分からずじまい
その後も、エレナ様を殺害した犯人探しは、魔術師のマーレによって行われましたが、結局分からずじまいでございました。
神官……いや、この時はもう既に警察機構の長官の一人、と申し上げるべきでございましょう、あのクリフは、最後まで本気で犯人を探そうとはしませんでした。
二、三人の捜査官を派遣した後は、何もしなかったのでございます。
勇者であり、今や王の親戚、そして側近でもあるガンマ様にも、マーレは掛け合いました。しかし、彼もまた彼女のために本腰を入れて動く事は……無かったのです。
なんでも、『子供が生まれて以来、色々と大変だから』だそうで、王女の一人と結婚したガンマ様にとっては、その妻との間にできた子供の立場を少しでも王に近づけるのに腐心しておられるご様子でございました。
唯一、警備隊長のガラン様だけが、私とマーレ様のために警備隊を使って聞き込みをしてくれましたが、『王都の宮廷魔術師の一人』であろうという事以上の情報は、得る事はできませんでした。
マーレ様は、目をかけていた召使いが殺され、大変怒っておられました。ましてや、その犯人が見つからないものですから、その後もしばらくの間、機嫌が悪かったとお聞きしました。
私はと申しますと……その後、この様な事件があったものですから、私に対する暴力行為は、禁止となりました。
また、私を鎖でつなぐ事も、無くなりました。わたしは、王都の中であれば、自由に何処でも行ってよくなりました。
私の為に、新しく小屋が作られ、私はそこで暮らす事となり、そして、私が危害を受けることの無いよう、昼と夜で交代の警備がなされる事になりました。
昼の警備には、以前から私の警備をしていた、剣士シーレンが付きました。そして夜は交代で、警備隊の隊員が一人付くことになりました。
「……俺の一言で……逃げられなかったのか……」
私とエレナ様の殺害時、私が小屋から出られなかった事を、剣士シーレンは後から知って、私にこう言いました。
「そうか…… キーン…… それは…… 済まない事をした……」
それまでは大罪人としか私を呼ぶことの無かったシーレンは、それ以降、私を大罪人とは呼ばず、名前で呼ぶようになりました。
私は、目まぐるしく変わる私を取り巻く状況に、ただ抜け殻のようにぼんやりとそれを眺めながら、ただエレナ様の事だけを考え、そして……思っておりました。
自分が勇者だったとき……何故あんなに簡単に、人を殺していたのだろう。
自分が強かったから? それとも、権力があったから?
自分が勇者だったとき……何で、王になろうと思ったのだろうか。
もっと偉くなりたかった? それとも、すべての民から、崇められたかった?
その時、なんでこう思わなかったのだろう。
『今は強くとも、いつかは老いる、弱くなる。今は権力があっても、いつかは無くなる』
ただ、その事を思ってさえいれば、自分は与えられていたもので十分満足だったのでは無かったか。
そうすれば、エレナ様を失う程までに人から憎しみを買うことは無かったのではないのか。
自分は……愚かだった。それだけは、確かな事だ。
このような大罪人となったから、エレナ様と会うことができた?
このような大罪人となったから、エレナ様を失うことを経験して、大事な人を亡くす悲しみに、気付くことができた?
自分は……大罪人にでもならなければ……そんな簡単な事にも気付けない、愚か者だった……?
ぐるぐる、ぐるぐると、いろんな思いが頭を巡るがまま、私は、ただ糸の切れた操り人形のように……
悲しみに、沈んでおりました。




