㉕殺すか殺さないか
男たちが抵抗しているうちに、火柱が一瞬にして勢いよく伸び上がった。
夜の闇と沈黙を引き裂くかのように、赤光があたりを照らして轟音が空気を濁らせる。
灰が炎に飲み込まれて爆ぜ、耳をつんざく破裂音と焦げ臭い匂いがあたりを満たし、僅かに残った建物の残骸までもが穴に吸い込まれていく。
「うわああああああ!」
「何だこれは! 引きずられる!?」
叫びまでもが渦に呑まれ、かき消される。
男たちの恐怖に支配された瞳は、地獄の口へ落ちていく運命を直感し、見開かれていた。
──ただ一人、アンドリューを除いて。
彼は、ただ静かに立っていた。
熱風が頬を叩き、外套が荒れ狂う風に翻弄されても、彼は揺らがなかった。
まるで渦そのものが彼を避けているかのように、灰の一粒すら彼の身体に触れることはない。
虹彩が幾重にも光を放ち、縦に細まった瞳孔は、ただ穴の奥の紅い輝きだけを捉えている。
──あそこに、目的のモノがある。
男たちの悲鳴も、炎の轟きも、彼には遠い雑音に過ぎなかった。
耳に届いているはずなのに、意識の奥底で押し流され、意味を成さない。
一人の男がとうとう力尽きてバランスを崩し、尻もちをついた。
それでも引き込む力は止まらない。爪が土を掻き、指が擦れて血が滲んでも、必死の抵抗は無残に打ち砕かれる。そこいらの灰と同じ物質でしかないのを残酷に物語っていた。
抵抗虚しく、ズリズリと穴に引き込まれていく……
「助けてくれ!! どうか!」
「助けてくれええ!!」
ダメだ。
こいつらを殺させちゃいけない……!
穴に吸い込まれたら命はない。
だが、ここにいるのは人身売買に関わっている奴らで、辿ればソルを隷属させた事件に辿り着く。悪しき者なのに、殺してはいけない矛盾。
アンドリューは相反する思いに冷や汗を流した。
おそらくこいつらは穴の中のモノに『喰わせるために』送り込まれてきたに違いない。探し出す物を詳しく知らされていないのが何よりの証拠だ。
そんなことになったら、奴は力を取り戻してしまう!
喰らわせて力を与えちゃいけない!
……だが、なんでそんなことまで分かるんだ?
どうして確信できる?
額から汗が流れ落ちる。
心臓が不安定に脈打ち、耳の奥にかつて聞いた耳障りな金属音のような声が、しきりに"こっちへ来い"と訴えかけてくる。
視界の端で、逆さまになった額縁が幻影となって、ゆらりとちらついた。
──ああ、そうか。
唐突に理解がやってくる。
身体の奥底に眠るスキルの断片……
僕には【古代生物の依代 Lv-】スキルが──




