彷徨う
私は、人目を避け、王都の中でも最も人の少ない、いわゆるスラムのような所を、度々行く宛もなくさすらうようになりました。とは申しましても、夜には小屋に戻って休みますので、専ら昼の間だけの話なのですが……。
人通りの少ない路地裏を彷徨い、そして誰も居ない所を見つけると、そこの地面に座り込み、ただぼんやりと何も考えないようにして……いえ、本当はエレナ様の事がどうしても頭に浮かんできてしまうのですが、それを考えないように、考えないように、と思いながら、そこでただじっと静かに過ごしていたので御座います。
時おり、誰かが私の横を通る時に罵声を浴びせていくほかは、平穏で、静かでした。
剣士シーレンは、そんな私を少し離れたところで見守っておられました。
そんな折、エレナ様が亡くなってしまってから二、三週間程した頃、私は魔術師マーレの研究所に呼ばれました。
剣士シーレンもわざわざ私について来てくれる中、私がマーレの研究所へ行ってみますと、マーレからこう言われました。
「エレナがああなってしまって、あんたの所に採血しに行く召使いがいなくなってね……。他の人に頼もうとしたけど、もう誰もあんたの所には行きたがらないんだよ。だから、大罪人さん、あんた週に二回、うちに昼間寄っておくれ。時間はいつでもいいからさ」
もちろん、私がこの申し出を断る事は出来ません。「不逆の呪い」が有るのですから。
こうして、私が失意と悲しみの中、週に二回、マーレの研究所に採血を受けに通うようになって、しばらくしたときの事でございました。
以前から、分かってはいたのでございます。
私が研究所に行くと、いつも決まってとある職員が居るのです。
まあ、それだけであれば、私はいつも週の決まった曜日に研究所に行っていますので、その曜日に勤務している職員であろうと思うだけなのでございますが……
その職員は、私が来ると、私が研究所にいる間ずっと私の方をじっと見ているのでございます。
若い、女性の職員でございました。
自分に恨みでもある人なのだろうか……? それとも、ただ自分のような呪いを受けた人間が珍しいだけ……?
私は、その職員の事を気にはしておりましたが、しかし彼女と特に話すことも無く、用もありませんし、彼女の意図など気にしても仕方ないと思いながら、研究所へと通う日が続きました。
その後……数カ月経ったときでしょうか。
エレナ様の殺害者も全く見つからず、もうどうしょうもないと思い始めておりました、その矢先の出来事でございます。
不意に、彼女から……私は、話し掛けられました。
「ねえ……あなた、大罪人の元勇者よね?」
私は、少しばかり意表を突かれ、やや動揺しながらも、「はい」とお答えしましたところ、彼女は「やっぱりそうよね! あのさ、じゃあ聞きたいことがあるんだけど……」と、私に語りかけてきたのでございます。
この時の私は、彼女が一体何を考えていたのか、全く分かっておりませんでした。
そして、その後に何が起こるのかも。




