に色んな事をし過ぎましたから」

「そうか……」


(なんでまだそんなこと言うんだよ……)


 忘れようと思っていたのに。上書きしようと思っていたのに。また別の所へ意識を向けられたら蒸し返してしまう。


 明澄は抱き締められて満足している中で、寂しそうな空気を漂わせていて、それが庵には不満だった。

 明澄にであり、全部を幸福で満たせない自分にである。


 もう二度と彼女以外を好きにならないだろうし、ずっとこのまま愛を通わせるつもりだし、それを余す事なく言葉で行動で伝えていくつもりだ。

 足りないなら更にヒートアップする。何事も過不足なくというが、こればかりは過剰でも良いとさえ思う。


 どうしようもなく好きで、とめどなく溢れる愛情はたゆみなく紡がれ、たおやかに編まれ包み込まれるその中には自分と明澄だけであって欲しいと独占的な感情に支配されるのだ。


 だから、なんというかもう堪らなく無性に明澄の全部を自分で満たし書き換えたくなって、庵は優しく明澄を身体から遠ざけると、彼女は戸惑いながら無垢で綺麗な顔を向ける。


 こちらの気持ちを分かっていなさそうなのが、庵の引き金を引く。


 彼女の頬に手を添えて数秒見つめ合えば、明澄はふにゃりと微笑を作るのだが、すぅーっと手を顎まで下げてそれを持ち上げれば、庵は暗がりの中でも艶を帯びた唇になにもかも注ぎ込むように唇を重ねて口付けをした。

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