第十二話 判決
1ケ月後 判決言い渡し当日
裁判官
「被告人は前へ……」
幸雄が証言台に立ち、裁判官と向き合う。
幸雄が痴漢で逮捕されてから、誹謗中傷を浴び、
冤罪被害の苦しみを自ら味わい、気付かされ、誰も味方が居ない中
無罪を勝ち取る為の証拠や手がかりの為に奔走して来た。
息子は痴漢なんてしていないと、無罪だと証明する為、
出来る事は全てやって来た。そんなY崎の孤独な戦いの答えが、
今、目の前で言い渡される。
Y崎は弁護人席から息子を見つめながら、無罪判決を心から願った。
裁判官
「主文、被告人を懲役一年に処する」
Y崎
「!!!……」
幸雄
「・・・・・」
裁判官
「本件において、被害者と私人逮捕した証人の証言に
矛盾は見つからず…」
Y崎
「……待って…」
裁判官
「これら二名の証言は証拠として十分であると…」
Y崎
「裁判長ーーー!」
裁判官
「静粛に!」
Y崎
「こんなの不当判決よー!」
裁判官
「静粛に!」
Y崎
「お願い信じて!私の息子は痴漢なんてしてないわ!」
裁判官
「静粛に!退廷させますよ!?」
Y崎
「………うう…ううう……」
Y崎はその場に泣き崩れ、立ち上がれなかった。
悔しい、おかしい、納得いかない、理不尽よ、不公平よ、
それらの感情がY崎の内側からマグマのように溢れ出て来た。
そしてそれは痴漢冤罪被害にあった者達と同じもの。
例え冤罪でも間違えられた男に非がある、そう軽んじていたY崎は
彼らと同じ苦しみに染められていた。
その日の夕方、幸雄が護送された拘置所の面会室で
Y崎は幸雄と面会した。アクリル板を挟んでY崎と幸雄は向き合う。
Y崎
「幸雄、控訴しましょう、一緒に頑張りましょう」
幸雄
「……もういいんだよ」
Y崎
「諦めちゃダメよ、母さん頑張るから」
幸雄
「…懲役一年だって…」
Y崎
「まだ分からないわ、控訴すれば…」
幸雄
「フフ…フフフ…」
Y崎
「…幸雄?…」
幸雄
「ハハハ、ハハハハ…」
Y崎
「幸雄!しっかりして!ねえ!」
幸雄
「よーくわかったよ、痴漢冤罪ってこういう事なんだね。
母さんもよく分かっただろ?ハハハ!」
Y崎
「幸雄!どうしたのよ!」
幸雄
「今頃母さんのアンチも喜んでるだろうねー」
Y崎
「幸雄、落ち着い…」
幸雄
「全部母さんのせいだろーーー!!」
Y崎
「・・・・・」
幸雄
「母さんが痴漢は許さないとか
冤罪は間違えられた男に非があるとか言うから!
アンチが母さんに復讐する為に俺が生贄にされたんだ!
全部母さんのせいじゃないか!!」
Y崎
「・・・・・」
幸雄
「・・・・・」
Y崎
「……幸雄、母さんの事、恨んでる?」
幸雄
「……恨んでるよ…」
Y崎
「…母さんの息子に産まれなければよかったって…
思ってる?…」
幸雄
「……思ってるよ」
Y崎
「……ゴメンね、幸雄。母さんのせいでこんな事になって。
…でもね、母さんね、それでも、自分のやって来た事、
間違ってるとは思ってないの。なんでかわかる?」
幸雄
「・・・・・」
Y崎
「痴漢冤罪って酷い事なのね。母さん、あなたが冤罪被害にあって、
ようやく気付いたわ。でもね、間違える女性が悪いんじゃなくて、
痴漢する人が居るから、冤罪が起こる。そう思えない?」
幸雄
「・・・・・」
Y崎
「母さん、これからも痴漢撲滅の為に頑張って行くつもりよ。
そしていつか痴漢が居なくなったら、
冤罪だってなくなるかも知れないの。
母さんが頑張って来た事って、そういう事なのよ」
幸雄
「・・・・うん」
Y崎
「だからね幸雄、今は無理でしょうけど、いつか、
母さん頑張ってるんだって、分かって欲しいわ。
少しずつでもいいから、母さん待ってるわね…」
幸雄
「……うん。…でも今は、母さんの事、
全部許す気にはなれない……
それと、控訴する気にもなれないんだ……もう帰って」
幸雄は立ち上がりドアの向こうへ帰って行った。
弁護士がどんなに強く勧めても、被告本人にその意思が無ければ
控訴は不可能である。
愛する息子の為に奔走し続けたY崎の、孤独な戦いが終わった。
つづく




