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Episode2:IN THE POOL



 でも、流美の足は学校のグランドに向かわなかった。



挿絵(By みてみん)



「おー! 待っていたよ!」

「来ると思っていたのか?」

「だってウチと同じことを思ってそうだったからさ!」

「同じこと?」

「学校のこと」

「どっかで話そうか?」

「街のほうのマックで。ウチの彼氏が働いているから」

「あっそ。彼氏いるのね」

「紹介しようか?」

「いきなり知り合った奴から紹介される男なんて信用できない」

「あははっ! 言ってくれる!」

「街までどうやっていくのよ?」

「そこにチャリ置いているから。ニケツやる?」

「ニケツ?」

「2人乗り」

「ああ、チョット悪いことをしてやりたい気持ちかも」



 そこで流美は人生初めての自転車2人乗りを体験する。



 向かったのは平日でも賑わう本通りの街。そのなかにあるマックで語らう事に。

そこの店員に金髪の男がいた。本当にその彼が彼女の彼氏らしい。



「田中将星っていうの。セトナイをこないだ退学してここで働いているの」

「セトナイ?」

「瀬戸内海高校のことだよ」

「ああ、そう言って貰えると分かる。あの……アンタの名前は?」

「赤毛のアン」

「ふざけるなよ。私はルミ。名字は小室」

「じゃあコムルミね」

「何でもいいよ。アンって名前じゃないでしょ?」

「安藤里琴。赤毛のアンでまちがいないでしょ?」

「ああ。言われてみればそうだね」

「コムルミは学校をやめないの?」

「部活を辞めてよりも強烈ね……」

「ウチは1年行かなかったからね。それで学校からどうするのか連絡がきてさ、ちょっと通ってみたけど無理だったのね。退学の手続きを済ませるタイミングでコムルミの顔をみてピンと来たの」

「何が?」

「ああ、このコもウチと同じ理不尽に苦しんでいるって」

「………………」

「ウチのことを話そうか? お気に入りの場所があるの」

「お気に入り?」



 里琴はそのまま流美を大きな河川敷まで連れてきた。



 そこで「吸う?」と煙草を差しだす。



「ゴホッ! ゴホホッ!」

「あはは! はじめて?」

「ちゃんと教えてよ……」



 安藤里琴の生い立ちはそこで語られる。



 彼女は会社社長の家庭で育ったお嬢さん。だけど勉強がどうにも苦手で部活の水泳に励み続けた。しかし、高校生になってそのやる気は一気に衰える。父親は愛人をつくり、いずれは家庭を捨てるつもりでいること。母の方にもまた愛人がいて新しい家庭を準備しようとしていること。そんな両親の子供である兄妹達は親への愛もなく海外や東京で独立した生活に集中しようとしている……



 里琴は愛されない自分のことをどこか見え透いていた。



 そう思うようになったのはいつからか?



 彼女は泳ぐのに夢中になっていた。



 レースで勝った時の歓びと負けた時の悔しさはあっても。



 プールのなかでお得意のクロールを繰りだす彼女はその気持ち良さに酔う事で本当の自分をみいだしているような気がした。



 でも、それでも、その気持ちイイはずのプールが日に日に重く感じるように。





「………………」



 彼女はある日の部活で泳がずボーっとプールの揺らめきを眺めていたのだ。



「どうした? 安藤? 調子が悪いのか?」



 水泳部顧問である高畑が声をかける。同時に彼女の肩に触れる。



「気持ち悪いハゲが触ってくるんじゃねぇよ!!!」



 里琴はそのまま激高して学校を出てゆく。



「何でキレタのだろうね……でも、今はシノギもみつけて出たかった家も出た。どこにいてもウチに場所なんてないと思っていて。学校でもなんか分からないのだけど、浮いちゃって……」

