第九話 アカウント
自宅に戻り、Y崎は自分の無力さを痛感していた。
はっきり言って完敗だと、何も出来なかったと感じていた。
自信を失ったY崎は深い自責へと沈み行く。
(弁護士失格ね あのKさんが言ってたように 今まで散々
痴漢は許さない 例え冤罪でも間違えられた男に非がある
そんな事を発信しておきながら 息子の痴漢事件は弁護して
冤罪だ無罪だなんて言ってれば 二枚舌や矛盾なんて言われて
当然よね 幸雄の弁護人を請け負ったのが間違いだったかしら
私の無責任なSNSでの発言が 冤罪で苦しい思いをした人達を
傷つけて来たのかもね 自分の息子が当事者になるまで
全然気づけなかった 冤罪被害がこんなにつらいなんて)
こんな自分に皆は何を言ってるのだろうと思い、
Y崎は自分のSNSを見てみた。相変わらず批判の返信が多い。
きっと皆、冤罪は男に非があると言っていながら
幸雄を冤罪だと庇ってる事に矛盾を感じて怒ってるのだろうと、
痴漢冤罪に苦しんでる人達の意見を聞いてみたいと、
そう思ったY崎は返信に載ってる、#痴漢冤罪 をタップしてみた。
スマホに #痴漢冤罪 に関する投稿がズラリと表示された。
『〇〇〇〇 20××年×月×日
痴漢冤罪とかマジありえねえだろ
もう怖くて電車に乗れんわ男性専用車両希望
#痴漢冤罪 #電車怖い』
『△× 20××年×月×日
私のお父さんは痴漢冤罪で逮捕されました。今でも悔しいです
あのY崎とかいうコメンテーターが冤罪でも男に非がある
みたいな事言ってた時は心底ムカついたけど
息子が逮捕されて冤罪ですって喚いてた時はざまあでしたね
#痴漢冤罪 #Y崎事件』
『×□× 20××年×月×日
痴漢冤罪被害に会ったら男はもう人生終了確定だな
この国は女は守るけど男は守らないって事よ
とりあえず電車乗るのやめてバイクの免許取るわ
#痴漢冤罪 #脱電車』
それらの投稿をY崎は縦にスクロールしながら
ぼんやりと見ていた。その時、気になるアイコンを見つけた。
何処かで見覚えのあるアイコン、
それは鳥の羽のネックレスのアイコンだった。
Y崎
「……これって…」
『〇△□ 20××年×月×日
二枚舌Y崎 冤罪は男が悪いとか言っときながら
自分の息子になると必死で弁護してるってありえねーだろ
いい気味だわ。冤罪被害にあった奴がどれだけ苦しむか
思い知れっつーの あん時のあいつの顔
みんなにも見せてやりてーわ
#痴漢冤罪 #痴漢冤罪被害者の会』
鳥の羽のネックレスのアイコンのアカウントはそう投稿してた。
Y崎
(この鳥の羽のネックレス、もしかして……)
気になったY崎はそのユーザー名〇△□のアカウントにジャンプした。
〇△□
大切な兄が痴漢冤罪で有罪判決になってから
俺の家族は壊れてしまいました。
痴漢冤罪被害者の会にも参加して、
これからは本当の正義を社会に示して行きたいです。
痴漢冤罪をこの国から無くす為に皆さんで考えましょう
プロフィールにはそう書かれていた。
Y崎は〇△□の投稿を過去へ見ていった。
その中に旅行に行った時のような自撮り写真が載っていた。
Y崎
「!この人は!」
その写真に写っていたのは、
証人尋問の時にアイコンの鳥の羽のネックレスをつけていた、
幸雄を私人逮捕した男性Kさんだった。
気になったY崎は〇△□の返信タブを見てみた。
すると見覚えのある投稿を見つけた。
『〇△□ 20××年×月×日
アンタ自分で投稿してたよな? 例え冤罪でも
間違えられた男に非があるのです。女性は悪くありません。
冤罪にあった男を社会が庇う必要なんてありません。
そう投稿してただろ?だからお前の息子を社会が庇う必要なんて無いよな
どうだ?痴漢冤罪の被害にあった人がどんな目にあうか、
どれ程つらい思いをするか、どれだけ人生を狂わされるか、
これで少しはわかったか?
#痴漢冤罪 #痴漢冤罪被害者の会』
幸雄は冤罪だと投稿した時の批判の返信だった。
写真から〇△□はKさんだとY崎は確信した。そして、
Kさんは痴漢冤罪被害者の会に参加してる事、そして、
投稿の内容と証人尋問の自分への攻撃的な発言から
自分を恨んでいる事が予測出来た。
(このKさんが私に恨みがあるなら 私を苦しめる為に
幸雄の痴漢を捏造する動機があるかも
兄が痴漢冤罪被害にあったように
痴漢冤罪は男に非があるって発言した私に
同じ思いを味あわせてやろうと計画したのなら
幸雄の痴漢は捏造って事になるわ)
Y崎は証人尋問でAさんとKさんが互いの面識を聞かれたら
双方とも話を逸らすような態度を取っていた事を思い出し、
KさんのページにAさんの写真が載ってないかなど、
Aさんとの接点を探したが見つからず、
それ以上有力な情報は得られなかった。
Y崎は幸雄の痴漢事件が捏造だという可能性を掴んだ。
だがそれは証拠と言うには余りに弱く、
Y崎の推測でしかなかった。
つづく




