↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/55

エレナ様

 前に差し出している私の左手の薬指に、エレナ様は、注意深く針をそっと刺しました。


 指先に、チクリと痛みが走りますが、普段受けている暴力からすれば、私にとっては大した事ではございません。


「……大丈夫ですか? 痛く……ないですか?」


 心配そうな顔をして私に尋ねるエレナ様に、私は、力無く微笑んで答えました。


「はい……いつも罰を受けていますから」


 エレナ様の言葉には、どこか王都とは違う言葉の訛りが有りました。王都から東北の方角の、比較的寒い地方の訛りの様でした。


「そ、そうですか……じ、じゃあ、なるべく早く終わらせますんで……」


 針を刺した私の指から、血が、針を伝って、つうっ……と一滴流れてきたのを、エレナ様は、注意深く小さな小瓶に受け止めました。


 そうやっておられる、真剣な表情のエレナ様を、そのとき私はぼんやりと見つめておりました。


 彼女は……私のようなものが、このように言ってしまうと失礼ではありますが、決して美人ではありませんでした。


 顔は日焼けしているのか、少しばかり浅黒く、シミやそばかすが頬に見られました。


 髪は、少し赤みがかかった茶色……と言ったところでしょうか。これもまた、日に焼けているのか、少しばかり……なんと申しましょうか、ちりちり……と言う表現で合っているものやら分かりませんが、とにかく、貴族の令嬢のような、よく整えられた髪ではございませんでした。


 その様子はまるで、普段は外で農作業でもしているかのような、そのような印象を受けました。


 しかしながら、不思議と、私はそんなエレナ様の容姿を、悪くは思いませんでした。


 その様にして、私がぼんやりとエレナ様を見ておりますと、小瓶に私の血が数滴落ち、彼女は丁寧に、その小瓶に蓋をしました。


「……こ、これで……おしまいです」


 針や小瓶を、丁寧に鞄に入れながらそう言うエレナ様は、こんな作業は慣れていないのか、少し緊張していらっしゃるご様子でした。


 まあ、今になって考えますと、血を採るなどという作業、慣れている人というのが少ないのですから、当たり前でございましょう。それに、相手は私という大罪人だったのですから。


 そんな彼女に、私は答えました。


「……ありがとうございます。マーレ様より丁寧にしてくださったので、それ程痛みも無くて済みました」


 彼女はそれを聞きますと、少し緊張が解けたのでございましょうか……安心したように少し笑って……


「あぁ……終わってホッとしました。そんなに痛くなかったなら良かったです」


 少しばかり東北の地方の訛りでそう言うと、彼女は立ち上がり、最後に私にこう言いました。


「2、3日おきに、参りますね」


 私がその言葉に頷きますと、エレナ様は私に背を向けて、小屋から出て行きました。


 扉を開けて小屋から出るその時、彼女はまた私を見ると、「では……また」とだけ、小さな声で言い、そして出ていったのでございます。


 まるで私を普通の人のように接して下さったエレナ様を、私は有り難く感じたのを、今でも良く覚えております。


 そして……彼女の言ったとおり、エレナ様は、私の所に3日と空けず、おいでになるようになったのでございます。


 最初は少なかった言葉も、段々と多くなり、私とエレナ様は、色んな事を少しずつ話すようになってきました。


 そして……私は、エレナ様の事を、少しずつ知っていったのでございます。


 彼女が、半年くらい前から、マーレ様の召使いとして働き始めた事。


 それまでは、王都から離れた、北の地方のとある町に住んでいた事。


 幼いときに母を亡くし、父も1年ほど前に亡くなったので、独立していた兄たちから離れ、一人で生きていくために働き口を探していたところ、町の長から、召し使いの仕事を紹介されたのだという事。


 彼女は、そんな事を私に教えてくださいました。


 そして、私達は……お互いに色んな事を話すようになってきておりました。


 今思えば……私はあの時から、エレナ様に惹かれていたのでございましょう……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。