⑳いろんな思惑が交差する
「……メリルが言ってたのは正しかったんだね……」
ウィルフレッドがぼそっと呟いた。
上り階段は納屋に続いていて、床には複数の足跡が残っていた。
つい最近もこの階段が使われたのが分かる。
轟轟と音を立て燃え盛る炎が館を飲み込んでいくのを、みんなはただ眺めていた。
火元が館の外れだったのがせめてもの救いだった。館にいた従業員や護衛騎士たちの脱出が間に合ったからだ。
王子も申し訳なさそうに付け加える。
「ただの絵に何を言ってるんだろうって思ってしまっていた。ごめんねメリル」
「分かってくれればそれで。わたしだって絵が悪魔だなんて思わなかったから。それよりソル、身体は大丈夫?」
ソルがにっこりとメリルに微笑んだ。
「ええ。もうすっかり。ただあの悪魔、想像以上に強かった……従属契約の仇を討って頂いて感謝します」
炎に包まれた館はあっという間に燃え尽きた。
幸いだったのは、土地がやたらに広いせいで、他家の館には延焼しなかったことと、館は奇抜な建築設計のせいで住居部分が少なく、従業員たちの住居は別館だったことだろう。
メリルが母にはそれほど叱られなかったのは、一家のみんながこの悪趣味な館を嫌っていたから。
ただ、父にはこっぴどく叱られた。暴走ともいわれる巨大魔法を、制御できずにポンポン放っていたツケがとうとう回ってきたのだ。
「メリルは魔法の制御をしっかり学園で学んでこーい!」
「うえ~……」
さっそく課題を叩きつけられ、肩を落とすメリル。
学園でしっかり勉強しなくてはならなくなった。
母アドリアナはずっと嬉しそうにしている。
「燃えちゃって良かったわあ。これで新しいタウン・ハウスが建てられるわね」と満足げだった。
後日、下働きの一人が消え失せていることが判明した。前侯爵の時代から勤めていた一人だったが、他の従業員とは交流がほとんどなくて、出生も育ちも謎のままで、それ以上は突き止めることはできなかった。
◇ ◇ ◇
ウィルフレッドとメリルの学園入学があと数日、という日まで迫ったある日の午後──
タウン・ハウスの敷地内にある東屋に、今回の事件の当事者みんなと辺境伯が揃っていた。
執事姿のソルの給仕でお茶の時間を楽しんでいる最中だ。
三段のティースタンドは全てメリルが平らげ、慌ててメイドが追加のお菓子や軽食、セイボリーを運んでいる。別館もやたら広くて大きいので、一家も王子も別館に滞在中だった。ツナマヨのサンドイッチはよっぽど急がないとメリルに食べられてしまう。
一家はいつでも望めばドラゴンが領地に連れて帰ってくれるのだが、全焼した館跡地に新たなタウン・ハウスを建てる打ち合わせをするために王都に残っている。一人一台のベッドが最重要課題だ。
「あの悪魔はさ、額縁に封じられている間は外の状況が分からなかっただろ? だから身動きが取れなくなる前に、せめて隠し通路のありかを暴いてやろうとあんなポーズになったんじゃないかな」
「そういうことだったのかあ……それにしても、わたしが『絵』がどういうものかを知ってたら、みんなにあの『絵』がおかしいって伝えられたのにね」
「あの絵が回転するって気付いたのもメリルだったよね。意外と観察眼が……」
「王子殿下ほどじゃないかなあ……推理すごかったね! 頼りになった」
「メリル……」
王子は嬉しそうに笑顔になったが(名前呼びされてない……さては、また名前……)
すぐに笑顔が引っ込んでしまった。哀れ。




