㉖二つの影
その時──
塀の扉が勢いよく開いて、二つの影が飛び込んできた。
同時に何か小さな布切れのようなものが飛んでいき、穴に吸い込まれると、唸りを上げていた風が次第に衰えていく。
勢いよく上がっていた火柱が掻き消え、振動が鳴りを潜めると、激しく巻き上がっていた風が嘘のようにぴたりと止んだ。
周囲に静寂が訪れると、黒装束の男たちが、どさりと崩れ落ちた。
大きな動きはないが、口からひゅうひゅう音がしていて、意識を失っただけで命はまだあるようだと、アンドリューはほっとする。
「……間に合ったわね。こんなにも早く行動を起こすとは……」
「設置した急ごしらえの塀がいい働きをしたんじゃないか? これで『奴』が生きているのがはっきりしたな」
ローブのフードを目深に被っている二つの影の声は、どちらも女のものだった。
アンドリューは侵入者の仲間かと思ったが、女たちはうんざりしたように、黒装束の男たちを遠巻きに見ながら近寄ろうとしないので、仲間ではないと判断する。
「いったい……」
自分の思う奴と、女の言う『奴』が違うのだけは分かった。……が、また自分は何の役にも立たなかった。
王子が悔しさに唇を噛むと、背の低いほうの女がふっと微笑んだ。
視界がヴィアスソライルと共有されているので、暗闇にもかかわらず、女たちの姿形がはっきりと見える。
「この特殊な状況を解決するために、わたくしたちが来たの」
唄うように小さなほうの女が言う。
その声音には、言葉以上の何かが感じられアンドリューは目を細めた。
歌声のようでもあり、優しいイントネーションを持つ不思議な声には、何とも言えない安らぎが感じられる。
一方で背の高いほうの女が、吊帯の金具と鞘が擦れる金属音を立てながら、アンドリューのほうに数歩歩み寄る。
「少年。己の無力さを恥じることはない。悪魔がらみで通常のヒトがやれることは少ないんだ」
"まっこと、左様。小僧よ、これからおこなう聖剣グランディエルの武勇をとくと見るがよい"
「え?」
最後の声は女たちのものではなかった。
新たな三人目の声に暗がりの中で目を凝らすも、二人分の姿しかないのがどう考えても奇妙だ。
背の高いほうの女が慌てて「こらっ!」と口にすると、"おっといかんいかん"と、まるで反省していない声が叱責に応じる。
三人目の声はとんでもないことを言ってなかっただろうか。
(……聖剣だって!?)
アンドリューは目を見開いた。
目の前には二人の女しかいないが、剣から確かに声が聞こえたのだ。
真っ暗闇の中、何かを言う隙を与えず、謎の二人の女たちは背中合わせに立った。
なにをするつもりなのか──