「…………なんか私と似ているかもね」

「コムルミは? お家では幸せなの?」

「私は…………」



 琉美は貧しい母子家庭で育つ。貧しいながらも、懸命に働く母を尊敬していた。高校に入るまでは自分の為に色んなことを尽くしてくれた。それがいつの間にか酒ばかり呑むような女になった。



「アンタなんか生むんじゃなかった」



 その言葉が流美の心臓をグサッと刺したようで。



「男にふられちゃったみたいで。私なんて娘がいることが知られたみたいで」

「…………家出する?」

「それって本気かよ?」

「えへへ。これが運命でないなら何と呼ぼうか?」

「気まぐれ。私は携帯電話なんて持ってないから。お家まで来てくれる?」

「どこ住み?」

「宇品。あ~そこまで送ってくれる? ニケツで」

「おう。任せた」



 里琴は不良少女と言えば不良少女なのだろう。



 だけど、そこに何の厭らしさも感じない。




 その出逢いから流美は何よりも刺激的な夏休みを経験することになる――




 流美はあの日から間もないタイミングで部活を退部することにした。高畑から必死で引き留められるも譲らず。この夏休みに里琴と過ごすなかで退学する事も決心できたら、そうしようと家出同然で家も出ることに。




 里琴はだらしない生活をしているかと思いきやキッチリとした生活をおくっているようだ。部屋はずっと綺麗だし朝の身支度からその気合いの入れようは違う。



「シノギってなんのバイトをしているの?」

「それは言えない。コムルミはオコチャマだからねぇ~」

「私もお金がないと食えるものが食えないよ」

「ショーセイ君、コムルミにできそうな仕事ってない?」



 このアパートの一室は将星と里琴の家らしい。



 いわゆる内縁夫婦というやつか?



「ルミちゃんがどういう仕事をしたいかによる」

「う~ん、どういう仕事って言ってもなぁ……」



 そう言いつつ流美は刺青がビッシリと入った将星の上半身を見つめる。



 何か普通な感じがしないとは思っていた。



 だからきっと里琴の言うシノギというのも……おそらくは。



 結局、流美は将星の紹介でコンビニのアルバイトを始める。家庭の複雑な事情などは将星が店長へ懇切丁寧に伝えてくれた。



 だけど彼女の働きぶりはあまりいいものではなかった。



 それは本人も自覚するところであったのだろう。



 出勤3日目で辞めることになった。



「カンパーイ」



 3人で円卓を囲み、1日の終わりを労う。ここで流美は大人の味をまたひとつ味わうことになる。酔いはあっという間にまわって彼女は眠りにつく。



 何時間かして目が覚めた。



 里琴の黄色い声と激しく交わる音。



 流美はそこで大人の営みを知った。



「コムルミ。鼻血がでているよ? 大丈夫?」

「あぁ……なんか凄い夢をみちゃってさ」

「酒も煙草もエッチも慣れだよ」

「そうだね……あの……里琴さ、何か着たら?」

「あぁ……あっはっは……みなかった事にして」



 これまでそういったことを流美の為に控えてくれていたのだろうか。



 なんだか……そう考えると、申し訳ないようでもあり。羨ましくもあり。





ーー映画「ギャルズ・リターン」にコメントを!


弥生双吾:とても若い監督、それも女子の監督という事でどんな作品になるかな……と思っていたら、凄くリアルでハードな人生と青春を描いた作品なんだなって台本を読みながら感心して。私の演じる高畑という教師は良くも悪くも古臭さに囚われた男なんですよ。でも、不思議と他にでてくる悪い大人たちとは違う。なんか憎めないんですよね。すず監督はとても若い監督で……今プロで監督をやっている監督じゃ1番若い監督さんじゃないかな?だけど若い世界観に囚われていないのが凄いなって思いますよ。

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― 新着の感想 ―
良い感じのヒューマンドラマですね。 こう思春期特有の倦怠感と退廃的な空気が 上手く醸し出せてますよね。 うん、こういうの好きです。
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