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『辺境伯一家の領地繁栄記』第二章:スキル育成記~最強双子、成長中~  作者: 鈴白理人
今日もアクアオッジ家は平和です

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㉝空回りしちゃった王子



 ……どういうことだろうか。

 

 婚約者を持つ令嬢が『男と遊びに行ってる』だって!?

 

 僕はメリル一筋なのに……


 さすがに自分が一筋だからといって相手にも強制するつもりは無かったが、婚約者としてもう少し甘い時間を持ててもいいんじゃないだろうか……

 未だに噛み噛みで名前まで間違えられる始末なのだから――


 いつもメリルが魔法の鍛錬をしているという騎士団の鍛錬場までやってくると、きゃっきゃと賑やかな声が聞こえてきた。

 こんな時にでも自分は彼女を真っ先に探してしまうらしく、まず目に入ってきたのは極上の笑顔のメリルだった。

 

 すかさずメリルと一緒の面子を確認すると、隣にいるのはおもちゃの木刀を手にしたどうみても一桁台の年齢の男の子だった。


 (男って子供か……)

 がっくりと肩を落とす王子。


 あとはいつものメンバー、ウィルフレッドと執事のソル。今日のソルは鍛錬に適した服を着ている。

 

 そして、派手な赤毛をしたムキムキマッチョのオネエ……

 ではなく、騎士団副団長のアレン・フィッシャーがニコニコしながら男の子に剣術を指南しているようだ。

 彼は二年に一度行われる国王陛下への御前剣術試合で準優勝を獲得し続けている。優勝はアクアオッジ騎士団の団長が同じだけ獲得しているので、万年準優勝なのは致し方ないところであろう。



"あら? 腹黒王子じゃない"


"あとちょっとで学園でも会えるのにね"


"いつ食い気が色気に変わるか分からないから心配なんでしょ"


 いつもながら精霊たちは正直だ。 

 彼らの声はウィルフレッドとメリルにしか聞こえていない。



 精霊の声が聞こえるウィルフレッドとメリルを皮切りに、皆の視線が一斉に王子に向いた。


 跪こうとする皆に「どうかそのままで」と王子が言うと、元気いっぱいのメリルが近寄っていく。必ずお土産があると知っているので、足取りも軽いのだ。


「メリル。そろそろお茶の時間だろう? これをもらってくれないか……」


「えっ? いいんですか!? わーい何だろ」


 お行儀もへったくれもないメリルが大きいバスケットをむんずと開くと、サンドイッチがこれでもかと入っている。


「タウン・ハウスの茶会で、最後の一つのツナマヨサンドイッチを僕が食べてしまっただろう? これは罪滅ぼしと思って手に入れたから持ってきた……」


 メリルにだけは嫌われたくない王子が言い訳のように説明するが、そんなことはとっくに忘れていたメリルとウィルフレッド。


 ウィルフレッドは思い出す。

 そういや王子殿下、あの時じっと自分の指を見つめていたっけ。

 ずっと考えてたのかあ。いいとこあるけど、でもなあ。


 ツナマヨはアクアオッジ領の特産物で、この領に住んでいれば珍しい食べ物では決して無い。王子は特産物ど真ん中の産地に、わざわざ王都で手に入れた品を持ってきたことになる。

 らしくないチョイスだなあと思う。

 そういや罪滅ぼしとか言ってたか。

 メリルの食欲に合わせてたら何にも食べられなくなっちゃうから気にしなくていいのに。


 だが、メリルは満面の笑みになった。

「いっぱいある! ありがとうございます、アンドリュー王子殿下。今からお茶なので出してもらいますね」

 そうそう。食べ物が沢山あればそれでいいんだよなメリルは。


 王子の名前を間違わなかったのは食べ物のなせるわざか。

 ウィルフレッドのメリルを見る目がジト目になる。


"まだまだ色気より食い気ね!"


"メリルが色気に目覚めるとかそんな日が来るのか?"


 しっかり精霊たちの声が聞こえているメリルはぷうっと頬を膨らませた。

 ベンチで待機していて用があるのを察して近づいてきた侍女にバスケットを手渡すと、侍女は鍛錬場から離れた。もうじきお茶の時間だからティースタンドに並べ替えてくれるのだろう。


 副団長のアレンが「ステラ、こっちよ。一緒にお茶の準備始めちゃいましょ」と、侍女と一緒に休憩所に向かう。

 ステラと呼ばれた侍女は年の割に何事にも動じず感情も常に一定なので、メリル専属の侍女兼護衛として抜擢された。


 実は魔族なのだけれど、アクアオッジ一家とソル以外にはその素性は隠されている。


 彼女を推薦したアクアオッジ家の長女カーラが言うには、【鑑定スキル】を持つ第三王子用に、【偽装スキル】によって、カモフラージュされた経歴が表示されているそうだ。

 『彼女(ステラ)は刺激を求めてるからメリルの側に置いてやって』だそうである。 

 

 さすが、長女という肩書きも伊達では無かった。誰が一番トラブルメーカーなのか、末っ子のことをよく分かってる。


 カーラは、領主館に戻って来たときにこっそりメリルに耳打ちしてきた。


『メリルの婚約者、アンドリュー第三王子だっけ。将来有望じゃない? 十五歳だから実力はまだまだだけれど、努力することを厭わなければいずれ大物になりそう。リディアも珍しく認めたみたいだしね』


"まっこと、左様。なかなかに見どころのある小僧だったわい"


『ありゃ。グランディエルがちゃんと起きてる』

 声が聞こえたメリルが言うと、カーラが鞘をぺシっと叩いた。


"あうちっ。メリルよ、儂を爺のように言うでない。活性化された魔力を浴びて若返ったんじゃ"


『グランディエルは、王子の魔力を浴びて起きてる時間が増えたんだ。おかげでずっとしゃべってて、うるさいったらありゃしない』


"この国の王族は、懐かしい魔力持ちだからな"


『ほえー。そうなんだ』





『あ、そうだ。もうじき学園入学だよね? ちょっとだけ忠告しようと思って来たのを忘れるところだった』


『カーラ姉さま?』


『よくお聞き。おそらく学園で、リディアとひと悶着あった家門の厄介な女に絡まれると思うけれど、ドンと構えておいで。いざとなったら王子がなんとかしてくれるだろう』


『うん? 絡まれるのやだな。けど分かった』


(……カーラ姉さまもリディア姉さまもいつの間にオンドリャ王子に会ったんだろ?)


 メリルは思ったが、説明がないということは、今は必要のない情報だとカーラ姉さまは思っているということだ。なのでメリルが疑問を口に出すことはなかった。


 アクアオッジの人間は、察しのよさと、無駄なことに対する諦めの早さは天下一品なのである。



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