第十一話 生贄
第五回公判 結審
検察
「被告人は被害者Aさんの、犯人の触ってる手を見て
腕、顔、と視線を追って被告の顔を確認した、
つまり被告が犯人だと確認したという証言、そして、
私人逮捕した男性Kさんの、犯人が痴漢をしてる途中の手を
掴んだら犯人の手だったという二人の証言があるにもかかわらず
自分の罪を認めず、一貫して犯行を否認しています。
また、犯行当時、隙を見て現場から逃走しています。
被告には全く反省する姿勢は見られません。
被告人の犯行、態度は極めて悪質性が高いと判断出来ます。
よって、被告には実刑を望みます。
懲役一年が相当と判断します」
Y崎
「被害者Aさんの証言も、Kさんの証言も、いずれも
証拠はありません。監視カメラの映像もありません。
全ては曖昧な記憶でしかないのです。
そして、Kさんは被告の親、つまり私にSNSでの
誹謗中傷をしたという事実から、私に嫌がらせや報復をする
動機があると推測出来ます。その為に被告人を痴漢にする為に
痴漢を捏造したという可能性は十分考えられます。
裁判長、幸雄は…いえ、被告人は、無罪です!」
裁判官
「…これで、審理を終わりにしますが、最後に言いたい事はありますか?
被告人は前へ出て下さい」
幸雄が証言台の前に立った。Y崎は幸雄を強く見つめた。
痴漢の容疑をかけられてから屈せずに無罪を訴え続け
戦い続けて来た、愛する一人息子の幸雄を。
うつむいて沈んだ表情の幸雄に、どうか最後まで
自分の無罪を、潔白を、胸を張ってこの場で皆に伝えてと、
そう思いながら幸雄を見守っていた。
幸雄
「……僕は、もう疲れました。もうどうでもいいんです。
仮に無罪だったとしても、これだけ世間に騒がれたら
社会に復帰できないのは目に見えてます。
会社だってクビになりました。
無罪でも、有罪でも、もう僕の人生は終わってるんです」
Y崎
「……?…幸雄?…」
幸雄
「……僕は、生贄にされたんですよ。僕が母さんの息子だから。
母さんがテレビとかSNSとかで痴漢は許さないとか、
冤罪でも間違えられた男に非があるとか、そんな発言するから
アンチに目をつけられて、母さんへの攻撃の為に
僕が利用されたんです。僕は生贄にされたんです……
母さんの息子になんて産まれなければ良かったんだ
……以上です」
Y崎
「…………幸雄……」
裁判官
「……では、以上で弁論を終わります。
判決言い渡しは〇月〇日〇時から行います」
結審は終了した。
つづく




