もう良いのでは
鎖に繋がれ、私を憎む人、または恨みを持っている人たちから呪いの言葉を吐かれ、殴られ、蹴られ、土下座するように命令され、魔法の的にされ、間違って彼らがやりすぎたせいで死んでしまえば、その罰金は銀貨一枚……。
不逆の呪いを受け、逆らう事も言い返すことも出来ない有様でしたので、相変わらずやりたい放題に打ちのめされる日々を過ごす私でございましたが……夜は、小屋の中にいる事で、罵声を小屋の外から浴びる事はあっても、殴る蹴るの暴力を受ける事は無くなり、多少気持ちは楽になりました。
そして……何よりも、夜は、エレナ様が採血に来る時でございましたので、私は自然と、夜が待ち遠しくなったものです。
この日も、エレナ様は私の居る小さな小屋に、おいでになっておられました。
初めてエレナ様とお会いしてから、はや一年程が経とうとしておりました。
「マーレ様の研究って、横でちょっと見ても私なんかじゃ訳がわからないわ。でも、頭をかきむしってるのを見かける事が多いから、大変なんじゃないかしら」
採血は、もうしばらく前に済ませておられるのですが、この頃のエレナ様は、その後少しばかりゆっくりして、私と話をしてから、そして帰っていく事が常でございました。
「で、キーン様は、もう呪いを受けて20年近くになるんでしょう?」
エレナ様は、私に色々とお尋ねになり、私はそれに何でも答えておりました。
もちろん、私は答えるように言われれば逆らう事はできないので、否応なしにお答えするのですが、エレナ様がなさる質問には、私は自ら望んでお答えしておりました。
「はい……そのくらいになります」
「その間、ずっと人から暴力を受けて、殺されたりしていたんでしょう?」
「……はい。私はご存知のとおり、死んでもまたしばらくすると生き返りますので……」
私の答えを聞いて、エレナ様はよく私に気の毒そうな顔をなさっておられました。
「それって……辛いですよね……」
「……仕方のない事です。私は……そうなって当然の事を……してきました」
私は、多くを殺し、多くを傷つけ、犯し、多くを悲しませてきました。今となっては、そのことがよく分かります。
私のしてきた、あの奢り昂ぶる忌まわしい行いを聞けば、エレナ様もお分かりになる筈でございましょうが……彼女は、私がなんの悪い事をしてきたのか、その点については余り私には尋ねられませんでした。
「でも……もうそれだけ罰を受けたんなら、もうそろそろ、許されるのでは?」
「……分かりません。死なず、また老いもしないので……50年か、100年か……どれ程耐えなけれらばならないか、本当に……分からないのです……天使様は、必ず終わりは来ると仰っていましたが……」
その時、エレナ様は、そんな私の答えを聞いてか、少し悲しそうな顔をなさいました。
「キーン様が罰を受けるようになって、もう20年にもなろうとしてますし……キーン様に恨みを持つ人も、少しずつ居なくなってきてるでしょう? 私なんか、ほら、丁度罰をキーン様が罰を受け始めた頃の生まれですから、個人的に何も思う事はないですし、特に親戚や友人も被害にあった人はいませんし……」
そう言った後、エレナ様は私を見ておっしゃいました。
「もう……もう少ししたら、呪いも解けるんじゃないかしら……いや、解けるべきなんじゃないかしら……?」
「エレナ様……」
エレナ様のそんな言葉は、まるで砂漠の中での一口の水のように、私の心に沁み入りました。
しかし……私は少し、心配でもありました。
女神様は、『憐れんではならない』と宣言されたのですから。
私に同情を向け、こうやって慰めの言葉を掛けてくださるエレナ様は、大丈夫なのだろうか……何か災いが降りかからなければ良いが……
私は、心の隅にそんな事を考えつつも、しかしそれでも、エレナ様の優しさを……私は望んでしまっていたのでございます。




