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『辺境伯一家の領地繁栄記』第二章:スキル育成記~最強双子、成長中~  作者: 鈴白理人
今日もアクアオッジ家は平和です

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⑲バタンキューか生き埋めか



「今だ、メリル! あの絵を光魔法で焼き払え!」


 アンドリュー王子の声が響いた。


 今なら王子が真名を支配してるから、敵も弱くなってるんだっけ?

 それならやるしかない!


 目まぐるしい状況に慌てていたメリルだったけれど、王子の言葉で自分がやらなきゃいけないことを正確に把握する。

「やってやる! というかやらないとやられちゃう!」


 戦闘ポーズを取りとてつもない大きさの光の玉を生み出す。神々しい光に照らされるメリルは、ポーズはさておき美しかった。

 

 まるで陽の光そのものに導かれるように、精霊たちが次々に光の玉に集まっていく。


"メリル行け~"


"わたしも手伝う!"


 光の精霊がちょちょいとメリルに向かって指を振る。と、ますます光の玉の光量が増し大きくなる。


 光の玉が、身長どころか天井まで届きそうな、とんでもない大きさになったのを見て、メリルがにかっと笑った。



「見よ、超特大の光玉を! お前なんかに血液チューチューされてたまるもんかぁ……重ねがけの玉を喰らえー!」



 その時、額縁を覆っているひび割れた結界が、パリーン……と音を立てた……




 結界がバリバリと割れ、悪魔の両腕が勢いよく飛び出したのと、ほぼ同時にメリルの放った光の玉が、迎え撃つかのように光の爆発を起こした。


 何も見えなくなるほど光が部屋中に満ちた直後、光の玉が直撃した悪魔の両腕が、蠢く指先から真っ黒く焼け焦げていき、破片となってポロポロと崩れ落ちていく──


 ようやく目を開けていられないほどの光量が収束していくと、光で焼け焦げた悪魔が、裂けた口からぼそぼそと、何かを呟きながら見る間に溶けていった。


"バカな……たかがヒト如きに……"


 悪魔の最後の呟きを、みんなは確かに聞き届ける。


 空っぽの額縁だけが、まるで何事もなかったかのように壁に残ったまま──

 



 

 ……が。


「……なんか熱くない?」


 メリルが灯りを取るため火で燃やしたソファのほうを向くと、火は壁に燃え広がっており、バチバチいいながら壁全体に広がって、そこはもう一面火の壁になっていた。


「げぇっ」

 燃やした張本人が令嬢にあるまじき声を上げる。


「精霊たち、火を消せないかい?」

 ウィルフレッドが精霊たちに頼み込むと、なぜか精霊たちが慌てている。


 精霊ウンディーネが首を傾げている。

"水をかけても勢いが増すばかり"

 

 精霊シルフィードも右往左往している。

"空気を遮断しても別の場所に燃え移っちゃう。いっそ部屋全体の空気を抜いてみる?"

 

 ウィルがブンブンと首を横に振りながら、ぎょっとしたようにシルフィードを凝視した。

 メリルもそれに倣う。風の精霊は勢いなだけの発言が多いから、勢いだけでやる予感がする。絶対やる。

 本当にそれをやられたら、みんなで倒れ伏して遭難する未来しか見えない。


「いや、それだと僕らもバタンキューだ」

 ウィルが焦ってそう言うと、シルフィードがプッと笑った。

"バタンキュー、だって! アハハおもしろ!"


 ウィルの発言だけ聴こえた王子とソルが、目に見えて真っ青になった。

 ろくな提案じゃないことを、すぐに察したんだろう。その通り~♪


 精霊ノームが空中で胡坐をかいて、ウンウン唸っている。

"いっそ、この地下室全部を地中に埋めてみるかのう?"


 ウィルが静かに首を振った。ちょっと諦めが入っている。

「僕たち生き埋めになっちゃうからやめて……」


「いったいどういうことになってるんだ……?」

 王子はそう言うけれど、通訳必要かな?

