第七話 証拠
Y崎は以前幸雄に面会した時に鑑定依頼した、
幸雄の手の平の微物鑑定結果の鑑定書のコピーを
事務所に送ってもらうように検察側へ証拠開示請求し、数週間後、
弁護士事務所に鑑定書の書類が届いた。Y崎は中身を確認した。
長々と堅苦しい文章が数枚続き、最後に書かれていたのは、
~と同一の繊維片は検出されなかった
であった。それはつまり、幸雄の手の平から被害者Aさんの
スカートの繊維は見つからなかった、つまり、
幸雄は女性のスカートに触っていなかった事を示す結果であった。
(これで幸雄の無実を証明出来るかも知れない)
Y崎はそう思い久しぶりに笑顔と希望を取り戻した。
Y崎の調査が進み始めた瞬間であった。そして同時に
厳しい現実も予感していた。
第一回公判 証拠提出
Y崎は裁判所の大型モニターに鑑定書のコピーを映し、
その鑑定書を元に自分の証拠の説明を始めた。
Y崎
「画面をご覧下さい。これは被告の手の平の微物鑑定結果の
鑑定書です。この通り、鑑定結果には
同一の繊維片は検出されなかったと記されています。
つまりこれは、被告の手は被害者のスカートには触れていなかった
と言う事を示す確固たる証拠になります」
Y崎が幸雄の為を思い胸を張って説明をしてる時、
それを遮るように検察官があのセリフを言い放った。
検察官
「異議あり!」
やはり来たかとY崎は身構えた。裁判官が検察に促す。
裁判官
「…異議の理由は?」
検察官
「被告は犯行のあと私人逮捕されるまでに男性と取っ組み合いになり
その時に男性の襟や腕等を掴み、色々な所を触っています。
その際にスカートの繊維が剥がれ落ちた可能性があります。
以上の理由からその鑑定結果は、被告人が被害者のスカートを
触ってない事を示す証拠としては、不十分だと主張します」
Y崎が警戒していた目線の指摘が検察から展開された。
微物鑑定されるまでに服の襟や袖などを触っていれば、
手についたスカートの繊維がその時に剥がれ落ちた、または
相手の男性の襟や袖に移ったのだろうと反論できてしまう。
この証拠の効力を崩す弱点を検察に見抜かれてしまっていた。
検察に有利な空気に包まれ、その日の証拠提出は終わった。
Y崎は痴漢事件の弁護の難しさ、証拠の少なさを痛感するのだった。
第一回公判が終わり、Y崎は保釈金を払い幸雄を釈放させた。
Y崎
「幸雄!おかえり!」
幸雄
「……うん…」
Y崎
「よく頑張ったわね、さあ帰りましょ」
幸雄は自由になり、再び元の生活に戻る為に
新しい一歩を踏み出そうとしていた。
数日後、幸雄は気持ちを新たにして会社に出勤した。
業務が始まった時、幸雄は上司に呼び出された。
上司
「……僕もこんな事言いたくないんだがね、
君の事件、世間で騒ぎになっててね、
君がうちで働いてるってバレてるみたいで、
未だにうちにいたずら電話がかかって来てるんだよ」
幸雄
「……そう、ですか…」
上司
「……君が有罪か無罪かは置いといて、
痴漢の事件で騒動になった本人が社内にいるっていうのもね、
特に女性社員達は抵抗あるみたいで、
このままじゃあ社内のコミュニケーションにも支障が出るかもなんだよ」
幸雄
「……僕は何もしてません。痴漢なんてしてません」
上司
「いや僕も君が痴漢したと決めつけてる訳じゃないんだ。
君が無実でも、社内業務に悪影響が出る、これは事実なんだよ。
こっちとしては社内の環境がよくなるように改善する義務もあるからね
……悪いけど……今日までって事で納得してくれないかな?」
幸雄
「……つまり、クビって事ですか?……」
上司
「察しが良くて助かるよ。じゃあ、自分の荷物、整理してくれるかな?」
幸雄は勤務していた会社から解雇を言い渡された。
Y崎と同じく幸雄にもまた、厳しい道のりが待ち受けているであろう。
つづく




