㉙発動しない【鑑定スキル】
蒼竜ヴィアスソライルは、やっと終わったとばかりに羽を広げた。
「先にドラゴン留まりに戻っておく」
「分かった」
バサッと音がしたかと思うと、ドラゴンはあっという間に飛び上がり、見えなくなった。
(相変わらずあっさりしているんだな)
だが、その淡白なところが、アンドリューには心地よかった。
周りには隙あらば近寄ってくる人間が後を絶たないから──
だからこそ、メリルのことを気に入っている自覚もある。
(僕の身分に媚びへつらわない、数少ない一人でもあるから……)
名前を間違えないで言ってくれる日はくるのか。それはまた別の問題だ。
(それに……)
ドラゴンが自分の側にいるのが何となく腑に落ちた。
(王宮に戻ったら、話し合わないといけないだろうな……)
おそらく最初からこういう事態を想定していたのだろう。アクアオッジ家と繋がりがあるのも条件だったのかもしれない。
今後も、この国が数々の陰謀に巻き込まれていくのは間違いない──
「あらあら。ドラゴンは素早いわね」
メリルに会いたい……王子がそう思っていると、背の低いほうの女が痛そうに喉をさすりながら、かすれた声で言った。
無理もない。
聖竜の手を借りなければならないほど、滅するのが手ごわい呪物でもあったのだ。
「塀は『呪いの核』が外部に漏れないように設置したのでは?」
アンドリューは質問する。目的が同じだということが分かったので、それくらいは許されるだろう。『設置した急ごしらえの塀がいい働きをした』という言葉が気になったのだ。
「……ふふっ、逆よ。あの塀は中に入れないように、ではなく、外にいるわたくしたちの動向を掴まれないように作らせたの」
「……え?」
(それは、どういう?)
また疑問だ。余りにもいろんなことが一気に押し寄せて、混乱気味のアンドリューはそう思った。
「塀で囲ったこの場所は、敵をおびき寄せる囮として作らせたの。見事に引っかかってくれたと思わない? 予定外の男の子も釣れちゃったけれどね」
(男の子、だって? 自分だって僕とそう変わらない年じゃないか)
丁寧な言葉使いだが、アンドリューとそれほど目の前の少女は年は違わない。二、三歳ほど年上だろうか、という年齢に見える。
──鑑定してみるしかない。素性も分からないままなのだから。
アンドリューの瞳に蒼光が煌めき、目の前の女性をまっすぐ見つめた。
【鑑定スキル】
左目にいつもの魔法陣が出現し──その途端、バチッと魔法陣がはじけ飛び、雷のような閃光が走って、瞬間的な痛みに思わず王子は左目を手で覆った。脳膜に焼き付いた残像がしばらく消えず、冷たい汗が背を伝う。
「……ッ!!」
「……あら……貴方、【鑑定スキル】持ちなのね……。いいことを教えて上げるわ。相手の魔力総量のほうが多くて、鑑定されることを望んでいない場合はそうなるのよ」
(なんだって……!?)
鑑定能力に自信のあったアンドリューは、余りの衝撃に目を見開いた。