 今真相究明するのは、そこじゃない気がする。 


 精霊サラマンダーがトカゲ姿のまま、ウィルフレッドの肩に乗ってオロオロしている。

"炎が我の言うことを聞かない"


 ああ、なんかまともな発言に思える。

 って、よくないよ。




 このままじゃ焼け死ぬ。

 精霊たちの力じゃ、この炎は消せないということだけは分かった。

「自力で何とかするって言っても……ごふっ」


「喉、大丈夫?」

「大丈夫、じゃない……イガイガゴロゴロする……」

「煙効果、か……」


(魔法って精霊の力を借りて発動させるから、ウンディーネが"水をかけても勢いが増すばかり"って言ってたのが怖すぎて水は使えないや……)


 細かい調整で魔法を出せないので、ドカンと水をかけたら大惨事になってしまう、かもしれない。

 うーんうーん、やってみないとわかんないかな?

 どうしようかな、と唸っていると、みんなもそれぞれの派生スキルを思い浮かべながら、どうにか応用出来ないか考えているのが分かった。


「じゃあ、熱くて死にそうだし、喉が痛いから、ウンディーネ、僕たちをびしょぬれにしてくれない?」


"分かった! 濡らせばいいのね?"


「うん。時間稼ぎだけど、熱くてたまんないから」


 最初にみんなが降りてきた階段が壁ごと焼け落ちて、ドーン! バリバリバリ! と大きな音がした。



 ウンディーネがみんなの頭上に、小さなタライ一杯くらいの大きさで水の塊をプカプカ浮かせて、そのまま落下させた。

 絶妙な匙加減の水の量だったけれど一部多かったらしく、水が流れて壁のほうに行き着くと、ごうっと炎の勢いが爆上がりする。


(ひえええ! ウンディーネの言ってたことホントだったんだ!)

「わたしが水魔法で消そうとしなくてよかったぁ……」


 危うくみんなをミナゴロシにするとこだったよ……

 ……まあ、わたしがソファを火だるまにした時点で、そうなってるんだけどね……


「うん。だからメリルじゃなくてウンディーネに頼んだ」

「ウィルフレッドが冷静で本当に良かったと思う」

「メリルお嬢様の力はどちらかというと攻撃寄りですからね」


 ……ソルの気遣いが、こんなに居たたまれなかったことって、これまであった!?

 


 今や天井にも火の手が伸びていて、バラバラと木の破片が落下してるし、煙の量もどんどん増えてきた。

 

 焼け死ぬ前に煙を吸い込んで倒れちゃいそう。

 これはやばすぎる。完全に万事休す、だ。

 



 その時だった。


 アンドリュー王子が何かを思い出したようにハッとすると、額縁のほうに歩きだす。


「あの悪魔、最初に見たときさかさまだったけど何かを指さしていたよね? どこを指していたんだろう……?」

「さかさまになってまで、何を指していたんだろう」

「どうして指していたんだろう」

(必ずあのポーズをするに至った理屈があるはず──)


 人に聞かせるようにじゃなく、まるで自分に言い聞かせるように、次々と疑問を投げかけている。

 考えるのが苦手なメリルには、どの問いもさっぱり分からなかかった。




 だが、解くことを得意な人はいるもので──まさしく王子がそうだった。

「分かった。……予想が正しければ──」

 水を滴らせながら、王子が欠けた円形部分のほうに歩きだす。


「この地下室は、上部を切り取ったような円形構造なのに、左右対称じゃないんだ」

「左側方向には、もう落ちちゃったけど階段があって、人の出入りがそっちなら、床の傷は当然そちらが多いはずだろう?」


 言いながら王子は何かを置く台座に近づくと、台座の裏を覗き込む。


「だけど、ここから右側方向のほうが、床の木の傷が多いんだ……」


「あったあった」


 王子が何かを押したのかカチリ、と音がしたかと思うと横滑りに壁が動いて、ぽっかりと空間が姿を現した。

「この壁の下、床の傷が一番多かったんだ」


 これには全員驚いてしまう。

「なんで分かったの!?」

「答え合わせはあとで! 早く脱出しよう!」

「う、うん!」


 空間の先は上り階段になっていて、幸か不幸か燃え盛る炎が灯り代わりになって、しっかり出口まで見える。


「急げ!」


 うん急ごう。

 階段を下りたときよりずっと機敏ですよ。怖くないし。


 脱出出来ると分かったみんなの逃げ足は速い。



 早く逃げなくちゃ。地下室を飲み込もうとしている炎が、新たな空気を求める前に。




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