優しくされて
その女性……マーレの研究所で出会ったその女性は、名をヘレネと名乗りました。
彼女は、目元のはっきりとした、美人の類に間違いなく分類されるような…しかし、どことなく、何となくではありますが、冷たい感じと申しましょうか…言葉で表現することは難しいのですが、優しいのに、何か裏があるような…そんな感じの方でございました。
「今まで大変だったんですよね」
彼女は、私にそう言いました。
「私、特に個人的に恨みなんかがある訳じゃないし、あなたのこと、憐れむって訳じゃないけど、意地悪とかしたら…ほら、かわいそうって言うか、あなたのことを庇うのは駄目なのは知ってるけど…何だか気の毒で」
彼女は、そうも言いました。
「あなたに普通に親切にしてあげるのは、特に問題ないのよね? 許されてるのよね? だったら、私、あなたに親切にしてあげたいと思うの」
彼女は、そう言って私に微笑んだのです。
「…有り難うございます」
私は、エレナ様を亡くしてからというもの、人の好意などというものには…あまり感謝をする余裕もございませんでした。ですから、その時には特に思わず、形ばかりの感謝だけで研究所を後にしたので御座いますが、彼女…ヘレネは、それ以来、私がマーレの研究所に通う度に、私に話し掛けてくるようになりました。
何度か話し掛けられるうちに、私も会話をするようになりました。
彼女から色々と尋ねられて、それに答えるようになりました。
「へえ~っ、そうだったんだ。大変だったね」
「そんなきつい目に遭って、私ならそんなの耐えられそうに無いわ。辛かったね」
彼女からは、そんな言葉を掛けられるようになりました。
「…今まで自分がやってきた事を思えば、仕方の無いことです」
私はそう答えておりましたが、内心、少しばかり嬉しくもありました。
今まで、慰めの言葉など、エレナ様以外の方から受けたことは殆ど有りませんでしたから。
いま思えば、少しばかり心が弱っていたのかもしれません。
無意識の内に、誰かに認められたかったのかも知れません。
私は、週に二回、マーレの研究所に行くことが、少しばかり楽しみになってきてしまっておりました。
彼女…セレネは、私が研究所に行く度に、私に笑って話し掛けてきました。
私も、そんな彼女に、少しばかり笑顔を出せるようになってきました。
短い時間ではありましたが、私が採血され、その後少し休む、その間に、よく彼女と会話を致しました。
彼女に対して恋愛感情を抱くとか、そう言うことではなく、彼女を、「自分に危害を加えない、優しい人」と認識するように、私の心は思うようになっておりました。
そうして、数ヶ月が経ちました。
私は、多少なりとも彼女の事を信頼するようになっておりました。
彼女は、私に親切でした。私の話を良く聞いてくれて、そして私の立場で共感してくれました。
そんなある日の事で御座います。
彼女から、ある提案がなされたのです。
それは、私が採血され、椅子に座って休んでいる時でございました。




