㉜挽回したい王子
晴天続きのとある昼下がり、ラザナキア王国の王子たちが住まう王宮に新しく作られたドラゴン留まり――
「それで、またアクアオッジ家に行くのか? 学園とやらですぐに番には会えるのだろう? ヒトとは何とせっかちなのだ。さては『呪いの核』を滅したときに恋しくなったか」
鱗が蒼く美しいドラゴンが、金髪緑目の見目良い青年に対して語り掛ける。
「まあ、あそこの食い物は美味故、訪れることにやぶさかではないがな」
ヴィアスソライルの鼻息が荒くなり、砂がばふん、と吹き飛んだ。
牛一頭、とかそういう大雑把な食べ物ではなく、人型になって、ちゃんと調理されたアクアオッジ家の食事を好んで食べている。
「……ああ。この間……そう、ちょっとしたミスをしてしまったんだ。だから挽回しないと」
学園入学直前で、とてもじゃないが時間が全く取れなかったアンドリュー第三王子がようやく許された自由時間。しばらくアクアオッジ家のタウン・ハウスに入り浸っていたのと、王太子の兄についていって『呪いの核』を滅するというつけを払っていたせいでもあるのだが。
装着された鞍に跨ると、ドラゴンは上昇する。
タウン・ハウス全焼事件と、土地の浄化も片付いて、新たなタウン・ハウスを建築中のアクアオッジ一家は自領に帰ってしまっていた。
王都であれば理由をつけていくらでも会っていられるのだが……彼らは辺境伯領をこよなく愛していて、王都は所詮仮住まいでしかないのだ。
そうそう。さっき蒼竜ヴィアスソライルが言った言葉を反芻して、思わず口角が上がった。
(番! 何ていい響きなんだ! メリルが僕の番……!)
自然と頬が緩んでしまうのを止められない。
◇ ◇ ◇
「あらあら。いつもありがとう。アンドリュー第三王子殿下」
王子がアクアオッジ家に到着すると、真っ先に行うのは現辺境伯奥方アドリアナへお土産(賄賂ともいう)を渡すことである。
王都での流行りにかけてすっかり情報通になった王子は、今日も今話題の菓子を手土産にしていた。
「それで、メリル嬢はどちらに……」
「それがねえ……」
いつもなら(賄賂をもらって)ニコニコと笑みを絶やさないはずのアドリアナが、気まずそうに言い淀んだ。
「もしかして、メリル嬢はお身体の具合でも!?」
そんなこと(ありえ)ないわ。身体は大丈夫。元気が有り余ってしまってるのね。と前置きがあった。
「男の子とちょっと遊びに行っちゃってるみたいなの」
アクアオッジ辺境伯夫人の言葉が足りないのは、今に始まったことではないのだが──
ショックを受けて頭がガンガンし始めた王子に、ウィルとソルも、ついでに言うと副団長も一緒よ、というアドリアナの言葉は入ってこなかった。




